テイカカズラ
   

中国の習近平国家主席が下した外交戦略は、ことごとく失敗している。香港への安全維持法導入、ヒマラヤ山中でのインド軍急襲、戦狼外交で他国を侮辱した発言がもたらすブーメランなど、すべて中国を危機に追い込んでいる。中国の外交判断の誤りがもたらした「オーバーラン」である。

 

これら強硬手段は、習氏の民族主義によって発動されたものだ。習氏の国内での位置を高める狙いで使われたのである。これらが、中国の世界的評価を引下げており、「嫌中派」を増やす結果になった。先進国による「反中国意識」は、1989年の天安門事件以来の高さである。

 

問題は、中国がこういう事態を深刻に受け止めていないことだ。それだけに、暴走に歯止めがかからなくなっている。懸念されるのは、台湾への軍事行動である。米大統領選後の混乱に乗じて台湾所有の島嶼占領に出るのでは、と危惧されている。米軍は、すでにこの点を織りこんで警戒体制を敷いている。

 


『フィナンシャル・タイムズ』(10月20日付)は、「高まる台湾巡る米中衝突リスク」と題する記事を掲載した。

 

米大統領選では、投票直前の10月に選挙戦に重大な影響を与える「オクトーバー・サプライズ」が起きるというのは言い古されてきた指摘だ。それに比べてあまり言われないのは、中国が米国の今の政治的混乱に乗じて11月か12月に台湾に対し何らかの行動を起こし、国際情勢が深刻な事態に陥るリスクがあるという点だ。米選挙戦を巡る騒ぎで見えづらくなっているが、中国の台湾に対する言動は攻撃性を高めている。台湾は事実上の独立国家だが、中国政府は自国の領土の一部だと主張しており、容認し難いこの「分離主義」と闘うためには軍事力の行使も辞さないとしている。

 

(1)「中国軍機はここへきて頻繁に台湾と中国を隔てる台湾海峡の「中間線」を何度も定期的に越えて台湾側に侵入し、台湾は軍用機を緊急発進させる対応を迫られている。15日には、南シナ海の北部に位置し台湾が実効支配する東沙諸島(プラタス諸島)へ向かう台湾の民間チャーター機が、フライトの途中で引き返さざるを得なくなった。香港の航空管制官が詳細不明の危険があるために同空域は閉鎖されていると通告したためだ」

 

台湾が実効支配する東沙諸島(プラタス諸島)が、中国に狙われている島嶼とされる。習近平氏は、ここを抑えて「勝利」を宣伝し、台湾の士気を挫く戦術に出ると見られているのだ。

 

(2)「何十年にもわたり、中国による台湾侵略の脅威は米国のにらみによって阻止されてきた。米政府は台湾の安全を保障するとまでは明言していない。だが、その代わり戦略的に曖昧さを残す政策を貫いてきた。つまり、台湾に武器を売却しつつも、いざとなれば米国が台湾防衛のために動くかどうかについては明確にしてこなかった」

 

最近の米軍当局者は、台湾を防衛すると明言している。曖昧にはしていない。

 

(3)「1996年の「台湾海峡危機」では、台湾周辺にミサイルを発射した中国に対し、米国は空母を派遣してけん制した。しかし、中国は以来、軍事力を飛躍的に増強させてきた。一方、米国は今、大統領選を巡ってかつてないほど国の分断が深まり、全く余裕を失っている。こうした状況下で米国が従来のように台湾を守り続けるかどうかについて中国政府が懐疑的になっている可能性はある」

 

政治と国防は別である。この点の区別が、この記事ではできていない。同様の誤解を習近平氏がすれば悲劇である。大統領選後の混乱(票数の未確認問題)は、最終的には最高裁へ持込まれるだろう。その時点で台湾問題が起これば、混乱回避で現職の再任という形になろう。

 

(4)「今回の危機の背景には、習近平(シー・ジンピン)氏が中国共産党総書記に就任した2012年以降、中国政府が台湾に対して、より強気な立場を取るようになってきたことがある。習氏は、台湾との「再統一」は自らが最も実現したいと考えている「中華民族の偉大な復興」に不可欠と明言している。また、台湾問題はもはや「世代から世代へ」先送りすればよい問題ではないとも述べている。習氏は台湾を併合することが、自らが毛沢東に並ぶ中国の偉大な指導者となる一歩と考えているかもしれない」

 

習氏のこの「思い上がり」が、台湾攻撃に踏み切らせる。これが、結果的に習氏の政治的寿命を縮めるリスクを含んでいる。自惚れほど恐ろしいものはない。

 

(5)「むしろ中国政府は、小規模な軍事的、経済的、心理的な介入を何度も繰り返して、台湾の士気と自治能力をくじいていく戦略に出る可能性の方が高そうだ。東沙島には台湾が建設した空港や台湾当局関係の建物は複数あるが、一般住民はいない。まさにこの東沙島へのアクセスを遮断するといった措置を取る可能性はある。これに台湾が武力で応じれば、中国政府に反撃する口実を与えることになりかねない。一方、何の対抗措置も取らなければ弱腰と見られ、象徴的な敗北を期すことになる」

 

インド太平洋戦略の4ヶ国「クワッド」(日米豪印戦略会議)が、アジア版NATOへ発展するチャンスを早めるだけだ。これが、NATO(北大西洋条約機構)と連携すれば、中国は台湾へ手も足も出せなくなる。

 

(6)「これ以外に禁輸措置を取ったり、領土を少しずつ奪ったりして、台湾への圧力を段階的に強めていく方法もある。しかし、その場合、危険なのは中国政府が米政府の反応を読み違える可能性だ。米国は確かに政治的混乱にあるが、太平洋地域における覇権国としての地位を守り、仲間の民主主義国に危機が及べば立ち上がって守るというのは党を超えた合意となっている」

 

インド太平洋戦略は、中国の横暴を抑止する目的でクワッド4ヶ国によって推進されている。中国が、これを見誤ると危険である。

 

(7)「第1次世界大戦、第2次世界大戦を含め、覇権国間の戦争というのは、往々にして一方の政府が他方の政府の出方を読み誤って勃発している。歴史学者のマーガレット・マクミラン氏(編集注、英首相だった故ロイド・ジョージのひ孫)は「危険が現実のものとなるのは、人々が相手の意図を読み取ろうとして、その意図を間違って解釈しだすときだ」と指摘する。台湾についても同じことが容易に起こり得る」

 

日本が、この最適例である。太平洋戦争を始めて1~2年で米国と講和を結ぶ計画であった。それが、ついに原爆2発を浴びる結末となった。中国が米国の出方を見誤れば、習氏の政治生命はそこで終わり、中国解体(民主化)という大きな分岐点が口を開けて待っているはずだ。