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韓国のGDPは、7~9月期が前期比1.9%増と3期ぶりにプラス成長になった。これに気を良くした洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政部長官は、「経済正常化に向けた回復軌道に入った」と発言。まだ、1年前に比べたGDPは1.3%減である。パク・ヤンス韓国銀行統計局長は、「V字反騰ではない」クギを刺しているほどだ。

洪楠基経済副首相は、これまでも楽観論を口にしており、国民の不満は根強い。洪氏への信頼感は地に墜ちている。それを象徴するように、「洪楠基副首相兼企画財政部長官の解任を強く要請する」という、韓国大統領府の国民請願に対する同意が28日、21万人を超えた。経済の指令塔に対して20万人もの国民が、「解任すべき」と請願するのは洪副首相が初めてという。

 

写真で見る洪氏の印象は、極めて楽観的に物事を見るタイプのお人柄のようだ。緻密に経済データを分析して行く官僚型ではなさそう。それだけに、放言・失言は「毎度」という感じを受ける。国民から嫌われている点はそこであろう。

 


『中央日報』(10月29日付)は、「『解任請願』21万人、こんな経済副首相はいなかった」と題する記事を掲載した。

 

(1)「これまでの経済副首相や企画財政部長官は「専門性に基づく揺るがない独自のリーダーシップ」という軌道を維持してきた。政治的な影響と非専門的な入れ知恵に対して所信に基づく対応を見せるのが基本だった。しかし、洪副首相は災難支援金給付決定、財政健全性論争などでみられるように、青瓦台・与党の言いなりになることが多かった。延世大のヨン・ガンフム経営学部教授は「今の洪副首相は自分の声を出すよりも、青瓦台や与党が要求することを執行するだけのようだ」と指摘した」

 

洪副首相の最大の欠点は、経済専門家として失格発言を連発していることにある。政府・与党のロボットであり、「イエスマン」に過ぎないという不満である。

 

(2)「市場と認識の乖離も信頼を落とす要因だ。いわゆる「伝貰(チョンセ、契約時に一定の金額を賃貸人に預け、月々の家賃は発生しない不動産賃貸方式)物件不足」が深刻化する状況で「伝貰価格の上昇幅が鈍化している」(14日)、「伝貰物件の取引が増えた」(18日)などと発言し、ひんしゅくを買った。洪副首相本人が「伝貰難民」になるという事実まで伝えられ、世論の批判と嘲弄はさらに強まった。新型コロナのため今年9月に就業者数が前年同月比で39万人減少したという統計が発表された16日にも、洪副首相は「10月から雇用市場が回復するはず」と楽観的な発言をした」

 

韓国の経済失政の一つは、住宅価格の高騰である。いわゆる「伝貰」という韓国独特の家賃が急上昇しており、「住宅難民」が出る騒ぎとなっている。この家賃急騰への対策を間違えており、洪氏自らがその被害者になったといわれているほど。住宅価格高騰で大儲けした政府高官がいるとされている中で、洪氏は「失敗組」に数えられている。

 


(3)「任命初期から続いている「パッシング」の声も負担だ。今年7月、開発制限区域(グリーンベルト)について洪副首相が解除を検討する可能性に言及したが、翌日、国土交通部次官は「検討しない」と否認した。結局、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「グリーンベルトは保全する」と述べて一段落した。不動産政策のほか、税制改編案、各種マクロ・財政政策でも洪副首相の主張が黙殺されたり覆されたりする事例が多かった」

 

経済副首相というポストは鬼門である。文大統領自身が間違った経済政策を撤回しないので、そのしわ寄せは経済副首相のところへ集中する格好だ。

(4)「『更迭説』『パッシング』の声が出るたびに、文大統領は「今後も頑張ってほしい」(3月13日)、「力強く進めてほしい」(7月21日)など力を与える発言をした。しかし、洪副首相が政策決定過程で実際に主導権を発揮した事例は少ない。漢陽大のキム・テユン行政学科教授は「個性の強い政治家出身者を傘下の経済部処長官に座らせておいて、副首相は調整に限界がある人物を任命した」とし「結局、調整をするなという話であり、洪副首相個人の限界もあるが、任命権者の失策も確実にある」と述べた」

 

文大統領は、洪副首相を信頼している。これまで報じられた更迭説を、覆してきたのは文氏の信任が厚い結果であろう。この両者は、「同病相憐れむ」であろうが、国民が最大の被害者である。