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中国は、迫りくる気候変動で最大の被害を受けることが決定的になっている。中国辺境のチベット地帯の氷河が急速に融解しており、黄河や長江の水資源枯渇が不可避となったからだ。チベット地帯は、北極・南極と並ぶ世界三大氷河とされている。そのチベット氷河の融解速度が加速化している。

 

こういう厳しい現実を突付けられており、世界一の二酸化炭素排出国である中国は、EV(電気自動車)シフトに舵を切っている。この結果、2030年までに原油時代の終焉を迎えるという大胆予測が登場した。こうなると中国は、世界一の原油埋蔵量であるベネズエラへ貸し付けた500億ドルの回収が、さらに困難になるという新たな問題が発生する。あちら立てればこちら立たずで、中国の盲滅法の政策が破綻する運命だ。

 

『ロイター』(11月20日付)は、「中国主導のEVシフトで『原油時代』が終焉へ」と題する記事を掲載した。

 

(1)「シンクタンクの「カーボン・トラッカー」は20日、中国主導による電気自動車(EV)への積極的なシフトにより、世界の原油需要伸び率が2030年までに70%縮小し、「原油時代」の終焉が後押しされるとの調査結果を発表した。新エネルギー車(NEV)の競争力が高まるのに伴い、中国は今後10年以内に、原油輸入コストを年間800億ドル以上節約できる可能性があるという」

 

中国のEVシフトが、世界の原油需要伸び率が2030年までに70%縮小させ、「原油時代」の終焉が後押しされるというのである。こういう時代がくれば、世界原油事情の大激変は必至。この鍵を握るのは、蓄電池の能力開発がどこまで進むかにも掛るが、趨勢としてはこの方向であることは間違いない。

 


(2)「この算出は国際エネルギー機関(IEA)の「控えめな」シナリオに基づくもので、シナリオではEVが中国自動車販売全体に占める割合は2030年までに40%、インドその他の新興市場では20%と予想している。「カーボン・トラッカー」によると、平均的な自動車燃料としての原油の輸入コストはEVを動かすためのソーラー機器の10倍。カーボン・トラッカーのストラテジストで調査結果の筆頭執筆者、キングズミル・ボンド氏は、「これは海外のカルテルが生産した高価な原油への依存度を高めるか、時間とともに価格が下落している再生可能資源による国内電力への依存度を高めるか、という単純な選択だ」と述べた。

 

前記の前提が実現するには、2030年までに中国のEVが年間自動車販売の40%に達することが必要になるという。現状から言えば夢物語だが、飛躍的な蓄電池開発に掛っている。これは同時に、再生可能資源による国内電力供給が、過半を占める時代が来なければ困難であろう。

 

このように、難しい条件はいくつかあるとしても、「人智」がそれを乗り越えていくに違いない。そこで、2030年までに原油依存経済が終焉を迎えることが明らかになれば、原油生産国は干上がる。中でも、世界一の原油埋蔵量とされるベネズエラは、現在の苦境がさらに深刻なものとなろう。中国は、このベネズエラに500億ドルも貸し付けている。債権回収が、一段と難しくなる。

 


『フィナンシャル・タイムズ』(11月18日付)は、「ベネズエラ、埋蔵量世界一の石油は埋もれたままか」と題する記事を掲載した。

 

かつて石油輸出で潤っていたベネズエラは、崩壊した経済を再興させるため、世界で最も炭素集約度(エネルギー消費当たりの二酸化炭素〈CO2〉排出量)が高い部類の一つである同国産原油を採掘するための投資に期待をかける。だが、気候変動問題で世界のエネルギー市場が揺さぶられるなか、一部の専門家はベネズエラで最も価値の高い資産の多くが採掘されずに終わるとみる。

 

(3)「ベネズエラ国営石油会社PDVSAの元取締役で今は米国でコンサルタント業を営むペドロ・ブレリ氏は、「石油では今のこの国を救えない」と話す。ベネズエラ国営石油会社PDVSAの元取締役で今は米国でコンサルタント業を営むペドロ・ブレリ氏はこう話す。「国と経済を自分たちの手で造り直さなければならない」。ニコラス・マドゥロ大統領の革命的社会主義政権下で、ベネズエラは平時としては世界で最悪の経済破綻に見舞われた。国際通貨基金(IMF)によると、国内総生産(GDP)は過去5年で4分の3以上収縮した。約500万人が難民となり極貧に陥った祖国を逃げ出した」

 

ベネズエラは、かつて最も経済的に豊かな国であった。それが間違った社会主義政策で破綻した。GDPは5年で4分の3以上も収縮。約500万人が難民なって流出した。この破綻国家に500億ドルも貸し付けたのが中国である。

 

(4)「年を追うごとに、石油企業に(温暖化ガス排出を実質ゼロにする)カーボンニュートラルを求める投資家からの圧力は高まり、ベネズエラがかつての強大な産業を取り戻すチャンスは消えていく。比較的安く採掘できるオリノコベルトの豊富な原油は、世界の中で最も炭素集約度が高い部類に属する。「ますます多くの企業が重質原油に背を向けており、ベネズエラ産は超重質原油の一つだ」。英王立国際問題研究所のエネルギー専門家、バレリー・マルセル氏は話す。「ベネズエラへの投資家がいないわけではないが、どんどん減っている」と付け加えた」

 

ベネズエラ産原油は、超重質原油の一つとされる。CO2の塊のような原油を欲しがる国は消えたはず。地下には、世界一の原油が埋蔵されているとしても、もはや「宝の持腐れ」となった。中国は、原油に目が眩んで融資したのだが、「こんなはずでなかった」と頭を抱えているだろう。