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木に竹を接ぐ中国の技術発展

紫光集団のデフォルトが示唆

精華大学のご威光及ばず無念

レストランまで半導体へ参入

 

米中対立の長期化が不可避の現在、中国は「自給自足」を前面に掲げている。米国やその同盟国から孤立しても、自前の技術を磨きこの危機を乗り越えようという戦略である。毛沢東は「長征」(1934~36年)と称して、蔣介石率いる国民党軍に敗北し、江西省瑞金から陝西省延安まで1万2500キロを徒歩で逃げ延びた。だが、最終的に勝ち抜いて、新中国を建国した歴史にあやかろうというものだ。

 

習近平氏は「新長征」と称しているが、日進月歩の科学の時代に「自前の技術開発」は途方もない時間と資金の浪費を招く。その間に、中国の人口動態は急速な高齢化に見舞われることが確定している。最初に「長征」を試みた時代背景と全く異なり、「時間との勝負」が課されているのだ。この面を無視して新長征の「引きこもり策」を取ることは、中国100年の計において決定的な出遅れをもたらすであろう。

 


木に竹を接ぐ中国の技術発展

経済発展の源は、資本・労働・技術である。中国は今後、人口高齢化が急速に進み労働力が急減する。これを補うには、技術進歩が不可欠だ。基礎技術が進歩してこそ、初めて応用技術が花開くものである。中国の歴史において、技術研究が奨励される歴史はなかった。それは、次のような背景にもとづく。

 

中国は、歴史的に技術を軽視する風土にあった。科挙試験では、受験資格として職人を排除したこと、身分階層を「士農工商」の序列に決めてきた。農本主義(農業が国富の元)を採用したのは、秦の始皇帝時代からだ。「工商」を低い身分に陥れたのは、農業と違い富の蓄積が容易であり、謀反を起こす危険性を避けるためだった。

 

以来、2000年余もこうした時代風潮の中で、中国は時を刻んできたのである。工業を軽視する風潮が、中国の経済発展を大きく遅らせた。新中国になって科学技術に力を入れているが、2000年に及ぶ「空白」は何とも埋めがたいもの。採算面から、「独創」よりも「模倣」を重んじる中国において、利益にもならない基礎研究が実るはずがないのだ。内外での技術窃取は、こうした背景から堂々と行われてきた。

 


足りない技術は、よそから持ってくる。これは、中国だけでなく韓国にも共通している。サムスンが、数年前にスマホの新製品発売で発火する事故が起こった。この際に浮き彫りになったのは、サムスンに関連基礎技術がないという事実を表面化させた。韓国は日韓併合で36年間、日本統治を受けて日本流の基礎研究の重要性を知ったはずである。それでも、サムスンのような事態が引き起こされた。

 

中国になると、欧米風の近代化教育の経験はゼロだけに、とてつもないギャップが生じていることは間違いない。基礎研究という地道な作業工程の重要性を知らないことが、いかに研究過程でミスを生んでいるか。中国では当初、高速鉄道開発でどうにも解決できない問題点を抱えていた。何回、挑んでもはね返される技術の壁が、日本の新幹線技術で即座に解決できたのである。

 

紫光集団のデフォルトが示唆

これと同じミスが現在、半導体研究と製造でもたらされている。これを象徴する「事件」が最近起こった。

 

中国半導体産業トップの紫光集団(精華大ユニグループ)は、習近平氏の出身大学である精華大学の経営する企業である。この紫光集団が11月15日、約206億円の手形を決済できずデフォルトになった。習近平氏の絶大な権力を想像すれば、約206億円の債務不履行で世間を騒がせるとは想像もできない事件である。

 


見方によっては、習近平氏の政治力をもってしても食い止められないほど、紫光集団が過剰債務に蝕まれていたのであろう。中国半導体産業の思わざる蹉跌を見せつけられたのである。紫光集団の7~9月期の負債は、約8342億円である。うち、60%が1年未満の短期債務という。運転資金を借入れたものであろう。それでも、約206億円の手形を落とせなかったのは、売上不振ということだ。上半期に約521億円の営業赤字を出している。典型的な販売不振に陥っていたのである。

 

中国の年間半導体輸入額は、約3000億ドルとされている。最近の中国半導体の自給率は15.7%(2019年)である。これだけの市場がありながら、紫光集団が上半期に500億円を上回る営業赤字を出した原因は、自社で満足な半導体を生産・販売できなかったからに他ならない。半導体企業の収益を大きく作用するのは、完成品割合の「収率」である。つまり、「歩留まり」だ。収率が上がらなければ、満足な製品として販売できないゆえに、生産コストが上がって赤字に陥る。紫光集団の赤字は、技術的行き詰まりが原因であろう。

(つづく)