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習近平政権が、足がかりにしてきた国有企業は、その非効率経営ゆえに経営行き詰まりを見せている。社債デフォルトでは、国有企業が全体の4割を占めているのだ。これまで、国有銀行は国有企業の融資専門機関として機能してきた。この甘えの関係が、国有企業に非効率経営を許してきた大きな理由であろう。その上、習氏は「国進民退」という看板を掲げて、国有企業優遇策を打ちだしてきた。国有企業のデフォルト多発は、習近平政権批判へと繋がる要因を多く秘めている。

 

『日本経済新聞 電子版』(11月22日付)は、「中国の社債不履行『国有企業も』 景気回復、支援緩む」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国の社債の債務不履行は足元で国有企業にも広がってきた。2020年は11月20日までに1570億元(2兆5000億円)で元利払いが遅れ、うち国有企業の比率は4割強と19年を大きく上回った。新型コロナウイルスで資金繰りを助けてきたが、景気回復を受けて支援措置を縮小した途端に過剰債務企業の資金繰りが苦しくなった」

 

国有企業で社債デフォルトが増えているのは、国有銀行がもはや融資を続けられないという限界を示している。中国の金融市場もまた、これ以上金利を引下げられない限度に達している。市場金利が、自然金利(最適金利)を下回っているからだ。このような状態でデフォルトへ陥るのは、ゾンビ企業として中国経済に生き残る必要性がない、という烙印を押されたようなもの。それだけ、無駄な資源配分が国有企業向けにされてきたことになる。計画経済の落し穴だ。

 

(2)「これまでも国有企業の債務不履行はあったが、20年は有名な大型企業も債務危機に陥った。中国随一の名門大学、清華大学に属する紫光集団は16日までに社債13億元(約206億円)を償還できなかった。紫光集団は中国では最先端の半導体製造を手がける。過剰債務や収益化の遅れを指摘する声はあったが、習近平国家主席が掲げる半導体国産化の主役だっただけに市場には衝撃が走った。同社の社債には額面の1割まで売られる銘柄も出ている」

 

紫光集団のデフォルトで、同社の社債は額面の90%ダウンまで売り込まれているという。精華大学の名声も地に墜ちたのも同然である。技術的に行き詰まったと見られる紫光集団を救えなかった点で、精華大学の研究能力にまで疑問符がつきかねないほどの衝撃であろう。今日発行のメルマガ210号で、詳細に分析した。

 

(3)「河南省所管の国有石炭会社、永城煤電控股集団は11月10日に社債10億元(約168億円)を償還できなかった。10月に別の社債を発行したばかりの上、格付けも最上級のトリプルAだった。「暗黙の政府保証」があるともみられてきたため、社債市場全体が動揺した。とくに遼寧省や山西省など財政余力の乏しい地域に本社を置く企業の社債が値下がりした。山西省は省みずからが「返済に問題はない」と表明する事態に追い込まれた。中国の社債の債務不履行は15年から増加し、19年には1670億元まで増加した。20年も過去最高を更新するペースだが、前年までとは中身が大きく異なる。19年は国有企業の不履行が約400億元と全体の4分の1だったが、20年はすでに金額で1.8倍に達し、比率も4割まで高まった」

 


海外の投資ファンドでは、中国の格付けを全く信用していなかった。A、AA、AAAという最高ランクの格付けが、全体の9割を占めるというインチキ格付けである。この状態は3年前から認識されていた。国有企業のデフォルトが増加基調であることから、金融市場の不信感はいやが上にも高まらざるを得なくなっている。

 

(4)「相次ぐ債務不履行を受け、社債の発行条件は悪化している。11月以降、少なくとも470億元の社債発行が延期または取り消しになった。陝西省西安市の国有企業、天地源が16日に発行した3年債は金利が年7.98%と高かったうえ、10億元を予定していた発行額は2億元まで圧縮した。金融当局は不安払拭に躍起だ。金融行政の司令塔である国務院(政府)金融安定発展委員会は21日、債券市場をテーマにした会議を急きょ開いた。「金融システム危機を起こさない」と強調したのは、社債市場の動揺がさらに広がるのを防ぐねらいとみられる」

 

社債市場は、疑心暗鬼に取り憑かれている。社債発行の延期や発行金額の縮小などを迫られている。だいたい、格付けが信用を失った以上、信用復活の手がかりをなくしている。

 


(5)「銀行の不良債権とその「予備軍」は、計6兆7000億元近くまで増えた。円換算では100兆円を上回る。企業の現金収入などを厳しく調べる先進国の基準で査定すれば潜在的な不良債権は公表値の何倍もある、とみる専門家もいる。長期政権をめざす習指導部は、政権崩壊リスクの芽を摘むことを経済政策でも最優先する。金融システム危機はリスクの筆頭で、不良債権の圧縮は待ったなしの課題といえる。国有企業でも一律の救済は難しい」

 

銀行の不良債権とその予備軍は、100兆円を上回ると推測されている。中国GDPを名目1550兆円(2019年)とすれば、その6.5%が煙と消える計算である。ざっと、1年分の名目GDP増加率に相当するのだ。この傷を乗り越えることは容易でない。中国経済の抱える不良債権の山が、これからの中国にとって大きな負担になることは確実だ。