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米ダウ史上初3万ドルへ

米を見誤った背景は何か

長期低金利がドル安円高

構造的な円高を覚悟せよ

為替のプロが見る円相場

 

11月24日の米ダウ平均は、史上初めての3万ドルを突破(3万46ドル)した。新型コロナウイルスの死者が増え続ける中で、株式市場は、米国経済の力強い回復に自信のほどを示した。2016年の大統領選の日、ダウ平均は1万8332ドルが終値。トランプ大統領が、次期政権への事務引き継ぎを認めた日を、大統領選終了日と見れば、この間に1万1714ドルもの値上りである。率にして64%の上昇率だ。トランプ氏が大きく貢献した成果も含まれる。

 

米ダウ史上初3万ドルへ

一挙に3万ドル大台突破の株高を実現させたのは、次のような事情が、影響を与えたと見られる。

 

1)11月3日の米国大統領選挙後の混乱は、トランプ大統領の次期政権への引き継ぎ承認で終息に向かい始めた。肝心の敗北宣言が出ないままに、引き継ぎ開始という異例の形である。トランプ氏は、4年後の大統領選を目指すとされており、周辺では最後まで「敗北」を認めないだろうと取沙汰されている。

 

2)米議会選挙では、下院で民主党が多数で変らずだが、共和党が議席を増やしている。上院では、共和党が多数の見通しだ。こうなると、バイデン次期大統領が過激な左派主張の政策を実現することは不可能になる。

 

3)ファイザーのコロナワクチンが、最終治験を経て95%超の有効性という「神がかり的」な最高データが発表された。米国で12月11日から、実際に接種される段階にこぎ着けたことで、長く苦しめられた「コロナ禍」から脱出可能になる。

 

以上のような背景で、ニューヨーク株式市場はダウ工業株30種平均が、史上初めて3万ドルの大台を突破した。3月に記録した安値からの上昇率は62%にも達した。

 


株価という先行指標で米国経済が、将来の成長性の明るさを世界に示すことになった。私は一貫して米国の持つ経済システムの成長性に注目し高く評価してきた。この5号前の「メルマガ206号 混迷した大統領選 『弱い米国』の前兆という悲観論はこれだけ間違っている!」において、米国経済に対する悲観論に異議を申し立てた。

 

米を見誤った背景は何か

『ロイター』(11月6日付)は、「混迷極まる米大統領選、『強い米国』はもう戻らない」と題するコラムを掲載した。筆者の鈴木明彦氏は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹である。

 

先ず、要点を紹介する。

 

1)米国は、今年がマイナス成長不可避であるのに対して、中国は小幅ながらプラス成長を維持する。2019年には米国の3分の2であった中国の経済規模が、20年には4分の3にまで高まる。2030年ごろには米中の経済規模が逆転するとの見方が一段と現実味を帯びてくる。

 

2)経済規模が接近してくるのに伴い、国防費や研究開発費でも中国が米国に迫って凌駕してくるかもしれない。米中の対立はすでに、貿易戦争から安全保障や技術覇権での対立に重点が移っているが、コロナショックで大きなダメージを受けた米国は、中国との関係においても劣勢になってくる。

 

3)今回の米国大統領選ではどちらが勝利しても、自由と民主主義を掲げて世界をリードしたアメリカが戻ってくることはなさそうだ。世界に貿易戦争を仕掛けて、中国との関税引き上げ合戦を始めたのはトランプ大統領だが、その前から米国は、WTO(世界貿易機関)による多国間の枠組みでの自由貿易の推進に距離を置いていた。2国間主義に転じている米国が、グローバルな自由貿易を推進することはない。また、世界の警察官の役割に後ろ向きになっている米国は、これからもアジア太平洋における存在感を低下させるだろう。

 

4)中国は、新型コロナ対応や大統領選を巡る米国内の混乱を見て、自国の政治体制や政策対応に自信を深めているはずだ。米国と正面から対決しなくても、国力を高めていくことに専念し、米国の力が徐々に衰えていくのを待った方がよいと思っているのではないか。

 

5)中国共産党は、2035年に1人当たりGDPを中等先進国並みにする、という目標を示した。2万ドル(約209万円)ぐらいの水準を想定しているとすると、15年間で現在の2倍目標となり、年5%弱の成長を続けていれば達成可能だ。もっとも、15年間安定した成長を維持するのは簡単ではない。それでも、米国の弱体化がこれからも続き、中国が米国を上回る成長を続ければ、米国を抜いて世界一の経済大国になることは十分想定できる。

 

前記の5項目に対する私のコメント採録は省くが、一点だけ指摘したい。それは、市場経済が価格機能によって自動的な「バランス回復機能」を持っていることである。価格をシグナルにして動く市場経済の有利性を理解すれば、米国経済が史上二度のバブルによってもたらされた恐慌(世界恐慌とリーマン・ショック)を克服した理由が分かるであろう。米国経済は、不死身とも言える。その原点が市場経済システムの尊重である。その裏には、健全な市民社会を守ろうとする「ピューリタニズム」(清教徒精神)が健在であることだ。

(つづく)