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文在寅政権は、厳しい選択を迫られている。秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官が、尹錫悦(ユン・ソギョル)検事総長に職務停止を命じた件は、秋氏の敗北となったからだ。尹氏が、執行停止申し立てをしたので、ソウル行政裁判所が1日、これを認めたもの。これにより、法務部長官による命令効力は停止し、ユン氏は職務に復帰することになった。

 

問題は、これで一件落着でないのだ。秋法務部長官は、2日に開かれる法務部の検事懲戒委員会でユン検事総長の解任を目指している。検事懲戒委員は、秋長官がお気に入りメンバーに入れ換えており、何が何でも「ユン氏の首を取る」という感情論で突っ走っている。その結果が、韓国の政治状況に深刻な事態をもたらすことが分からないのだ。

 


秋法務部長官へ反対する声が、検察組織全体に広がっている。全国59の地検・支庁のうち最後まで残った釜山地検西部支庁も11月30日、抗議声明を発表した。高検長9人のうち7人、地検長18人のうち15人、さらにはユン総長の家族の事件を捜査しているソウル中央地検の部長検事、法務部検察局の検事まで総長の職務停止と懲戒を取り消すよう求めた。検察の一般職も反対論側に立っている。「秋美愛師団」と呼ばれるごく少数の政権寄り検事を除く、検察全体が立ち上がった格好だ。以上は、『朝鮮日報』(11月30日付)社説)が報じた。

 

『中央日報』(12月1日付)は、「検察総長排除と検事の集団声明」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のイ・チョルホ中央日報コラムニストである。

 

(1)「尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長を30年以上もそばで眺めてきた検察関係者はこのように語った。「決して退かないという尹総長の覚悟は強い」。尹総長は大検察庁(最高検察庁)報道官を通じても「違法・不当な処分に最後まで法的に対応する」と明らかにした。解任されれば退職金と被選挙権制限、公職再採用で不利益を受けるためでもない。尹総長の個人的な立場では、いま立ち止まれば27年の検事人生を不名誉で終わるという点で、これ以上退くことはできない。尹総長が信念とする法治主義が破壊されるのも受け入れられないという立場だ。たとえ解任が決定しても懲戒処分無効確認を要求する行政訴訟も辞さない構えだ

 

文大統領は、ユン検察総長を解任する意向が強いと見られている。だが、ユン氏は懲戒処分無効確認を要求する行政訴訟に訴える可能性が強い。ソウル行政裁判所が12月1日、ユン氏に下された法務部長官による業務停止命令を却下したことで、ユン氏が法的優位に立っているのだ。ユン氏が勝訴する可能性が大きいのである。

 

その場合、文政権敗北の受けるダメージは極めて大きい。次期大統領選は、進歩派の勝利が覚束なくなろう。文氏に、この程度の見通しすらできないのだろうか。政権の犯罪隠しで冷静さを失っているのだ。

 

(2)「高検長-地検長-部長検事-平検事が一斉に抗議声明を出したのは初めてのことだ。類例のない集団行動だ。昨日は総長職務代行の最高検察庁次長までが秋長官に「一歩退いてほしい」と要請した。抗議声明には大検察庁の部長とソウル中央地検長および次長、東部・南部地検長など少数だけが参加しなかった。その相当数が、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の慶煕大の後輩、秋長官の漢陽大の後輩、一部の地域出身者だ。コード人事も行き着く所まで行った。一般の検事のたまった不満と怒りが出てくるしかない」

 

法務部内で、秋長官への抗議声明に加わらなかったのは、文大統領と秋長官の出身校の後輩が主だという。法務部は、学閥単位で動いている様子が、実によく現れている。文在寅の限界が露呈した形だ。

 

(3)「法曹界は法務部検察局の検事が立ち上がったことに特に注目している。同期のうち最高のエリートが直属関係である秋長官の一方的な措置に反発したのだ。さらに法務部企画調整室長が事件関連書類の決裁欄から抜けていて、尹総長に対する捜査依頼も柳ヒョク(リュ・ヒョク)監察官の決裁を受けていない。事実上、合法的で正常な手続きを踏まなかったということだ。これは普通のことではない

秋法務部長官は、ユン検察総長への業務停止命令などの関連書類で、法務部決済ルートから枢要ポストの人物を外した、手続き上の欠陥が浮上している。この抜け駆け的なやり方が今後、大きな争点になろう。ユン総長の業務停止命令と解任が、法務部全体の決済ルートで出されたのでないという恣意性の問題だ。秋法務部長官による権力濫用である。

 

(4)「ある元検察総長は、「検事の抗議声明は尹総長の勝利でなく秋長官の敗北」と診断した。声明をみると、その核心は尹総長個人に対する支持ではない。秋長官の職務停止と懲戒請求は行き過ぎた措置であるため、これを再考してほしいということに傍点が打たれている。政治的にあらかじめ解任を決めておいて、人事権・懲戒権を振りかざして無理に強行したところ、検事らの抵抗を受けたのだ。検事の間では、今後、政権が気に入らない捜査をすれば職務排除、人事不利益、懲戒の3セットを食らうという危機意識が広がるしかない」

文政権は、大きなミソをつけた。社会派弁護士出身の大統領が、政権の利益を守るために、あえて違法を犯すという事態を招いたことだ。

 

(5)「最悪のシナリオは懲戒委員会が解任を強行し、これを大統領が直ちに承認してしまうことだ。すでに民主党では「尹総長は大逆罪人」「懲戒でなく捜査対象」「(解任を越えて)罷免すべき」という険悪な表現も出ている。正面衝突という悪いシナリオに向かう兆候だ。最後の隠れた変数は民心だ。青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)は「世論調査に一喜一憂しない」という。しかし実際は正反対だ。重要な決断は大統領(国政)支持率が40%に迫るたびに出てきた」

 

文氏がユン検察総長を解任すれば、世論の大きな反発を受けるだろう。その結果、政権支持率が40%割れを招く危険性が高い。文政権は危機に立つだろう。

 

(6)「昨年10月14日に国政支持率が41%に落ちると、チョ・グク法務部長官を1カ月後に辞任させた。今年8月、不動産価格の暴騰で支持率40%に迫った時は、複数住宅所有者を中心に青瓦台首席秘書官らを交代した。今回もリアルメーターの調査(の支持率40%)が分岐点となる可能性を排除できない。国政支持率が40%を割って下落すれば、秋長官の退陣など意外なカードが出てくる可能性もある」

 

文氏は、秋法務部長官を庇っている。だが、国政支持率低下によって、そのような「身びいき」はいつまで続けられるか。文在寅も年貢の納め時であろう。