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中国企業にとって、米国証券市場は金のなる木である。今年8月時点で、中国からナスダック株式市場またはニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した企業は20社を超えた。調達総額は40億ドルにも上っている。大半はソフトウエアや電気自動車(EV)などハイテク業界の企業だ。2019年、中国企業25社がIPOで35億ドルを調達した。

 

12月2日、米下院は米国の監査基準を順守しない限り一部の中国企業の米上場を阻止できる法案(「外国企業説明責任法案」)を全会一致で可決した。同法案は今年すでに上院で可決されており、トランプ大統領の署名を経て成立する見通し。同法案の下、3年連続で米公開会社会計監視委員会(PCAOB)の監査基準を順守できなければ、米国内の証券取引所での上場が禁じられる。対象企業は、主として中国企業である。

 

中国企業にとって米国市場は、資金調達面でありがたい場所だが、肝心の中国企業に相次ぎ不正会計疑惑が持ち上がっている。最近の動きを見ておきたい。

 

『日本経済新聞 電子版』(12月4日付)は、「米上場の中国企業続く不正会計疑惑」と題する記事を掲載した。

 

米国市場に上場する中国企業の不正会計疑惑が相次いでいる。11月にはライブ配信大手や電気自動車(EV)メーカーで新たな疑惑が浮上した。カフェチェーン大手、ラッキンコーヒーも不正会計が発覚し、6月にナスダック市場の上場廃止に追い込まれている。米当局は新たな規制を導入し、中国企業に対する監視を強める方針を決めた。

 

(1)「EVメーカーの康迪科技集団は米調査会社から「売上高を偽っている」と指摘された(同社のサイトから)。「売上高の約55%を占める最大顧客の連絡先がグループ会社と共通だ」。米調査会社のヒンデンブルグ・リサーチは11月30日、中国のEVメーカー、康迪科技集団についてリポートでこう指摘した。最高財務責任者(CFO)や監査人らが頻繁に交代していることなども偽装の兆候とし、「売上高を偽っている」と記した。中国や米国でのEVの販売実績・計画にも疑いの目を向けている」

 

いかにも中国企業らしい粉飾決算である。米国で株式公開(IPO)して資金調達した後は、「野となれ山となれ」という無責任さである。詐欺行為である。

 

(2)「前記のヒンデンブルグは9月にも米新興EVメーカー、ニコラが「技術力を偽って宣伝している」と指摘した。その後、ニコラと資本・業務提携で合意していた米ゼネラル・モーターズ(GM)は出資計画を撤回するに至った。ナスダックに上場する康迪科技の株価は30日に3割近く下落。康迪科技は「指摘には多くの間違いや不正確な結論が含まれている」と反論する」

 

米GMも危ないところでダマされるところだった。こういう中国企業に対して、中国政府は米国の監査を認めないという悪質さである。中国企業の情報が漏れることを警戒したもの。多分、政府の補助金がばれることを恐れているのであろう。WTO(世界貿易機関)違反であるからだ。中国が、TPP(環太平洋経済連携協定)に参加したいと言っているが、国有企業の情報公開がネックで不可能である。

 

(3)「中国のインターネット検索最大手、百度(バイドゥ)が36億ドル(約3800億円)の巨額を投じて買収すると発表してから、わずか数日後。中国ライブ配信サービス大手、歓聚集団(JOYY)にも11月18日、不正会計疑惑が持ち上がった。米投資会社のマディー・ウォーターズは、リポートで「中国の主要ライブ配信事業の90%に詐欺行為の不正があり、蜃気楼(しんきろう)だ」と断じた。JOYYは否定するが、ラッキンコーヒーやネット教育大手の北京世紀好未来教育科技(TAL)はマディーの指摘の後、不正会計の事実を公表した経緯がある」

 

中国の主要ライブ配信事業は、90%に詐欺行為が見られるという。歓聚集団(JOYY)にもその疑いが掛っている。

 


(4)「こうした状況に米当局も対応を急いでいる。政権内や議会で中国企業への不信感が高まっており、米証券取引委員会(SEC)は新たな規制導入の準備を進めている。米上場の中国企業は自国の監査法人に加え、米国の上場企業会計監視委員会(PCAOB)に登録する監査法人による監査も義務付けることが柱だ。中国の法律が立ちはだかり、現在はPCAOBは監査状況を検査することができない。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)によると、年内にも新規制案が公表される見通しだ」

 

中国企業の不正行為に対処するため、米上場の中国企業は自国の監査法人に加え、米国の上場企業会計監視委員会に登録する監査法人監査も義務付ける。こういう二重監査体制を取らなければ、とても安心できないほど中国企業の信頼性は地に墜ちている。