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ドイツのメルケル首相は就任以来、一貫して中国との経済関係を深めてきた。だが、今や大きな転換期を迎えている。メルケル首相が来年、引退することから外交関係の見直しが始まっているからだ。その結果、中国偏重を修正し日本との関係強化に努めることが明らかになった。

 

『時事通信』(12月27日付)は、「ドイツ、中国偏重の政策転換「異質な国」と警戒、多角外交で日本重視」と題する記事を掲載した。

 

ドイツが中国偏重と指摘されてきたアジア太平洋政策の修正に乗り出している。中国について、経済発展を遂げても民主化に至らない「異質な国」(独外交筋)であり続けると位置付け、是々非々で向き合う方針に転換。独政府は一方で、これまで重視してこなかった日本との関係緊密化に目を向けている。

 


(1)「クランプカレンバウアー国防相は今月の時事通信とのインタビューで、中国の南シナ海での覇権主義を批判。15日の岸信夫防衛相とのウェブ討論ではインド太平洋に軍艦を派遣すると表明し、岸氏も「強く支持する」と応じた。独政府が9月に策定した「インド太平洋指針」にも、中国の南シナ海での領有権主張を否定した仲裁裁判所判決への言及など、中国けん制の要素が盛り込まれた」

 

ドイツは戦後、欧州域外での軍事作戦には慎重な姿勢をとってきた。今回インド太平洋へ、軍艦の派遣は異例の決定となる。クランプカレンバウアー氏は、インド太平洋で自由な海上交通路を守ることは欧州に直結する問題だと指摘。中国を念頭に「安全保障の野心追求のため、他国に負担を押し付けるべきではない」と述べている。注目すべきは、ドイツ海軍将校の日本派遣などを通じて、日本など友好国との防衛協力を進める意欲も示したことだ。岸防衛相は「緊密に連携したい」と述べ、ドイツの方針を歓迎した。

 


(2)「一連の動きは、蜜月とも評された対中関係を築いたメルケル首相の引退を来年に控えるドイツにとって、一つの転機だ。メルケル氏は2005年の就任以来、12回訪中。同行企業団は競って中国側と大型契約を交わし、中国はドイツにとって輸出入総額で最大の貿易相手国になった。ドイツが掲げたのが、「貿易による変革」という理念だ。東欧や東独のように、経済発展と民主化は表裏一体で進展するという考えで、民主活動家の抑圧といった中国の人権問題に敏感な国内の一部世論を説得する材料ともなった」

 

ドイツが大きく外交の舵を切ったのは、中国の政治的な異質性が原因である。いくら経済関係を深めても、中国民主化見通しは遠くなってゆくばかりだ。それどころか、中国が安全保障上の障害になり得る危険性を持ち始めている。中国は、ドイツにとって輸出入総額で最大の貿易相手国になっている。それでも、ドイツは人権を無視する中国と、根本的に相容れないという原点の確認となった。韓国に聞かせてやりたい話だ。

 


(3)「中国は、世界第2位の経済大国に躍進する一方で、共産党による一党支配体制を強化してきた。とりわけ今年に入ってからの香港の統制強化は、ドイツの警戒感を格段に強めた。経済面の実利もかすみつつある。中国政府が進める経済圏構想「一帯一路」の主要事業は、中国企業が独占的に受注。独紙『ウェルト』は今月、「貿易による変革は、中国では幻想だった」と断じた」

 

ドイツは、第二次世界大戦中の手痛い失敗がある。ナチスのユダヤ人虐殺である。それだけに、人権問題では中国の蛮行を許せない立場だ。

 

(4)「インド太平洋指針は、中国への過度の依存を改め、アジア外交を多角化するとうたっている。多国間主義を掲げる独政府が、アジアの新たな協力相手として期待を寄せるのが、民主的価値観を共有し、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)や環太平洋連携協定(TPP)をまとめた日本だ。インド太平洋指針の策定責任者である外務省のヤスパー・ウィーク氏は、「日独はルールに基づく国際秩序を守ることで一致している」と強調。別の独高官も「日本との協力の可能性を過小評価していた」と振り返る。EUの盟主ドイツの変化は、日本外交の多様化の契機ともなりそうだ」

 

ドイツは今年9月、「インド太平洋の政策ガイドライン」と題した戦略文書を発表。海洋秩序の維持に貢献する方針を掲げ、日本やオーストラリア、東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携強化を打ち出していた。ドイツ国防相のクランプカレンバウアー氏は、「政治経済の中心は大西洋からインド太平洋にシフトしている」と述べ、北大西洋条約機構(NATO)やEUによる関与の重要性を主張した。

 

中国にとっては、大きな情勢変化である。EUと米国が、インド太平洋で自由と民主主義を守る「大連合」が動き出すのである。中国が、いつまで強気を通して海洋拡大を続けるのか。限界点にきている。