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アリババ傘下の金融会社、アント・グループの実質的オーナーであるマー氏は10月下旬、講演で金融当局の監督姿勢に不満を述べた。以来、メンツを丸潰された中国当局が、アント・グループ規制に乗出したというイメージである。だが、この話はメンツという次元の低い問題でない。中国の金融構造と深く関わった問題である。

 

アント・グループの急成長が問題というよりも、中国の金融システムをどのように構築するかという当局の構想力が不足していた結果である。歴史的に、中国の最大の弱点は、金融構造が複雑怪奇であることだ。自然発生的に任されており、日本が明治初期以来、欧州の金融システムを組織的に導入するという「知恵」も「工夫」もなかった。そういう認識欠如が、現在の「アント問題」を招いた原因であろう。

 


『日本経済新聞 電子版』(12月27日付)は、「中国金融当局アントを聴取『企業統治が不健全』」と題する記事を掲載した。

 

中国金融当局は12月26日、アリババ集団傘下の金融会社であるアント・グループを聴取した。人民銀の潘功勝副総裁は、「企業統治が不健全」など問題点を指摘、決済という本業への回帰を求めた。十分な資本の確保も指示した。

 

(1)「人民銀などが27日、記者の質問に答えるという形でアント聴取に関する文書を公表した。潘副総裁はアントが抱える問題について企業統治に加え、順法意識の希薄さ、優越的な地位を利用して同業他社を排除したこと、消費者の利益を損ねた点を挙げた。アントはスマートフォン決済で5割強の市場シェアを握る。10億人規模の利用者を持つ「プラットフォーマー」の地位を生かし、銀行への融資仲介などで多額の利益を上げてきた。金融当局はアントが受け取る高額の手数料が銀行の経営体力を奪い、金融システムのリスクになり得ると問題視してきた

 

中国当局が、この時点で「アント規制」に乗出したのは、中国金融システムが重大な危機を迎えているというシグナルであろう。アントが、すでに大手国有銀行並みの預金を持っていること自体、中国の「信用創造機能」に重大な影響を及ぼしている。ここまで、放置してきた当局に問題がある。

 

アントは、消費者の決済機能だけ付与されていれば問題なかった。それが、預金・貸付の機能まで認められたこと自体に、今回のような問題を引き起こす素地があった。つまり、MMF(マネー・マーケット・ファンド)を認めたことが混乱の発端である。MMF解約はスマホで簡単にでき、MMFに戻された資金は再び支払いに使える。銀行預金より高い利回りで提供したため、アリペイの利用者は銀行口座から余額宝に資金を移したのでる。

 

こうした業務が、アントによって勝手に行われたはずはあるまい。その時々に、当局は承認していたであろう。無届けで行ったとすれば、刑事罰を受けるはず。そういう話も聞かないから、当局が承認していたのだ。多分、「消費者の利便」という理由が決め手になっていたはずだ。これが積もり積もって、中国の金融システムを揺るがす事態になった。つまり、金融危機へのシグナルを引き起しているのだ。アントが「太った」分、銀行が「痩せほとる」状態に追込まれた。それが、金融システムを全般的危機に追込んだのだろう。

 


(2)「金融当局はアントに5項目の改善要求を突きつけた。本業回帰や資本の充足に加え、「監督当局の要求に基づき、規則に反する与信と保険、資産運用業務を見直すこと」を求めた。融資業務の監督強化を念頭に、金融持ち株会社の設立も指示した。できるだけ早期に業務の改革案とスケジュールを作成するよう要求しており、アントは「すでに着手した」などとするコメントを発表した」

 

(1)のコメントで指摘したように、本業(決済機能)回帰や、資本の充実は不可欠であろう。与信と保険、資産運用業務を見直すことも要求されている。ここまで、要求が出たのは、アントの経営自体に問題があったのだ。いずれにしても、大幅な業務縮小要求である。

 

(3)「これらの要求はアントにとって大きな打撃になる。アントの収益源はすでにスマホ決済から、融資や運用商品、保険の仲介など金融業務にシフトしているためだ。企業統治に問題があるとの指摘も、投資会社を通じて経営権を実質的に握る馬雲(ジャック・マー)氏の退陣を暗に求めている可能性がある。アントは11月に株式公開を予定していたが、当局の監督方針の変更を理由に延期を余儀なくされた。今回の金融当局の要求でアントの収益下振れは避けられず、上場時期は一段と不透明になった」

 

中国全体の金融システムを安定化させるためには、アントの業務縮小が不可欠である。来年の中国経済にとっては、金融システムの安定化が鍵を握る。この点は、すでに中国人民銀行総裁自らが言明していることだ。アント問題は、マクロ金融の視点で捉えなければダメであろう。