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IMF(国際通貨基金)による最新の中国経済予測が発表された。それによると、昨年は1.9%成長。今年は7.9%成長という。両年を単純平均すると4.9%成長である。パンデミックに巻き込んだ震源地である中国の経済成長率が、この程度で収まるならば「大成功」と言えよう。

 

だが、その裏では相当の無理をしていることが分かる。債務の増加とデフォルトの山である。独裁政権ゆえに、どこまでも「突っ走る」姿を見せなければならぬ「見栄」が、こうした内臓疾患を増やしているのだ。

 


『日本経済新聞』(1月9日付)は、「中国が抱え込む債務問題」と題する寄稿を掲載した。筆者は、英エノド・エコノミクス チーフエコノミストであるダイアナ・チョイレバ氏だ。

 

中国で社債の債務不履行(デフォルト)が相次ぎ、経済の下振れリスクとなっている。中国政府が、債務の海に救命具が必要だと認識しているのはわかる。当局は、社債市場の動揺が金融システム全体に及ばないかどうか警戒するとともに、外国資本を取り込もうとしてきた。

 

(1)「中国の社債の債務不履行は2020年、1950億元(約3兆1000億円)にのぼり過去最高を記録した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、債務の拡大に拍車がかかったといえそうだ。債務を抱え込み続けるのは不可能だろう。バブル崩壊後の日本を上回るような勢いだが、過剰債務で日本が痛手を被ったのはよく知られている」

 


中国の総債務残高の対GDP比は、すでに330%を超えている。日本の平成バブル崩壊時を上回っているのだ。
国際金融協会(IIF)は昨年7月、中国の債務残高の対GDP比は、第1・四半期の318%近くから第2・四半期に335%に達するとの見通しを示した。借金まみれの経済に落ち込んでいるのだ。現在は、さらに膨らんでいることは間違いない。

 

(2)「河南省所管の石炭会社である永城煤電控股集団や遼寧省傘下の自動車メーカーの華晨汽車集団、半導体大手の紫光集団といった国有企業の債務不履行が注目されているかもしれない。ただ、より注目すべきなのは地方政府系の投資会社「融資平台」だろう。融資平台は、地方政府が出資し、債券発行や銀行借り入れを通じ資金を調達している。20年末までに融資平台が債務不履行に陥った例は報告されていないものの、投資家が地方政府による暗黙の保証に疑問を持つようになり、信用を得にくくなっている」

 

隠れ債務は、「融資平台」という地方政府が主宰する金融と公共事業を営む部署の債務急増である。中央政府の命じる公共事業を完遂するため、地方政府は資金調達責任を負わされている。インフラ投資によるGDP押し上げは、同時に「融資平台」の債務を増やす構造である。中国のGDPが増えれば増えるほど、「融資平台」の債務がうなぎ上りになるのだ。

 


(3)「
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、自国を取り巻く国際環境の悪化を把握し、自給自足的な経済運営を強調する。だが、習氏の政策は中国の成長の源を脅かすことにもなる。習氏は、アリババ集団傘下の金融会社、アント・グループのような民間企業に共産党の言いなりになるよう求める。人々は習氏の倹約重視や不動産価格上昇への警戒などから、消費意欲を押さえつけられている」

 

習氏は、米中対立の長期化によって、自給自足的な経済運営を強調している。これは、輸出依存度を下げるので、必然的に民間投資を縮小させる。経済成長にとってはマイナス要因なのだ。これを補うには個人消費を増やさなければならないが、習氏の倹約重視姿勢と家計債務増加で、個人消費を圧迫するはず。習氏の目標は、矛楯だらけの思いつきに過ぎない。

 

(4)「中国は持続的な成長を確保するため、生産性を引き上げる必要がある。生産性の向上には、特に資本配分の改善が必要だ。共産党指導部は、不良債権の増加が銀行に波及し、金融不況が成長を押し下げる可能性などを認識している。我々は、債務危機の可能性はあると考えるが、伝統的な意味での銀行危機は予想していない。政府が、政府以外の債務を引き取る負担は軽くないが、信用リスクを適切に評価できるようになり資本配分を効率化すれば耐えられるだろう」

 

ここでは、極めて微妙な点を指摘している。中国政府が、中央政府以外の債務を引き取れば、銀行危機にも陥らないとしている。だが、そうやって非効率部門を整理ができるかという疑問である。非効率部門は国有企業であるからだ。

 

(5)「実現については大いに疑問だ。最終的には、共産党が金融システムの支配権を手放すことが必要になるからだ。習氏の下、共産党は正反対の方向に動いているようにみえる。習氏は、7月の共産党創立100周年の記念行事の間、厄介な債務のつけが回ってくることを望んでいないだろう。ただ、以降の見通しはわからない。債務削減の必要性が、中国の成長と雇用の足を引っ張ることになりそうだ」

 

国有企業→国有銀行の不良債権を整理すれば、中国共産党の直接支配権の及ぶ範囲は、それだけ縮小する。これは、習政権の権力拡大路線と反することである。債務縮小は、同時に中国の成長と雇用の足を引っ張る懸念が大きいのだ。

 要約すれば、こういう結論になる。これまで、債務を増やして経済成長を図ってきたが、それはもはや限界を超えた。債務縮小になれば、習政権の権力拡大路線に反し経済成長率を引下げる。この矛楯に中国共産党はどう対応するのか。答えはないはずだ。