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米中対立の長期化に伴い、習近平氏はハイテク産業の自立化を急いでいる。具体的には、手厚い保護を与えているが、これは逆効果である。このことに気付かない習氏は、一段と補助金をふんだんに与えて、「温室経営」を促進している。しかし、これが中国の将来にとって仇になるのだ。

 

企業の技術レベルが低く、先進国企業の技術を導入するだけで企業の競争力を高めることができる状況下では、政府の産業保護政策によって企業発展が可能である。確かに、この段階までは保護も役立つ。その後、独自技術を開発する必要があるにも関わらず、政府の保護に馴れている結果、技術的に自力で立ち上がる力が生まれないのだ。その典型例が、精華大学系の半導体企業、精華紫光集団の二度にわたるデフォルト発生である。

 

国家資本主義によって国家が経済に介入する中国は、ハイテク産業で大きな蹉跌に見舞われかねない事態が迫っている。これは深刻であるにも関わらず、意外と認識されていないのだ。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月4日付)は、「中国の国家資本主義、ハイテク制覇の野望と両立せず」と題する記事を掲載した。

 

(1)「寄生的存在である国有企業(SOE)の問題は依然として明白だ。昨年11月にSOE債券のデフォルト(債務不履行)が立て続けに発生したにもかかわらず、中国の金融情報会社ウインドのデータによると、民間企業(産業部門)の借り入れに必要となる国有企業に対する上乗せ金利はほぼ変わっていないのが現実だ。中国政府の厳しい口調とは裏腹に、今のところSOE債券がより安全な投資先だとの印象は払拭されていない」

 


国有企業(SOE)のデフォルトが増えている。だが、SOE債券の発行金利は、そうしたデフォルト・リスクを上乗せしないで発行させている。市場原理は生きていないのだ。

 

(2)「中国の半導体業界を引っ張るはずの企業(多くは国有企業)が苦境に陥るケースが多発している。半導体大手の 清華紫光集団 は、既に複数の債券がデフォルトに陥っている。半導体受託製造大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)は米政府の禁輸対象リストに加えられたため、最新世代チップ開発への野望を打ち砕かれる可能性がある」

 

中国半導体は、清華紫光集団とSMICに大きく依存している。清華紫光集団はデタラメ経営、SMICが米国依存という決定的な弱点を抱えている。技術的に自立不可能な企業が、中国半導体業界を引っ張っているのである。前途は多難である。

 


(3)「これら国有半導体メーカーの苦難はそれゆえ、中国がハイテク分野で本当に市場原理を十分活用するつもりがあるのかを調べる興味深い試金石となる。例えば、もし米国の制限強化の結果としてSMICが顧客を失い始めたり、品質に問題が生じたりした場合、中国政府はファーウェイなどの企業にそれでも同社の製品を買い続けるよう圧力をかけるのか? 国有銀行はそうした企業の後ろ盾となるのか?」

 

中国半導体企業が技術的に未熟でありながら、その製品を中国ユーザーに購入し続けるように仕向けるのは可能か。国有企業は、そういう状態を放置できるのか。それが今後、問われるだろう。

 

(4)「中国政府は実質的に現在、望みの薄い賭けを大規模に企てている。外国のサプライヤーには頼らず、先進的な半導体製造能力を一から築いて完成させるという賭けだ。その過程に中国国民が持つ膨大な資金をつぎ込んでいる。だがわざわざ土台から作り直すのではなく、優れた経済戦略を立てることで、欧米諸国との関係を修復し、機能不全に陥った中国信用システムを改革すればよい。そうすれば半導体を輸入し、中国市場や中国企業はそこから自分たちが本当に得意なことは何かを判断することができるはずだ」

 

習近平氏は、一か八かの賭けに出ている。民族主義に従って、欧米との対立ゆえに技術的に独自路線を歩もうとしている。そんな危険を冒さずとも、民族主義を引っ込めて協調路線を歩めば、問題は解決する。習氏には、唯我独尊でそういう度量がないのだ。

 


(5)「だが悲しいかな、共産党現指導部のイデオロギー的傾向を見る限り、そうなる可能性は低いようだ。
もし中国が重商主義に固執し、欧米の中核的な価値観や関心に対して敵対的姿勢を取り続けるならば、米国にはそれに対応する選択肢がある。米国に可能な戦略の一つは、研究や教育といった分野への公共投資を拡大することで、常に自国が相手の一歩先を行くために全力を尽くし、それと同時に、中国のムーンショット(月探査ロケット打ち上げのような壮大な計画)が可能な限り高くつき、無駄に終わるように、同盟諸国とともに的を絞った措置を講じることだ」

 

米国は、同盟国と協調して科学技術でさらなる発展を目指せば、中国は足元にも及ばないことを実感するだろう。欧米が、市場経済による創意工夫という最大のシステム上の有利性を生かせば、中国は制度的に破綻するリスクを抱えている。世界は、この重大な事実に気付かずにいるようだ。