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1月8日、韓国地裁は元従軍慰安婦女性らへの賠償支払いを日本政府に命じた。その後、数時間して外交部はコメントを発表した。要約すれば、次のような点だ。

 

1)政府は裁判所の判断を尊重し、慰安婦被害者の名誉と尊厳を回復するために韓国政府ができうる努力を尽くす。

2)政府は2015年12月の韓日慰安婦合意が両政府間の公式合意という点を想起する。

3)同判決が外交関係に及ぼす影響を綿密に検討し、韓日両国の建設的で未来志向的な協力が続くよう様々な努力を傾ける。

 

これらコメントは、前述の通り判決後、数時間を経て発表されたことに注目したい。それは、政府部内で熟慮して出されたということだ。特に、2)の「政府は2015年12月の韓日慰安婦合意が両政府間の公式合意という点を想起する」という文言である。日韓慰安婦合意は、韓国によって骨抜きにされたが、現在も形式的に存在している。日本政府が、これを盾にして韓国政府へねじ込めば、韓国は「グーの音」も出ないのだ。日韓慰安婦合意には、「非可逆的にして最終的な協定」という意味まで書き込まれている。

 


日韓慰安婦合意書において、今回のような判決が出れば、すべて韓国政府が処理する建前である。韓国外交部が、日韓慰安婦合意の存在に「両政府間の公式合意という点を想起する」としたのは当然である。

 

『日本経済新聞 電子版』(1月15付)は、「慰安婦訴訟、韓国外務省論評に映る対『変化』の本気度」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集員 峯岸博氏である。

 

「被害者中心主義」を掲げる韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権と裁判所は一枚岩ではないか。元従軍慰安婦女性らへの賠償支払いを日本政府に命じた8日のソウル中央地裁の判決をめぐり、日本国内にはこんな疑念が少なくない。だが、関係者の話を総合すると、文大統領がこの時期に望んでいた判決内容とはいえず、韓国政府も対応に困惑しているのが実態だ。その戸惑いは判決後に韓国政府が発表した「外務省報道官論評」に見てとれる。要約は、前記の3点である。

 

(1)「文政権の基本姿勢である1)は変わらないが、注目すべきは2)だ。17年5月の文政権発足以降、「被害者の意見が十分に反映されていない」と合意を事実上ほごにした韓国外務省が正式な論評で「両政府間の公式合意」とわざわざ明示したからだ。国内の反発は覚悟だろう。実際、反日組織の急先鋒(せんぽう)である元慰安婦支援団体「正義記憶連帯(正義連)」が13日、ソウルの日本大使館前の定例集会で論評の2)を持ち出し、「歴史的な判決に対する両国政府の反応には失望を通り越して憤怒している」と痛烈に批判した」

 

韓国市民団体は、慰安婦問題によって経済的利益を得てきたとんでもない集団である。彼らは、「ビジネス」として慰安婦問題をとり上げている集団と言っても過言でない。純粋な「非営利・非政治」というNPOではないのだ。

 


(2)「同様に、3)も日本へのメッセージである。「判決が外交関係に及ぼす影響を綿密に検討し」の表現が、「三権分立の原則」に偏っていた従来より前進しているのは確かだ。論評には日本政府に元慰安婦への賠償支払いを促す内容もない。その代わりに、日韓両国の建設的で未来志向的な協力が続くよう「韓国政府が努力する」と宣言している

 

下線部は重要である。「韓国政府が努力する」との一文が入っていることは、慰安婦賠償を韓国政府が独自で行うという意味なのか。そこまでは、文政権のことゆえ不明である。ただ、4月のソウルと釜山の市長選がある。また、来年3月の大統領選があることから、それまでは、態度を鮮明にしないだろう。

 

(3)「思い出すのが、18年10月、韓国大法院(最高裁)が新日鉄住金(現日本製鉄)に元徴用工への賠償支払いを命じた徴用工判決だ。このとき、韓国政府は「司法の判断を尊重し、関係省庁や民間の専門家などと諸般の要素を総合的に考慮して対応策を講じていく」(李洛淵=イ・ナギョン=首相)とし、日韓関係についても「未来志向的に発展させていくことを希望する」(同)と述べるにとどめた。それに比べると、今回は論評全体の3分の2が日本との外交関係を重視した内容で、韓国政府が自発的に改善に動くという立場を示している特徴がある」。

 

下線のように、韓国政府が自発的に改善に動くというニュアンスを出したのは異例のことだ。米国の次期バイデン政権を意識した動きであろう。バイデン氏が、オバマ政権時に副大統領として日韓慰安婦合意に奔走した。その手前もあって、繕っていることも十分に考えられる。

 


(4)「それだけ事態が深刻であるといえる。個人と日本企業が争う構図だった徴用工判決に対し、慰安婦訴訟の被告は日本政府だ。ウィーン条約で外交上の国有財産は保護されているとはいえ、成り行き次第では外交関係の破綻すら想定される。文政権も「司法判断を尊重」とばかり言っていられない状況になっている」

 

韓国は慰安婦賠償金として、日本政府資産を差押えたならば、「日韓外交戦争」になることは間違いない。日本が、確実に報復する。そういう無益な争いを避けて、韓国政府が独自で処理すべき案件である。