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鄭義溶(チョン・ウィヨン)氏が、韓国外交部長官に就任した。文在寅政権に入って、野党の同意なく任命された長官級人事では、28番目の事例である。文氏が、野党の反対を押し切って強行した人事だ。野党が反対するには、それなりの理由あってのことだ。こうして行われた長官人事は、多くの失敗をもたらしてきた。文政権が、業績を上がられない裏には「長官強行人事」がある。

 

鄭氏による北朝鮮の核問題に対する認識では、早くも米国務省から現役と過去の官僚から反論が出ている。鄭氏は、北朝鮮に核放棄の意思があるとする。これに対し、米国務省はその意思がないので強硬策を取る、と予告している。こういう全く異なる米韓の対北朝鮮政策が、激突するのは目に見えているのだ。すべて文大統領の楽観的な北朝鮮政策がもたらした帰結といえよう。

 

『中央日報』(2月9日付)は、「韓国大統領府、鄭義溶外交長官任命を強行 人権、北核めぐり韓米亀裂の可視化も」と題する記事を掲載した。

 

(1)「鄭長官は5日の人事聴聞会で、北朝鮮の非核化意志を確信するような発言をし、論争を招いた。「文在寅政権に入って南北首脳会談をし、北側の非核化意志を確認したし、米国も評価を共感した」「金正恩委員長の非核化意志はまだあるとみる」などの発言が問題になった。鄭長官は北朝鮮の非核化意志を強調したが、米国務省は7日(現地時間)、これに対する『ラジオ・フリー・アジア』(RFA)から論評の要請を受けると、「北朝鮮の違法な法核・ミサイルプログラム、そして関連の高級技術を拡大しようとする意志は、国際平和・安全保障に深刻な脅威になっている」という正反対の評価をした」

 

北朝鮮が、核放棄のゼスチャーをしながら時間稼ぎをし核開発を強行していることは衆知の事実だ。米国務省はこれ以上、北朝鮮に騙されてはならないと警戒姿勢を強めている。鄭氏は、頻りと北朝鮮の代弁をしている。金委員長は核放棄の意思があると強調する。だから、北が核放棄できるように米朝は話合いを行うべきである、という立場である。

 


鄭氏が、新外交部長官になった裏には、初代外交部長官として3年7カ月間在職してきた康京和(カン・ギョンファ)氏が、北朝鮮から非難されたことを受けて更迭されたという見方が流布されている。こういう事情も手伝い、鄭氏は北朝鮮側を代弁する発言をしているのでないか、と見られる。康氏の更迭については、後で取り上げたい。

 

(2)「外交関係者の間では、鄭長官が韓半島平和プロセスを再稼働するという目標を設定したことに対し、非現実的な反応が出ている。バイデン政権がトランプ大統領当時とは異なる「新しい戦略」を検討するという公式立場を明らかにした状態で、韓国外交部長官が従来の対北朝鮮戦略を再活用するという立場を明らかにした自体が、異見を公然と表す姿になったからだ。鄭長官は5日の人事聴聞会の冒頭発言で「韓半島平和プロセスは選択ではなく進まなければいけない道だ」と述べた」

 

米バイデン政権は、トランプ政権当時と異なる「新しい戦略」を検討する、としている。トップ・ダウン方式でなく、ボトム・アップ方式である。まず、事務方同士の交渉が始まる訳で、これまでの北朝鮮流でいけば、のらりくらりと時間を稼いで好条件を引き出すことになろう。文政権は来年5月までが任期である。時間的に、米朝首脳会談開催は難しくなる。ましてや今年7月、東京五輪での日米韓朝4ヶ国首脳会談は開催不可能であろう。

 


外交部長官の交代については、次のような裏事情が指摘されている。

 

『中央日報』(1月20日付)は、「韓国外交部長官・康京和氏が電撃交代…金与正氏『分不相応な評価』『正確に計算』発言のためか」と題する記事を掲載した。

 

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政府初代外交部長官として3年7カ月間在職していた康京和長官が20日、交代名簿に入った。文大統領はこの日、康氏の後任に鄭義溶前青瓦台(チョンワデ、大統領府)国家安保室長を内定した。政界および外交界からは、今回の人事をめぐり「サプライズ改閣」という評価が出ている。康氏は交代および更迭の理由がないばかりか、当初改閣の対象として議論されていなかったからだ。

(3)「外交界では、康氏の交代が北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)労働党中央委員会副部長の談話と関連しているのではないかという話も出ている。与正氏は12月9日、朝鮮中央通信を通じて発表した談話で、康氏を公開的に指定して「われわれの〔新型コロナウイルス(新型肺炎)〕非常防疫措置に対し分不相応な評価をしたことを報道で具体的に聞いた」と話して猛非難した」

 

下線部には、次のような背景がある。


当時の与正氏の発言は、康氏が昨年12月5日、国際戦略研究所(IISS)主催のバーレーン国際会議に出席して「北朝鮮がわれわれの新型コロナ対応支援の提案に反応しないでいる。この挑戦が北朝鮮をより一層北朝鮮らしくしていると考える」と話したことに対する反応と解釈されている。康氏はこの席で、北朝鮮は新型コロナ感染者がいないと主張しながらも新型コロナ関連の非常防疫措置を実施していることに対し、「少し不思議な状況」と言及したもの。

(4)「与正氏はこれを受けて、康氏に対して「前後の計算もなく妄言を浴びせるところを見ると、冷え込んだ南北関係にさらに激しい冷気を吹き込もうとして必死の様子だ。われわれはこのことを末永く覚えておき、おそらく正確に計算しなければならないだろう」と話した。北朝鮮で「計算する」という言葉は「善し悪しを判断し、その対価を支払わせる」という意味を持つ。偶然にも、与正氏の談話が出た後で康長官が交代名簿に入った」

このパラグラフで、与正氏が康氏を猛非難していることが分かる。文大統領は、過去にもこういう経緯で閣僚を更迭してきた。文氏が、生命とする南北交流促進という視点からすれば、外交部長官の交代を決断しても不思議ではない。