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かつての「大英帝国」は今も、外交巧者である。英国は、中国の香港への「国家安全法」導入で、一国二制度が破棄されると、矢継ぎ早に日本へ接近している。第二の「日英同盟」に戻ったかのように動き出しているのだ。狙いは、中国の出鼻を挫く戦略だ。香港ではメンツを潰されたが、日本と手を結んで「報復」するという英国魂を見せつけている。

 

英国は2月1日に、TPP11(環太平洋経済パートナーシップ協定)への加盟申請を行った。年内に正式加盟の見通しである。これに、最もショックを受けているのが中国という。先を越されたという意味である。もともと中国は、TPP11に加盟する「資格」がない国だ。国有企業が壁である。国有企業を解体して民営企業にすれば、共産党幹部の行く場所が消える。これは、国内政治上で大きなマイナス要因なのだ。

 


『日本経済新聞 電子版』(2月10日付)は、「
習氏のTPP戦略に思わぬ壁、英国『脱欧入亜』の衝撃」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。

 

英国と中国は、外交関係が急速に冷え込みでいる。特に興味深いのは、欧州連合(EU)から離脱した英国の「脱欧入亜」と日本への接近が、中国のアジア・太平洋戦略に大きな影響を及ぼしかねないとする中国の外交関係者らによる分析だ。一部では、1世紀以上前の20世紀初頭、アジアの力学を変えた日英同盟(1902~23年)の再来になぞらえた「日英準同盟」とみて警戒する向きもある。

 

(1)「日英接近への見方は各国で様々な議論があるが、少なくとも中国系メディアでは日英準同盟を警戒する議論が注目を集めている。「かつての英日(日英)同盟はロシアへの対抗ばかりではなく、中華復興を抑え込む隠れた意図もあったことを忘れてはいけない。英国は今、再び日本と組む『準同盟』で中国の飛躍を阻もうとしている」。「『脱欧入亜』をめざす英国が環太平洋経済連携協定(TPP)参加を正式申請したのは正直、手痛い。習が明言したように中国が真剣に検討しているTPP参加の大きな壁になりかねない」、指摘している」

 

中国がTPPへ加盟するには、加盟条件を引下げがなければ不可能である。今回の英国加盟申請に当っても、日本は「加盟条件の引下げはない」と明言している。中国は、TPP参加を話題にするが、条件を一つ一つ洗い出したことがあれば、簡単に「TPP」など口にもできないはずだ。宣伝戦で言っているだけの話に過ぎない。真剣ではない。

 


(2)「深まる日英関係が、日米同盟を補完する新たな「準同盟」色を強め、さらに中国けん制の枠組みである米国、日本、インド、オーストラリア4カ国による首脳会談などに英国も加われば、中国として身動きが取りにくくなる。これは新型コロナウイルス禍で激変した後の新しい国際秩序を巡る前哨戦でもある」

 

中国は、英国が「クアッド」(日米豪印)に加わることを最も警戒している。英国を、「クアッド」に加えようと言い出したのは米国である。バイデン政権は、経済政策と外交政策を結合するという戦略を採用しようとしている。日米豪は、元々はTPPメンバーである。米国は現在、離脱しているもののいずれ復帰する。そうなると、英国のTPP11加盟によってTPP11が、経済政策と外交政策を一体化させる構図が完成するのだ。こう見れば一層、中国がTPP11に加盟できる余地はゼロになる。

 

(3)「中国が経済安全保障の絡みで気にしているのは、英政府によるTPP加盟申請を日本が歓迎したことだった。TPPが18年に発効して以来、新たな加盟申請は初めてだ。バイデン政権は簡単にはTPPに戻る選択肢を取れない。これは中国のアジア太平洋戦略に有利だ。だが、代わりに英国の参加が先に認められれば交渉戦術上、中国は手詰まりとなりかねない。英国の時ならぬ「脱欧入亜」は中国の鬼門なのだ」

 

日本の本音は、「反中国」である。尖閣諸島を奪取しようとしている中国へ親近感を持つはずがない。世論調査によれば、世界で一番の「反中」は日本である。米国を上回る。このことを知らないはずがない。中国の「おとぼけ」であろう。日本は、中国のTPP加盟を阻止する「一番手」であるのだ。中国をTPPへ加盟させないためにも、英国へ「加盟条件の変更はない」と通告済みである。日英豪が今後、手を組んでTPP11を動かすはずだ。

 

(4)「中国としても手をこまねいているわけではない。貿易関係者は、「それなりの布石は打っている。カギはニュージーランドだ」と指摘する。1月下旬、中国はTPP参加国であるニュージーランドと自由貿易協定の改定に署名した。中国が将来、TPP参加を申請する際、その助けが必要になる。ニュージーランドはTPPに発展した原協定の4当事国の一つで、現在も大きな役割を担う。英国が21日に加盟意思を通知した寄託国もニュージーランドだ。中国は、米中対立の仲介者としても期待できるとみている」

 

中国は、ニュージーランドに接近しているが、それを逆に利用しているのはニュージーランドである。TPP11では、日本、豪州、シンガポール、ベトナムが発言権を強めている。ニュージーランドは、「その他大勢」である。TPPは、米国に近い国が集まる経済・防衛連携体である。中国は異質なのだ。中国はせいぜい、「一帯一路」の盟主で満足すべきであろう。

 

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