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習近平氏は、米国を「衰退する大国」と見ているという。これは、側近の民族主義者の見方に被れたもので極めて危険である。戦争は、相手国が弱いと誤解して始まる公算が大きいだけに、周辺国は中国の侵略に十分に警戒すべきだろう。

 

中国中央政治局常務委員の王滬寧(ワン フーニン)は、序列5位である。中国を代表する民族主義者だ。米国留学経験を持つが、米国の弱点だけを研究してきたという変わりダネである。生粋の愛国主義者であり、習氏の「腰巾着」となった。それだけに、危険な人物である。軍事力を信奉しており、習氏の強硬策を裏で支えている。戦前の日本では、大川周明に匹敵する。


『ニューズウィーク 日本語版 電子版』(2月17日付)は、「
ラッド元豪首相の警告『習近平は毛沢東になりたがっており、しかもアメリカを甘く見ている』ー米外交誌」と題する記事を掲載した。

 

中国の習近平国家主席は、台湾との再統一を果たすことで故毛沢東国家主席並みの地位を中国共産党内で獲得することをめざしており、そのために今後10年で米軍を上回るほどの軍事力を手に入れようとするだろう、とオーストラリアのケビン・ラッド元首相は述べた。現在、ニューヨークでアジア・ソサエティー政策研究所長を務めるラッドは、外交問題専門誌『フォーリン・アフェアーズ』の3月・4月合併号に自説を発表。これからの10年を「危険な10年」と呼んだ。

 

(1)「台湾はアジア太平洋地域における紛争の火種のひとつであり、2020年代にアメリカと中国が台湾をめぐって衝突する可能性は高い。ラッドによれば中国政府指導部がアメリカを「衰退の一途をたどる」超大国と見なす一方で、中国の最高指導者である習は自信を深めている。米国防総省はその報告書で、今後数十年にわたる中国政府の軍事的野心を明らかにした、とラッドは指摘。そこには、2027年までに人民解放軍(PLA)を米軍に匹敵する「世界クラス」の近代的な戦闘部隊に増強するという中国政府の計画があることも明記されている」

 

軍拡は、いったん始まると縮小できないのが弱みである。中国経済が、今後の軍拡に耐えられなくなることは必至だ。急速な高齢化で、膨大な社会保障費と軍需費は、両立できない事態が目前に来ている。

 

中国は、米国経済の強靱さを全く理解していないが、王滬寧氏の独断による誤りである。それほど弱いと見るならば、なぜ米国でスパイ活動し技術窃取しているのか。矛楯した行動である。習近平のこの思い上がりが、中国を破滅に向かわせるのだ。

 

(2)「台湾政府独自のセキュリティ分析によると、PLAは、海上軍事戦略「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」を目的とした兵器の大量使用によって台湾海峡紛争から米軍を締め出そうとしている。東シナ海と南シナ海における中国政府の領有権の主張と軍事行動は、その戦略の一環だ。習をはじめ中国政府当局者は、台湾の本土への「統一」を中国の中核的な目標の一つであると唱えてきた。だが、中国指導部は「台湾問題」に対する平和的解決が過去70年のどの時点よりも可能性が低いことを知っていると、1980年代に外交官として北京に駐在したラッドは述べる」

 

中国指導部は、台湾問題の平和的解決が困難であると知っている。とすれば、軍事的解決であろう。戦争に訴えることは確実だ。それを、いかに抑止するかである。

 


(3)「ラッドは、「中国が習近平の下でより独裁的になった。香港は、厳しい国家安全保障法が施行され、野党政治家が逮捕され、メディアの自由が制限された。これを見て、台湾が『一国二制度』の形で中国に再統一されるという楽観論も消え失せた」と指摘する。中国は、少なくともアジア地域においては、米軍に代わる存在となり、台湾海峡において圧倒的な軍事力を誇示することで、米軍に手を引かせることに成功するかもしれない。「アメリカの支援がなければ、台湾は降伏するか、自力で戦って負けるだろうと習は考えている」とラッドは書き、台湾を制圧するという「最も重要な目標」を達成すれば、「習は毛沢東と同じレベルにのぼりつめるだろう」と付け加えた」

 

下線部は、完全な中国の見誤りである。米国主導の「インド太平洋戦略」は、台湾を見捨てないための戦略である。いずれ、「アジア版NATO」が結成される。中国は、袋小路に追込まれる。

 

(4)「習近平はあくまでも強気だが、中国政府中枢の意思決定者は重大な課題に直面しているとラッドは見る。トランプ前大統領の下でアメリカから武器を購入することによって台湾自身の防衛能力が底上げされている。民主的な台湾を軍事力で占領することから生じる中国支配の正統性に対する「取り返しのつかない損害」も問題だ。だが、中国政府に最大の誤算があるとすれば、台湾有事の際のアメリカの出方だろう。中国はそれを予測できずにいる。 勝てないと思ったらアメリカ政府は戦わないだろうと予測することは、中国政府の「体にしみこんだ独自の戦略的リアリズムの投影」だとラッドは述べ、軍事作戦が失敗するとアメリカの威信と地位が失われる可能性があると、中国政府幹部は信じている、という点を指摘した」

 

台湾問題は、世界の民主主義の行方を左右する問題である。台湾が中国に占領されれば、米国の威信は地に墜ちたも同然である。米国と同盟を結ぶ意味がないのだ。台湾も防衛できない米国へ見切りつけ、中国へなびく周辺国が出てこないとも限らない。誇り高い米国が、こういうリスクを冒すだろうか。米国は必ず台湾防衛に立ち上がる。米国の国内法である台湾関係法は、そういう内容である。

 


(5)「ラッドは、「中国が計算に入れていないのは、その逆の可能性だ。第2次大戦以来アメリカが支持してきた民主主義国のために戦わなければ、アメリカも自滅しかねない。特にアジアにおけるアメリカの同盟国が、長い間信頼してきたアメリカの安全保障があてにならないと認識すれば、今度はそれぞれが中国と独自に取り決めをしようとするかもしれない」と分析している」

 

米国は、中国の威嚇に恐れをなす国でない。世界覇権が、米国に委ねられている理由を考えるべきなのだ。経済的に見ても、潜在成長性の大きいのは米国である。中国は、すでに「日没する」経済状態に陥っているのだ。

 

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