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韓国は、国際情勢の変化を顧みず戦作権(統帥権)の移管を在韓米軍に求めている。韓国の主張によれば、戦作権の移管は米韓同盟の軍事指揮構造の変化にすぎないとしている。しかし、指揮構造変化は、重大な問題である。指揮官の意思一つで米韓同盟が生きるも死ぬも決まるからだ。

 

米国は、対中国防衛線の主軸をインド太平洋においている。朝鮮半島防衛は二次的な位置づけに後退するのだ。ただ、韓国がインド太平洋戦略に参加するならば、朝鮮半島防衛はインド太平洋戦略の一環になる。現在の文政権は、インド太平洋戦略に参加する意思を見せないのだ。この状態で、韓国軍に統帥権を移管したならばどういう事態になるのか。米国は、インド太平洋戦略と朝鮮半島防衛を一元的に行えない危険性が出てくる。

 


中朝は、一体化作戦に出てくるだろう。インド太平洋と朝鮮半島の同時軍事進行も予想される。その場合、指揮官が異なれば二元化されて不利な戦闘を強いられる可能性も出る。例えば、中国が尖閣諸島と台湾に同時攻撃を仕掛け、北朝鮮が38度線を突破する作戦に出て来た場合、兵員をどう動かすのか。それは、米軍の一元化した戦術で戦う方がベストである。米国が、在韓米軍をどう動かすか、重要なポイントになるからだ。

 

『ハンギョレ新聞』(2月25日付)は、「都合よく変わる米国の『戦時作戦統制権の移管』方針」と題する寄稿が掲載された。筆者は、キム・ジョンソプ世宗研究所首席研究委員である。

 

盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代、韓米連合司令官を務めたバーウェル・ベル元司令官が今月10日、次のように述べた。「北朝鮮が核兵器で武装している限り、戦時作戦統制権(戦作権)の移管を進めてはならない。戦作権の移管が強行されれば、韓国は北朝鮮に服属させられる危険性が高まる」。「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)に送った声明書の内容だ。実に衝撃的な主張だ。戦作権の移管が実現すれば、米国は同盟パートナーの役割に専念しないかもしれないし、韓国軍が北朝鮮に撃退される可能性が高いということだ

 


(1)「朝鮮半島の戦作権の責任を担っていた(元)米軍司令官の発言であることから、軽く聞き流すわけにはいかない。韓国国内でも、北朝鮮の核の脅威が存在する限り、戦作権の移管は時期尚早という声が高い。しかし、はたしてそうだろうか。戦作権の移管は韓米同盟の軍事指揮構造の変化にすぎない。在韓米軍も維持されるだろうし、連合司令部の体制にも変わりはない。重要な変化は、韓国軍の将軍が司令官となり、米軍の将軍が副司令官になるだけのことだ。なのに「北朝鮮が韓国軍を撃退」し、韓国が「北朝鮮に服属」させられるというのはどういう意味なのか」

 

このパラグラフは、完全に素人の寝言同然である。軍隊の指揮権は絶対的ものである。韓国司令官がトップに立てば、韓国大統領の命令が反映されるはずだ。文大統領であれば、北朝鮮からの攻撃には即時「戦闘中止」の白旗であろう。これほど危険なことはない。

 

(2)「非核保有国を核の脅威から守るという公約と個別国家の核武装の自制は、一種の交換関係にある。むろん、北朝鮮の核の脅威に対する韓国軍の対応能力を高めることは必要であり、韓国軍が司令官になって主導的に戦作権を行使するのに役立つだろう。しかし、北朝鮮の核の脅威は基本的に韓国軍単独ではなく、同盟の能力で対応しなければならない問題だ。したがって北朝鮮の核の脅威への対応は、戦作権の移管の決定的要因や条件ではなく、戦作権の移管前後を問わず、韓米が共に努力しなければならない課題と理解するのが正しい

 

下線部も誤解している。北の核脅威に対しては唯一、米軍の核保有の威力で防止することができる。核を持たない韓国軍が、どうやって北の開戦を思い止まらせるのか。こういう夢のような話で、統帥権を論じてはいけないのだ。

 


(3)「では、ベル(元)司令官はなぜこのような主張を展開したのか。これは元将軍の私的見解だけではない。米国政府は戦作権の移管に対し、なぜ「条件」を満たすことだけを強調し、消極的な立場を堅持しているだろうか。米中競争などの流動的な安保環境の下で、朝鮮半島で軍事的主導権を手放したくないという思惑が大きいだろう。局地的衝突など危機段階で韓国軍に対する統制が弱まるのではないかという懸念もあるだろう

 

下線部分が、米国の本音であろう。韓国は、それが分からず自国だけの立場で統帥権移管を求めている。米軍は、他国軍の指揮下で戦ったことがないのだ。そういう歴史を考えると、韓国だけ統帥権を渡すことは考えにくい。それは、韓国から米軍が撤退する時であろう。米軍が、韓国に駐留している意味を考え直すことだ。

 

(4)「重要なのは、戦作権の移管に対する米国の立場が、米国の戦略によっていくらでも変わり得ることだ。盧武鉉政権とブッシュ政権は2007年、戦作権を2012年4月に移管することで合意したが、その過程で移管時期の繰り上げを望んだのはむしろ米国側だった。当時、ラムズフェルド米国防長官は、「韓国軍の能力を信頼する」として、2009年10月の早期移管を主張し、韓国国防部を困惑させた。イラクやアフガニスタン戦争などの対テロ戦争に陥っていた米国としては、朝鮮半島に縛られている在韓米軍をもっと柔軟に活用したいという計算が働いたのだ」

 

米国が、統帥権について考えがコロコロ変わると指摘しているが、国際情勢の変化に即応していると見るべきだ。韓国が、自力で防衛できず米軍に「助っ人」を依頼する現状では致し方ない話であろう。

 

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