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中国は、昨年の早い時期にロックダウンを行い、コロナ感染を抑え込みに成功した。これが、ワクチン接種の緊急性を薄めたので、集団免疫の到達時期を遅らせている。逆に、英米は感染拡大で大きな被害を受けた結果、ワクチン接種の必要性を周知させ集団免疫時期を早める。

 

集団免疫とは、社会の7~8割がワクチン接種で免疫性を持つと、経済活動が早まり、経済成長率を押し上げるという図式である。

 


『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月3日付)は、「アジアの景気回復に遅れ、コロナ感染抑制が裏目に」と題する記事を掲載した。

 

アジア諸国は昨年、新型コロナウイルスの流行抑制で世界をリードした。しかし今では一部の国で、国境封鎖など感染拡大を防ぐための規制が足かせとなっており、世界経済の回復を主導する上で米国などに後れを取る可能性がある。中国、タイ、オーストラリアなどの国々は国外からの人々の流入を遮断し、外国から持ち込まれたウイルスを強力に抑え込むことで、感染拡大をほぼ食い止めてきた。各国の市民は通常に近い生活を送っており、その経済は一部の例外を除いて欧米諸国ほど深刻な打撃を受けていない。中国は昨年、国内総生産(GDP)の2.3%増を確保した」

 

(1)「こうした成功により、多くのアジア諸国ではワクチン接種の緊急性が薄れた。コロナ感染者が少ないためだ。 ゴールドマン・サックス の推計によれば、大半のアジア諸国では全人口に占めるワクチン接種済みの人の割合はごくわずかであり、集団免疫は2022年まで獲得できないという。ゴールドマン・サックスは、米国と英国では5月までに国民の半数がワクチン接種を終える可能性が高いとみている」

 

    四半期GDPの増減率(前年同期比:%)

   21年1Q  2Q   3Q  4Q

中国   17.3  6.6  5.4  5.

英国 (-)6.7 20.1  7.0  7.

米国       13.0   7.3  7.

ゴールドマン・サックス調査 

上掲のデータによれば、中国は2Q(第2四半期)以降のGDP成長率が米英を下回る予想である。これは、前年同期比の増加率だ。中国の成長率鈍化を予想させる最初のデータである。

 


(2)「(ワクチン接種の遅れ)のため一部のアジア諸国は、世界の多くの国々が外国との往来や経済活動を再開させる中でも、国境封鎖の維持を強いられる可能性がある。ほとんどの国民が自然免疫を獲得していないためだ」

 

中国は、ワクチン接種の遅れによって、集団免疫に達する時期が22年にずれ込むであろう。

 

(3)「ゴールドマン・サックスのアジア太平洋地域担当主任エコノミストのアンドリュー・ティルトン氏は、「アジアはコロナ対策で成功しているのに、皮肉にも集団免疫の獲得で後れを取っている」と指摘する。米州と欧州は今後数四半期にわたって世界最速ペースの景気回復を遂げる可能性があるが、アジアでは発射台は高いものの回復ペースが遅く、一部諸国では景気が悪化する可能性もあると同氏は述べている」

 

コロナの早期集団免疫達成には、ワクチン接種しか道がない。中国では、日常生活ではマスクをしない姿も珍しくなくなっている。こういう状態が、集団免疫の実現時期を遅らせるのであろう。

 

(4)「オーストラリア・ニュージーランド銀行 (ANZ)の主任エコノミスト、リチャード・エッツエンガ氏は、「コロナ抑制に成功した大半の国々では、国境規制を緩めるどころか厳格化している。外国との往来がなくとも国内経済がまずまず健全に機能できることに気付いたからだ」と述べた。とはいえ、国境閉鎖やその他のコロナ抑制策には犠牲が伴う。投資家や外国人労働者、観光客や留学生を呼び込むのが困難になるからだ。外国に行く必要のある国民も簡単には帰国できない」

 

早期にコロナ抑制に成功した大半の国々は、「巣ごもり経済」で何とか過ごしている。これが、ワクチン接種の必要性を薄めている。こうして、本格的経済活動への立ち上がり時期を遅らせてしまうと懸念される。

 

(5)「ムーディーズ ・インベスターズ・サービスは最近、他のエコノミストと同様、今年の米国の成長率予測を上方修正し、昨年11月時点の4.2%から4.7%に引き上げた。ワクチン接種によってレストランなどのサービス業の営業正常化が可能になるほか、景気刺激策によって景気が下支えされるためだ。S&Pグローバル ・レーティングは1月のリポートで、消費者需要の回復ペースは欧米がアジアを上回っていると指摘。アジア諸国がワクチン接種のペースで後れを取り、家計が慎重さを維持し続ける中で、このトレンドは続く公算が大きいとした。リポートは「アジアが回復をけん引して世界を窮地から救い出すと言われているが、それは必ずしも正しくない」と述べている」

 

このパラグラフでは、貴重な指摘をしている。ワクチン接種効果が、GDPを支える要因になるとしている点だ。最近のコロナ騒動で、中国のGDPは2028年に米国を抜くと喧伝されてきた。だが、ワクチン接種のもたらす集団免疫効果が、意外な撹乱要因になって登場したのである。

 

S&Pリポートは、これまで「アジアが回復をけん引して世界を窮地から救い出す」としてきた予測を変えた。先進国の底力を見せるのかも知れない。

 

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