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ミャンマーの軍事クーデターで、中国はその動向にヤキモキしているという。1000億ドル規模の事業が今後、どうなるのか不明であるからだ。東南アジアの外交界によると、中国政府は過去10年間にわたるミャンマーの民主化移行過程で、同国に注ぎ込んだ前記の巨額投資が今後、どうなるのかと懸念を深めていると指摘している。

 

『日本経済新聞 電子版』(3月9日付)は、「中国が懸念するミャンマーの1000億ドル事業」と題する記事を掲載した。

 

ミャンマー国軍が2月に起こしたクーデターに対し、隣国の中国は慎重な姿勢を続けている。中国はミャンマーが民主化プロセスを進めるなか、同国のインフラ整備などに巨額の資金を投じてきたが、政変による政情不安が脅威になる可能性を警戒している。

 

(1)「東南アジアの外交関係者は、こうした中国の態度の背景に「クーデターへの不満」があると指摘する。なぜなら 「(中国は)ミャンマーにおける経済面での関わりが深いため(クーデターで)失いかねないものも多いからだ」と指摘する。ミャンマーの民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏が党首の国民民主連盟(NLD)と中国との強力な関係は21日のクーデターの2週間ほど前に確認された」

 

中国は、軍事クーデターに不満であると指摘している。従来の説は、中国がミャンマー国軍を焚きつけたという見方であった。ところが、ここでの指摘は全くの逆である。中国は、アウン・サン・スー・チー氏が党首の国民民主連盟(NLD)と深い関係を結んでいたと言うのだ。

 


(2)「中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は1月中旬、ミャンマーの首都ネピドーでスー・チー国家顧問兼外相(当時)やウィン・ミン大統領(同)と会談した。王氏がスー・チー氏と会談したのは、中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」の一環である「中国・ミャンマー経済回廊」の推進で合意するためだ。スー・チー氏のNLDは2020年11月の総選挙(上下院選)で改選議席の約8割を獲得していたが、中国側は21日招集の連邦議会を経て正式に決まる「第2次スー・チー政権」の発足を待てなかった」

 

ミャンマー国軍は、NLDと中国が密接な関係を構築しているので、将来を案じてクーデターを引き起したという結論になる。中国は、国連で他国と協力して軍事政権排除に動き出さねばならぬ立場であろう。その動きが鮮明でないとすれば、国軍の反発を受けて過去の投資1000億ドル事業が危険にさらされるという配慮であろう。

 


(3)「中国南部の雲南省とベンガル湾に臨むミャンマー南部の間に広がる経済回廊は一帯一路の一部であり、インド洋を通じた石油貿易へのアクセスにつながる。38案件の事業規模は総額1000億ドル(約108600億円)に達する。
中国と東南アジア諸国の関係に詳しい香港大学の政治学者、エンゼ・ハン氏によれば、中国は「ミャンマーを不安定に陥れる(今回のような)劇的な政権交代」を決して見たくなかったと推測する。中国とNLDの関係は良好だったので、中国はミャンマー国内の自国利権がクーデターでどうなるか「極めて深刻な不安を抱えている」と指摘する

 

ミャンマーの隣国インドは、クーデター事件を静観する姿勢である。これまでミャンマー国軍と関係を持ってきたインドが、仲裁的な動きをしないのも不思議である。

 

(4)「国連安全保障理事会は、クーデター直後の2月上旬、中国を含む15理事国すべての同意に基づく見解として「ミャンマーの民主的移行への継続的支援」や「人権や法の支配の尊重」などを柱とする報道声明を発表した。議長国の英国が求めたクーデターを明確に非難する声明案には中国が修正を求めたが、東南アジア諸国のベテラン外交官の一人は、中国にしては「異例の文言」に同意したと解説した。中国政府として「国軍のクーデターと距離を置く」試みだったというわけだ

 

中国は、ミャンマーの権益1000億ドルの行方が気になるので、国軍と距離を置いているという解釈である。

 


(5)「ヤンゴンを拠点とするシンクタンクの専門家は、「中国はこの件(注:国軍出身のテイン・セイン大統領は、総事業費36億ドルのミッソンダム建設計画を凍結)に不満で、NLDが(15年の総選挙で親軍政党に大勝して)政権握ると、強力に支援した」と解説する。ミャンマー駐在経験のあるタイの外交官によると、中国とNLDの蜜月は国軍をいらだたせた。スー・チー氏は「中国に近すぎる」と。どこの国でも国軍のナショナリズムは強く、外国を警戒する。この外交官は、国軍が「中国との関係を取り仕切る」のは自分たちの役割だと考え、それをスー・チー氏が損なったと受け止めていたと推測する」

 

下線部が、今回のミャンマーのクーデター事件の真相かも知れない。スー・チー氏が、中国に接近し過ぎたということで、国軍が立ち上がりそれを切断したというもの。こういう仮説に立つと、インドが静観している理由も分かるのだ。国軍が、スー・チー氏の中国接近を阻止したことは、インドの利益になるからだ。インド・中国・ミャンマー国軍の三者が、微妙に絡み合う構図である。

 

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