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米国の先手必勝外交

中国は悲観論に立つ

使い果たした成長力

レッドライン5項目

 

米国バイデン政権になって以来、最初の米中外交トップ会談が、3月18~19日の米アラスカ州アンカレッジで開かれた。このトップ会談は冒頭で、米中が激論するという異常な幕開けになった。

 

米国は事前の3月12日、インド太平洋戦略参加4ヶ国首脳による「クアッド」(日米豪印)オンライン会談を開催して、対中へ意見調整を済ませた。さらに、日米外務・防衛「2+2会議」(3月16日)や米韓外務・防衛「2+2会議」(3月18日)を開催して、入念な意見の摺り合わせを行なった。

 

米国は、こうした手順を踏んで米中外交トップのアンカレッジ会談に臨んだのである。米国は、米中で合意を引き出すことよりも、中国へ「レッドライン通告」が目的であった。最初から「一回限りの会談」と公言しており、共同声明を出す予定もなかった。一方の中国は、米中外交トップ会談を恒例化したい気持ちであった。米国から拒否されたのである。

 


米国は、まさに「巌流島の決闘」に似た決意で臨んでおり、中国へ厳しいレッドラインの「申し渡し」を行なった。米ソ冷戦に続く、米中「新冷戦」と呼ぶべき内容である。

 

米国の先手必勝外交

米中外交トップ会談の冒頭で、ブリンケン米国務長官は次のように発言した。

 

1)ルールに基づく国際秩序は、各国が意見の相違を平和的に解決したり、多国間の取り組みを効果的に調整したり、グローバルな商取引に参加したりするのに役立つ。

 

2)既存国際秩序に取って代わろうとするものは、力こそが正義で勝者が総取りするような世界で、全ての国にとってはるかに暴力的で不安定なものとなる。

 

3)新疆ウイグル自治区、香港、台湾、米国へのサイバー攻撃、同盟国への経済的な強制行為に関する我々の深い懸念についても提議する。これらの行為は、いずれも世界の安定に欠かせないルールに基づく秩序を脅かすものだ。単なる内政問題として片付けるのではなく、この場で提議する必要がある。

 

4)米中関係は競争すべきところは競争的に、協調できるところは協調的に、敵対しなければならないところは敵対的になるべきだ。両国関係を前進させるという目標を持ちつつ、我々の持つ懸念や優先事項について明確に伝えたい。

 


以上の4点についてコメントを付したい。

 

1)国際関係は、ルールに基づく行動が基本である。これから逸脱した行動は混乱を招く。米国が、最初にこの点を持ち出したのは、中国が既存のルールを無視して、「中国流」の優勝劣敗を持ち出していることをけん制した。

 

2)国際ルールの無視は、暴力を是認することになる。中国の南シナ海支配は、常設仲裁裁判所から「不法で根拠なし」という判決が出ながら、「紙くず」と無視して居座り続けている。米国務省は昨年7月、正式に中国の南シナ海占拠を非難した。戦前の日本が、満州(中国東北部)を占領して国際連盟(国連の前身)から、その違法性を指摘されたと同様に、中国はこの判決を無視し続けられるはずがない。

 

3)新疆ウイグル自治区、香港、台湾、米国へのサイバー攻撃、同盟国への経済的な強制行為は、決して内政問題でなく世界の安定を損ねる。中国は、これを内政問題として一切の議論を封じている。米国は、これら問題を解決すべく立ち向かう決意を示した。

 

4)米中関係は、敵対する部分と強調できる部分を分ける。敵対部分では、絶対に譲らないという意思表示を明確にした。これは、米国が「新冷戦」を宣言したと読むべきである

 


中国は悲観論に立つ

中国の韋宗友・復旦大学米国研究センター教授は、『朝日新聞 電子版』(3月20付)で、次のような感想を語っている。

 

1)米国にとっての中国の戦略的位置づけは、トランプ政権と変わらず競争相手であること。

 

2)トランプ政権とは異なり、貿易よりも人権や民主主義を重んじること。トランプ政権よりも同盟国との団結を重視すること。

 

3)米国は、同盟国や友好国と統一戦線を組み、人権や民主主義の問題で中国に対応を迫ってくるだろう。

 

4)バイデン政権は、中国への高関税を維持する方針である。中国が科学技術で米国を超えることへの警戒も解かないだろう。気候変動対策など協力可能な分野は存在するが、より原則的な問題で根本的な対立を抱える。

 

5)米中関係改善には、悲観的にならざるをえない。

 

復旦大学の韋宗友教授は、今後の米中関係を冷静に読んでいる。中国は、政治体制から見て人権や民主主義の問題で米国と妥協不可能であろう。まさに、「新冷戦」の開始である。

(つづく)

 

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