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アップルが開発中である夢の自動EV(電気自動車)は、まだ受託生産先が決まらず交渉中という。韓国の現代自動車や同傘下の気亜が一時、有力な受託生産先と報じられ、株価が急騰する場面もあった。また、日産自動車も「交渉中」と噂されたが、空振りに終わった。その後は、すっかりアップルカーの話題が消えたが、新たに鴻海(ホンハイ)が受託生産先に浮上している。

 

『ブルームバーグ』(3月30日付)は、「アップルカー iPhoneで培った手法で開発か 自動車会社と協議難航」と題する記事を掲載した。

 

アップルには新製品の投入に向けお決まりのやり方がある。自社で設計、独自の部品を調達し、外部のメーカーに組み立てを委託し協力していくというものだ。

 

(1)「自動車市場への参入を目指すアップルだが、一部の大手自動車メーカーとの協議は行き詰まっている。そのため「iPhone(アイフォーン)」などで培ってきた手法を採用し、製造を請け負う比較的知名度の低い企業と手を組む可能性がある。自動車の製造でアップルには主に3つの選択肢がある。既存の自動車メーカーとの提携、独自の製造施設建設、台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)やカナダのマグナ・インターナショナルなど受託生産事業者との協力だ」

 


かねてから、自動車の開発・生産受託の世界大手であるマグナ・シュタイヤー(オーストリア)の存在が注目されてきた。同社のフランク・クライン社長は日本経済新聞の取材に「マグナは車業界のフォックスコン(台湾・鴻海=ホンハイ=精密工業傘下)になりつつある」と述べたことがある。

 

マグナはこれまでに10社、30モデル、累計370万台の車を生産した。独メルセデス・ベンツの高級多目的スポーツ車(SUV)「Gクラス」、独BMWのセダン「5シリーズ」、トヨタ自動車のスポーツ車「GRスープラ」などだ。ソニーのコンセプトEV「VISION-S(ビジョンS)」の製造を受託し、最近は、アップルが参入を検討しているEVの提携先の候補として取り沙汰されたこともある。

 

(2)「アップルは韓国の現代自動車など複数の自動車メーカーと接触したが、協議は難航。このシナリオでは、アップルが自動運転システム、内外装および車載技術を開発し、最終的な生産を自動車メーカーに委託する。これは実質的には既存の自動車会社に対し、自社ブランドを捨て、新たなライバルの製造を引き受けるよう依頼するようなものだ」

 

既存自動車メーカーにとっては、受託生産によって固定費は引下げられるメリットがある。ただ、アップルカーの「下請け」というイメージは、「社格」に傷をつけるというマイナス面も考慮しなければならない。

 

(3)「アップルは機能の仕方や形など自動車の仕組みそのものの前提に挑もうとしているが、従来からの自動車メーカーは、そうした現行の価値基準を打ち砕くライバルとなる可能性を秘めた企業の支援には消極的だ。アップル、テスラ両社で長くマネジャーを務めた関係者は匿名を条件にこう指摘する」

 

アップルが、既存の自動車の枠を飛び出たEVとなれば、受託生産先の自動車メーカーには、自らライバルを育てることに協力するような矛楯を背負うことになる。こうなると、「アップル」というブランドに飛びつく危険性が高くなるのだ。

 

(4)「アップルと自動車業界の交渉はここ数カ月で立ち消え状態となっている。現代自と傘下の起亜自動車は電気自動車の開発に関する協議を確認していたが、その直後に協議を行っていないと説明。アップルの自動運転車チームは昨年、フェラーリの担当者と会ったものの進展はなかったと、事情に詳しい1人の関係者が明らかにした。日産自動車は今年2月、アップルと協議していないことを確認した」

 

現代自と傘下の起亜は、韓国株式市場が「好材料」と飛びついただけで終わった。アップルは、なぜか交渉をひた隠しするクセがある。株式市場で話題になれば、それだけで交渉を打ち切るという「高飛車」な態度だ。交渉過程を伏せておいて、「アッ」と驚かす手法を狙っているのかも知れない。

 

(5)「こうした事情を背景に、鴻海精密とマグナがアップルの自動車事業を巡る提携で有力候補に浮上していると、複数の業界関係者が明らかにした。鴻海精密はiPhone組み立てでアップルに最も頼られているほか、自動車事業にも進出。マグナも約5年前にアップルと自動車製造を巡り協議していた経緯がある」

 

アップルの「iPhone(アイフォーン)」の受託生産で密接な関係にある鴻海が、アップルカーの受託生産先に取沙汰されている。鴻海は3月25日、EV事業参入を発表した。同社への協力を表明したサプライヤーが1200社超に達したと明らかにした。ソフトウエアや自動車部品の世界大手が名を連ね、日本からは日本電産などが参加する。

 

鴻海によれば、2023年に量産を始め「25~27年にEV市場で世界シェア10%を獲得する」のが当面の目標としている。鴻海自身がEVの8割を設計して無料提供し、新規EV参加企業に割安EV生産を実現させるという企業モデルを考案した。生産は、鴻海が担当するもの。この鴻海EVモデルとアップルカーがどのように組み合わせるのか。鴻海は、独自モデルとアップルカーモデルの「二本立て」になるのだろう。