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中国国家主席の習近平(1953年生まれ)氏は、米国が弱体化し中国が繁栄に向かっていると心から信じている。この「火元」は、中国中央政治局常務委員の王滬寧(1955年生まれ)氏である。党内序列は5位だ。江沢民氏や胡錦濤氏の懐刀として活躍し、ついに習近平氏の側近として中央政治局常務委員にまで上り詰めてきた人物である。

 

王氏は、民族主義者である。米国へ留学したが、学問の研鑽を積まず、もっぱら政治的視点で米国の弱点を研究したという異色の学者である。この彼が、習近平氏に米国は衰亡して中国が発展するという「命題」を授けたと見られている。習氏と年齢は2歳ちがい。習氏に長期政権を担わせれば、王氏も共に顕職に留まれるという計算をしていることは疑いない。この個人的野望が、中国の運命はもちろんのこと、世界の運命まで狂わせようとしている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月30日付)は、「バイデン氏の対中戦略・『米国弱体化』認識に対抗」と題する記事を掲載した。

 

米中関係は、爆発しかねない危険な問題が埋め込まれた地雷原のようだ。しかし、その中でも最大のリスクは、気付きにくい内容である。それは、中国が米国の力の衰退を過信し、その認識に従って行動することだ。

 

(1)「中国が、米国と西側諸国のリベラルな秩序全体が長期的衰退の初期段階にあると確信した場合、自信過剰になった中国の指導部が一線を越えて余りにも挑発的になり、米国に強硬な反応を強いる恐れがある。中国のこうした認識は、同国の代表者やメディア組織によって表明されている。南シナ海、通商、とりわけ香港と台湾など、多くの地域や分野でそのリスクが表面化している。バイデン政権の戦略は、中国政府との本格交渉に臨む前に、米国の経済・外交・軍事面の底力を明確に示そうと努めることで、米国が政治的に分断され衰退しつつあるとの中国の主張に対抗するというものである。そのメッセージは「米国の力を見くびるな」という単純明快なものだ」

 

客観的に見て、米国が衰退し中国が発展するという根拠はゼロである。潜在成長力は、人口動態によって正確に予測可能だ。私が一貫して指摘しているように、生産年齢人口(15~64歳)は、中国の急減と米国の微増という形ではっきりしている。この人口統計こそ、米中経済の将来を適確に推測させる唯一の経済データである。これに、科学技術発展力などを加味すれば、中国の敗北は決定的である。早く、中国の妄想に水をかけて冷やしてやらねばならない。

 


(2)「バイデン大統領は、米国が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を克服し、経済を完全復活させ、経済インフラ投資計画の法制化の取り組みを開始したことを中国側にまず示したいと考えている。こうした段階を踏むことで、バイデン政権がより強い立場から交渉を開始できることが期待される。米通商代表部(USTR)の代表になったばかりのキャサリン・タイ氏が、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで「交渉で有利な立場を放棄する者はいないだろう」と指摘。これら関税をすぐに撤廃するつもりがないことを明確にしたのは、まさにそのためだ」

 

米国バイデン政権は、中国の妄念を醒まさせるために、米国の強さを彼らにはっきりと見せつけて、間違った開戦の引き金を引かないように思い止まらせなければならない。それには、同盟国の力と米国のイノベーション(革新)能力の健在ぶりを示す必要がある。米国が、中国をはるかに上回る実力を蓄えていることを認識させることである。

 

(3)「それと同時にバイデン政権は、いわゆる「航行の自由作戦」で南シナ海に米海軍の船舶を派遣するというトランプチームの慣行を続けている。これには、同地域における中国の領有権に関する主張を米国が受け入れないことを示す意図に加え、米国が同地域で軍事プレゼンスを維持する意向を示して同盟国を安心させる意図がある。これは恐らく最も重要な点だが、米国が継続して影響力を示そうとする努力は、バイデン政権がこれまでになく「クアッド」を重要視していることから確認できる。クアッドは、米国、オーストラリア、日本とインドの4カ国による非公式の連携枠組みだ」

 

米国は、クアッド(日米豪印)の結束によって、中国への対峙を示さなければならない。これが、中国の暴走を食止める一つのくさびになる。また、英国、ドイツ、フランスが海軍をアジアへ派遣することも防波堤になる。ともかく、中国の抱く「中国過信」を打ち砕かなければ、暴走を止められないのである。

 


(4)「米国の弱体化という認識に対抗することは、自国の分離した省にすぎないと中国が考える台湾をめぐる深刻な問題において、最も重要なものかもしれない。中国の習近平氏が、必要であれば軍事力を行使しても中国との統一を台湾に受け入れさせる方向に進み始めている可能性があることを、米当局者らは懸念している。香港の民主主義を粉砕しようとする動きは、その予行演習かもしれない。もしそうであれば、習氏にそれを思いとどませる最良の方法は、そうした行動をとれば、弱体化も衰退もしていない強力で国際的な影響力のある米国による対抗措置を懸念しなければならないことを、現時点で同氏に認識させることかもしれない

 

下線のように、習近平氏が台湾侵攻を謀れば、米国など同盟国が食止める姿勢をはっきりと打ち出すことが必要である。4月9日に予定されている日米首脳会談は、尖閣諸島と台湾の防衛が前面に出てくる可能性が強まった。これは、中国の過信を食止める一つの手段であることを示すものである。インド太平洋戦略は、アジアの平和を維持する上で大きな役割を担っている。

 

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