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中国が、米国をやり込める最終兵器として、「レアアースの輸出禁止」と「米国債売り」の二つが話題に上がる。本欄では、いずれも中国にとってマイナスであることを理由にして、あり得ないことだと指摘してきた。レアアースは、世界中に資源があること。中国が、米国へ禁輸措置を取れば、世界中で生産が始まって中国のシェア低下は必至である。米国債売りも危険である。基軸通貨が米ドルである以上、米国債の買い手は世界中にいるのだ。要するに、今の中国に対抗手段はないのだ。

 

『ロイター』(4月1日付)は、「中国の米国債売却、対米戦略で切り札とならずーアナリスト」と題する記事を掲載した。

 

通商や人権問題などで米中間の対立が激化し、地政学的な緊張が高まっているものの、アナリストや投資家は、中国が近い将来米国債の購入を大幅に削減する可能性は低いと指摘する。

 

(1)「BCAリサーチの地政学分野のストラテジスト、マット・ガートケン氏は「緊張が高まっているにもかかわらず、中国による急速な売却はみられない」と述べ、米国債の売却は、対米関係において中国が自身を傷付けることなく使える武器ではないとの見方を示した。仮に香港や台湾などを巡る問題が深刻化すれば、中国は「米国債をシグナルとして使うかもしれない」と指摘。ただ、そうなれば、世界の安定に対する懸念が高まり、他国が米国債購入に動く可能性があり、その結果、安全資産としての米国債需要は高まり、影響が抑えられると説明した」

 

米ドルの基軸通貨が揺るがない以上、中国が米国債を売って利回りを上げれば、好機とばかり他の投資家が買いを入れるはずだ。米国債の売り手が中国と分かれば、逆に人民元が売りたたかれるという反動が起こりかねないであろう。

 


(2)「モルガン・スタンレーのアナリスト、ミン・ダイ氏は最近のリポートで、中国の外貨準備は人民元高を受けてここ数カ月増加しており、それに伴い米国債への投資も拡大していると指摘した。中国が米国債投資を縮小することが難しいもう1つの理由は、米国債ほど流動性が高くリスクが低い市場が他にほとんどないことだ。中国が米国債を売却すれば米国債利回りは上昇し、その結果、投資先としての米国債の魅力は相対的に高まる。ブランディワイン・グローバルの債券ポートフォリオ・マネジャー、ブライアン・クロス氏は「金利上昇に伴い、海外の投資家などにとって米国債は魅力的になり、中国の売却後にその穴を埋めるため市場に参入する可能性がある」と説明した。さらに、米国の経済成長に影響を及ぼすほど米国債利回りが上昇すれば、米連邦準備理事会(FRB)が介入に動くことも予想される」

 

中国は、2年ほど前に米国への嫌がらせに米国債売却をちらつかせたことがある。中国が、米国債の最大保有国である当時の話だ。メディアでは、これを真剣に受け取って大騒ぎしたことがある。私は、米国債の高い流動性によってすぐに買い手がつくから心配要らないと言ってきた。仮に、中国が大量の米国債を一時に売りたたけば暴落して、中国自身が大損するはずだ。海のように広い米国債市場で、中国が嫌がらせをしても影響は少ないであろう。

 


(3)「
ガートケン氏は、いずれにしても米国債売却は「中国が簡単に使える武器ではない」と述べ、「中国は米国債の約5%を保有しているに過ぎず、針を動かすことはできてもそれ以上のことはできない」と指摘した。米財務省が15日発表した1月の対米証券投資統計によると、中国の米国債保有は1兆0950億ドルと、前月の1兆0720億ドルから増加した。ただ、ピーク時2013年の水準(1兆3200億ドル)は下回っている。海外勢では日本の保有残高が1兆2800億ドルと最も多かった。FRBの保有残高は先週時点で4兆9200億ドルだった」

 

中国の米国債保有率は5%という。これでは、国債相場を一時的に攪乱できても、大きな影響を与えられない。中国が、金融的側面で米国へ与える影響よりも、米国が中国へ与える影響の方がはるかに大きいのだ。それは、米国が基軸通貨国であることによる。中国が、ドル決済機構から除外される事態を考えれば、致命的欠陥を負うことは明白である。中国は、この最悪事態を想定して、デジタル通貨の試験を試みているもののいまだ国内対策である。

 

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