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韓国国防相は先ごろ、インドを訪問した。国防省報道官は訪問前、インド太平洋戦略の「クアッド」について話合わないとわざわざ断わり発言をした。だが、「断わり発言」をする方が不自然である。その後の韓国は、そろりそろりとクアッドの米国・豪州へ接近していることがわかった。日本は、「鬼門」と見て声を掛けていないようだ。敷居が高いのだろう。

 

『聯合ニュース』(4月6日付)は、「クアッドと新型コロナ・気候変動など事案別協力 韓国外交部」と題する記事を掲載した。

 

韓国の外交部当局者は4月6日、中国をけん制するために構成された米主導の枠組み「クアッド」について、「協力が可能な分野で事案別の協力は模索していくことができる」と記者団に述べた。

 

(1)「協力可能な分野に関しては「韓国は新型コロナウイルスワクチンの委託生産能力が高く、2050年の炭素中立(カーボンニュートラル)実現に向けた先導的な役割を宣言したため、気候変動でも可能な役割を果たせると考えている」と明らかにした。クアッドには米国、日本、オーストラリア、インドの4カ国が参加している。3月に開かれた4カ国の首脳会合でも新型コロナウイルスワクチンと気候変動への対応が議論された」

 

インドは、クアッドを利用して日米資金に基づきワクチンを生産する。豪州がそれを配送することになった。韓国は、これを見てワクチン生産を行ないたい衝動に駆られ始めた。韓国国防相が、インド訪問でその実態を把握し、韓国もワクチン生産を担う気持ちになったのだろう。

 

クアッド資金によるワクチン生産は事実上、クアッド機能を分担することになる。韓国が、ワクチンを生産すれば、「クアッド加入」意思を示したのも同然である。

 


(2)「韓国政府は、クアッドの動向を注視している。現段階では4カ国の間でもクアッドの拡大について意見が一致しておらず、枠組みの結束強化に焦点を当てていると分析している。
韓国政府はクアッドへの参加に関し、正式な要請を受けていないとしているが、中国を意識し意図的に距離を置いているとの見方もある同当局者は「国益と地域・世界の平和繁栄に寄与できるならいかなる協力体とも協力が可能だ」と従来の立場を改めて示した」

 

本欄は、最初から下線部の見方を取ってきた。3月18日の米韓外務・防衛「2+2会議」で、米韓同盟の適用範囲は「朝鮮半島からインド太平洋へ」拡大したことである。韓国が、理由もなく「インド太平洋」への拡大に同意するわけがない。クアッド加入を黙認したのだろう。

 

韓国は、英国がクアッドへ参加することに拘っているようだ。ヨーロッパの英国が、アジアのクアッドに参加する。こういう国際情勢の変化に立遅れてはならないとの認識が出てきたと見られる。韓国が、英国のクアッド参加後に加入するのでは、アジア国家としてメンツが立たないことに気付いたのだ。

 


(3)「ま
た、「米国だけでなく、オーストラリアのインド太平洋戦略とも具体的な協力策を協議することで合意し、日本などその他の地域構想とも連携協力を推進できる」と表明。一方で「中国の(広域経済圏構想)『一帯一路』とも協力を進めていく」との姿勢を示した」

 

韓国は、クアッドについて米国と豪州と協議する方向である。日本へ最初の話合いに来るのは格好が悪いことなのだろう。日本へ、ささやかな「抵抗」をしているのだ。

 

韓国では、インド太平洋戦略について少しずつ見方が変わってきたようである。「ガチガチ」の書生論的消極論が存在する一方で、これよりも少し頭の柔らかい人間も出てきたと見られる。普通の外交感覚であれば、米国を疎遠にして中国への接近は考えられないことだ。

 


『ハンギョレ新聞』(4月6日付)は、「『中国牽制』目指すインド太平洋協力 欧州へと拡大」と題する記事を掲載した。

 

米国、日本、オーストラリア、インドが参加する非公式戦略フォーラム「4カ国安保対話(クアッド)」とフランスが共同海上訓練に入った。クアッドを通じて中国に向けた多国間安保同盟の構築を目指す米国の構想に弾みがつくかどうかに注目が集まっている。

 

(4)「『ヒンズスタン・タイムズ』4月5日付報道などを総合すると、クアッド4カ国は同日から7日までの3日間、インドのベンガル湾一帯でフランスの主導で行われる「ラ・ペルーズ」共同海上訓練を行う。インド駐在のフランス大使館は「価値観を共有する5カ国の海軍が自由で開かれたインド太平洋一帯で海上協力を促す機会になるだろう」と述べた。ラ・ペルーズ訓練は2019年に続き2回目だが、インドが参加するのは今回が初めて。クアッド4カ国が共に参加した共同海上訓練は昨年11月、インド洋一帯で行われたマルラパル訓練に続き、今回が2回目だ」

 

クアッド以外にフランス海軍が、合同演習に参加している。これを見れば、韓国も考え直して当然であろう。これまでの狭量な「中国親近観」が覚めてきたのかも知れない。

 


(5)「クアッドに参加していないフランスが4カ国と共同訓練に乗り出したことで、クアッド拡大を念頭に置いた、いわゆる「クアッドプラス」の形が整ったといえる。特に同訓練は「危機状況に備えた相互運用能力の強化」を目標に掲げ、中国に狙いを定めたことを露わにした。実際、今回の訓練に先立ち、クアッド4カ国は先月末、インド太平洋一帯で集中的に共同訓練を行ってきた。インド海軍は先月28~29日、インド洋東部一帯で米海軍セオドア・ルーズベルト空母が参加した両国共同訓練を行った」

 

フランス海軍の参加は、インド太平洋戦略の戦術的重要性を示している。欧州が、アジアの重要性を認識している結果だ。

 

(6)「今回の訓練は、ASEAN(東南アジア諸国連合)をはじめ、中国と領有権争いをしている同地域のほかの諸国を説得するためのものという分析もある。『サウスチャイナ・モーニングポスト』は軍事専門家の話として、「ベトナムやフィリピン、マレーシアなど南シナ海で中国と領有権争いを繰り広げている国々は、潜在的な『クアッドプラス』の協力国」だとし、「これら国はクアッドに直接参加して中国と正面から対立する形は避けるだろうが、クアッド参加国と二国間レベルならいくらでも(協力する)可能性がある」と指摘した」

 

ベトナム、フィリピン、マレーシアなど南シナ海で中国進出の被害を受けている国々は、クアッドに参加すると中国との関係がギクシャクする。そこで、クアッド参加国と個別に協力関係を結び、間接的にクアッドの恩恵に与りたい国が多いという。韓国が、こういう実態を理解して、中国へ傾く気持ちを引き戻させたのであろう。

 

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