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中国独裁政権では、習近平氏に睨まれたら最後、地獄まで突き落とされかねない厳しさである。アリババが独禁法違反で3000億円という罰金に処せられた。創業者の馬雲(ジャック・マー氏)が、習氏の政敵である江沢民・元国家主席と関係があることから、徹底的な弾圧を受けている。

 

『フィナンシャル・タイムズ』の報道によれば、当局はマー氏が運営するビジネススクールに対し、新入生の入学を中止するよう指示した。中国の次世代の起業家を育成するために、2015年にHupan Academyをアリババが本社を置く杭州に設立したもの。同校は3月下旬から開始する予定だった新入生のクラスを中止したという。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という状況である。

 

こうした、感情的な対応が中国の起業家を育成する上でマイナスになることは確実である。余りにも政治的な動きであり、中国の将来へ警鐘を鳴らしている。

 


『日本経済新聞 電子版』(4月10日付)は、「
アリババ『中国政府と緊張なお』独禁法罰金突出3000億円」と題する記事を掲載した。

 

中国政府が中国のネット通販最大手アリババ集団への締め付けを強めている。4月10日には独占禁止法違反で過去最大の罰金を科した。習近平(シー・ジンピン)指導部は2022年秋の党大会を見据え、急成長を続けるネット企業への統制を強化し盤石な体制づくりを進めたいという意向も透ける。

 

(1)「中国の規制当局は同日、アリババ集団に対して182億2800万元(約3000億円)の罰金処分を科した。アリババの19年の中国国内の売上高(4557億1200万元)の4%が対象となった。罰金額は20年3月期の純利益(1492億元)の約12%に相当する。足元では、騰訊控股(テンセント)や百度(バイドゥ)などのネット大手に対しても当局が独禁法違反などで罰金を科しているが、最大でも数千万円程度にとどまる。アリババへの対応が突出して厳しいのは、習指導部がそれだけアリババを危険視しているからといえる」

 

アリババへの罰金3000億円は、2019年売上高の4%相当、2020年純利益の約12%という。相当の厳罰である。他の通販には最大でも数千万円程度というから、当局のアリババへの処罰は「虐め」と言って差し支えない。

 


(2)「アリババに対する締め付けは、スマホ決済サービス「支付宝(アリペイ)」などを手掛ける傘下の金融会社アント・グループから始まった。20年11月には当局の方針変更で、予定していた上海と香港への上場延期を余儀なくされた。4月10日の処分理由は本業のネット通販事業における「支配的な地位の乱用」だ。国家市場監督管理総局は巨大な顧客網を抱え、アリババと取引しなければ商品の価格やブランドイメージに大きな悪影響を及ぼすほどの存在感を持つと批判した。出店企業はアリババのみと取引しなければ、様々な罰則を同社から科されるなどの圧力を受けてきたという」

 

アリババが行なっていたとされるネット通販事業における「支配的な地位の乱用」は、他の通販事業でも行なっていたと見て良かろう。ツーカーの業界で、アリババだけが行なっていたとは思えない。業界共謀であろう。

 


(3)「中国のネット業界を黎明(れいめい)期から支えてきたアリババは、政府から大きな支援を受けてきた。当局は09~10年、米フェイスブックや米グーグルなどのサービスを国内市場から一斉に排除した。こうした後押しによる企業の成長はやがて国家の利益と矛盾するようになった。アリババはアントを通じて国有銀行が仕切る金融分野にも浸食した。収益源に育った融資仲介事業はアリペイ利用者を銀行に紹介、アントは銀行から手数料を受け取る一種のイノベーションだったが、国有銀行を含む既存金融機関の競争力を低下させる虎の尾だった。市場メカニズムを活用しながらも政府が統制する金融を柱とする国有企業主導の経済秩序を重視する中国政府にとって、これ以上のアリババの膨張を見過ごすことはできなくなっていた」

 

下線部分は、アントへ資金が集まり銀行預金が減ったという事実と符合する。銀行の信用創造能力を低下させたが、だからと言ってアントに圧力を掛けることではない。銀行自身が、殿様商売で一般への貸出に消極的であった反動と考えるべきである。

 

(4)「アリババへの圧力は、政治の権力闘争の側面も見え隠れする。中国共産党は5年に1度の開催で人事を刷新する党大会を22年秋に控えている。アリババの成長の背後には江沢民(ジアン・ズォーミン)元国家主席を中心とする「上海閥」などの長老の親族や関係者の後押しがあったとされ、江氏の孫が実質的にアントの株式を保有しているとの情報もある。「アント・グループの上場を巡る利益関係者の極秘リストを見て、習氏周辺が激怒した」。政府関係者は打ち明ける。そのリストにあった利益関係者とは、すでに引退した指導者の親族や関係者などの名前がずらりと並んでいたとされるためだ」

 

アリババへの圧力は、政治的な思惑の結果だ。習氏の政敵が、アントの株主に多数、株主として名を連ねていたことが発覚したからである。この部分は、巧妙な株主構成にしており、一見して分からないように工作していたと『ウォール・ストリート・ジャーナル』が、すでに報じていた。本欄でも既報の通りである。