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薄氷に乗る与党180議席

二大市長選が示唆する転落

経済基盤大穴が敗北の序曲

政党選択は脱イデオロギー

 

4月7日のソウル・釜山の市長選において、与党「共に民主党」候補者は、野党「国民の力」候補者に惨敗した。今回の両市長選は、来年3月の大統領選の前哨戦とも位置づけられてきた。それだけに、韓国与党は危機感を強めている。

 

選挙後に、与党民主党1年生議員56人が集まって反省会を開いた。民主党は、所属議員174人のうち46.6%の81人が1年生議員だ。これら議員が、与党敗因の理由について反省の弁を述べたのである。この席では、国民の意思を聞かず与党の多数決論理で、国会運営をしたことへ痛烈な批判が飛び出た。文大統領への批判でもある。文氏は、早くもレームダックの前兆を示している。

 

与党指導部は、今回の二大市長選敗北の責任を負って全員が辞任した。まだ、新指導部は選出されていない。一方、文政権では内閣改造と大統領府の更迭人事が行なわれる予定である。ただ、伝えられているところでは「親文派」、つまり、文大統領に忠誠を誓う側近から選ばれるのでないかと報じられている。早くも、文大統領の限界説が囁かれている。

 


文大統領の政治師匠であった盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は、政権の新鮮味を打ち出すために、あえて野党の朴槿惠(パク・クネ)氏を閣僚に登用する案まで検討したという。挙国一致の内閣にするという狙いであった。この案は立ち消えになった。文大統領にはとてもここまでの柔軟性を期待できまい、とされている。

 

となれば、文氏は旧態依然の人事によってレームダック化へ進むほかないと見られている。だが、ここで降って湧いたように福島原発の処理水であるトリチウム(日本基準の40倍に希釈)放出問題が起こった。韓国政府は、絶好の「反日カード」を手にした訳で、傾いた政権を支えるべく活用の方針である。

 

ただ、韓国メディアが報じているように、日本は外交団に対して100回も説明会を行なって周知徹底を図ってきた。韓国政府が言うように「突然」「抜き打ち」の発表ではない。IAEA(国際原子力機関)の承認を得た発表である。IAEAでは、日本の措置が違法でなく他国も行なっているものと発表した。また、米国務省も「適切な手続きを踏んでいる」との声明を出している。こうなると、韓国がこの問題を反日カードに使うとしても、孤立のお恐れが強いだろう。

 

結局、福島原発トリチウム問題は、傾き掛けた文政権を支えるほどの強力「反日カード」に使えないことが明らかになろう。文大統領はこれから一年、厳しい政権運営から逃れることは不可能だ。

 


薄氷に乗る与党180議席

韓国与党は、系列を含めれば180議席(60%)を占めている。絶対多数に達している形だが、昨年総選挙では保守野党が約40%の得票率に達していたのだ。実態は、「野党惨敗」ではなかった。小選挙区制のカラクリで、与党が絶対多数を得た形になっただけである。これは、与党が政権運営の姿勢を誤れば、簡単に政治の主導権を失うリスクを抱えていたことを意味していた。文政権・与党は、この不安定な支持基盤に乗っていることを忘れて暴走した。そのツケが、今回の二大市長選に現れたに過ぎない。

 

前記の与党一年生議員は、次のような反省の弁を述べた。極めて痛烈な自己批判である。

 

1)いつの間にか民主党は「既得権政党」になっていた。

2)私たちはあらゆることをできるという過信、ひとまず始めて計画を作っていけば良いという安逸さに浸っていた。

3)自分たちの過去に行なった民主化運動の実績を掲げ、すべての批判を遮断して私たちだけが正義だと固執する傲慢さが民主党の姿をこのようにした。

 

前記の一年生議員とは別に、20~30代の議員5人は次のような声明文を発表した。これも痛烈な文政権・与党批判である。

 


4)与党幹部は、惨敗の原因を野党のせい、メディアのせい、国民のせい、青年のせいにする声に私たちは同意できない。

5)党内批判がタブー視されていたチョ・グク元法務部長官をめぐるスキャンダルを、「検察改革」の代名詞としたことが国民の共感を失った。

 

以上5項目の政権・与党批判は、韓国メディアがこれまで行なってきた批判と同一視点である。与党一年生議員が初めて、二大市長選敗北で目が覚めたということであろう。私も、文政権の非民主的な政権運営を批判し続けてきた。以下、私のコメントを付したい。

 

1)民主党が既得権政党になったのは、支持基盤の労働組合と市民運動の利益を優先してきたことだ。労組の要求は100%受入れてきた。最低賃金の大幅引き上げがそれである。3年間で30%強の最賃引き上げが、個人業主・中小零細企業など低生産性部門の業種を直撃した。韓国では、最賃引き上げに応じない雇用主には罰則を科される。これを避けるべく、多くの雇用主が泣き泣き従業員を解雇した。最低賃金の大幅引き上げが、失業者を増やすという逆立ちした結果を生んだ。

 

市民運動には、原発廃止による太陽光発電推進で報いた。無事故・黒字の原発を無理矢理に操業停止に追い込んだ。しかも、経営データを改ざんするという犯罪行為を行なったのである。韓国の市民運動は、NPOの非営利・非政治という原則を逸脱して、営利・政治を前面に出して文政権の別働隊に成り下がっている。文政権は、市民運動へ補助金すら与えているのである。こうして、労組と市民運動が文政権を支える二大勢力になっている。

(つづく)

 

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