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中国経済は、一皮剥けば惨憺たる事態に追込まれている。国有企業の不良債権が山ほどあるからだ。この不良債権を買い取ってきた「バッドバンク」トップの中国華融資産管理会社が大揺れである。同社の元会長の頼小民は、中国でも極めて悪質な汚職事件で死刑執行となった。その後、11週間過ぎても金融市場に大きな影を落としている。

 

華融資産は、2020年通期決算を3月末の期限までに公表できなかったほど混乱している。これを危惧されて、社債が大きく売られている。一部の銘柄は、額面1ドル当たり0.52ドルまで下げているという。デフォルト(債務不履行)懸念が、意識されていることを覗わせている。

 

中国財政部が過半数株を保有する華融資産は、政府が1990年代後半に設立した資産管理会社4社の中で最大の規模を誇っている。国内の銀行は当時、多額の不良債権を抱えていた。華融資産をはじめとする資産管理会社は、大手国有銀行から不良債権を買い取り、入札や国外銀行への売却などを通じて処理した。華融資産は積極的に事業を拡大し、証券トレーディングや貸し出しなどの金融サービスに参入したものの、やがて経営が苦境に見舞われた。中国経済を象徴する事態を迎えたのである。

 


米経済通信社『ブルームバーグ』(4月16日付)は、「中国、『バッドバンク』失敗容認なら市場に衝撃-最悪の解決策か」と題する記事を掲載した。

 

習近平国家主席が推し進める反腐敗運動で摘発された頼元会長は、収賄罪で死刑判決が言い渡されたのは今年1月である。香港やロンドン、ニューヨークなどに広がる疑問は、華融資産が本土外で借り入れた232億ドル(約2兆5300億円)について中国政府が後ろ盾になるのか、あるいは債券市場で海外投資家が損失を被るのかだ。

 

(1)「中国最大級の不良債権受け皿機関「バッドバンク」である華融資産のような国有企業は大き過ぎてつぶせないとグローバル投資家はずっと想定してきた。だが、これはなお現在も同社に当てはまるのか。または他の企業のようにデフォルト(債務不履行)が許されるのだろうか。その回答がもたらす影響は大きい。オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のクレジット戦略責任者オーウェン・ガリモア氏は、「中央政府が所有する華融資産のような企業のデフォルトは前例がない」と指摘。もしそうなれば中国とアジアのクレジット市場にとって「重大な分岐点」になると話す」

 

国有企業で、不良債権買い取り機関で最大規模の華融資産が、不祥事も重なって経営危機に立たされている。元会長の収賄事件が発端とされるが、中国金融構造をめぐる脆弱性が招いた問題と見るべきだろう。

 


(2)「華融資産のドル建て債は最近、額面1ドルに対し約52セントという安値を付けた。中国国有企業ではこれまであり得なかった急落だ。同社が、国内外の社債保有者に負う債務は420億ドル相当。ブルームバーグの集計データによると、そのうちの約171億ドルは2022年末までに返済期限を迎える。15年の香港上場前、華融資産は
ウォーバーグ・ピンカスやゴールドマン・サックス・グループなど投資家グループに24億ドル相当の株式を売却。ブルームバーグのデータは、ブラックロックとバンガード・グループも多くを取得したことを示している。だが上場以来、華融資産の株価は67%下げた」

 

国有金融機関が、社債も株価も急落状態である。これは、中国政府が社債のデフォルトを防ぐべく保証しないことが大きく響いている。政府は、これが悪例になることを恐れているに違いない。ということは、他にもこういう例の存在を示唆している。

 

(3)「会長時代の頼元死刑囚は、華融資産をシャドーバンキング(影の銀行)の強力な貸し手に変えた。銀行規制当局の幹部だったこともあり、取締役会やリスク管理委員会からほとんど監視を受けずに融資を実行したという。習主席肝いりの広域経済圏構想「一帯一路」に関係すると見せかけた事業にも資金が向かったとある国有銀行の幹部は話す」

 

中国の信用逼迫状況で起こった問題でもあろう。元会長への賄賂は、融資を受けたい企業が持込んだものだ。本来は、貸出金利引上げで調整すべきものが、賄賂に化けたと見られる。

 

(4)「一つ確かなことは、華融資産は氷山の一角にすぎないことだ。国有企業は4兆1000億ドル相当の債務を抱える。格付け会社フィッチ・レーティングスによると、国有企業は20年に人民元建て債795億元(約1兆3300億円)でデフォルト。これは過去最大規模で、本土の不履行に占める国有企業の割合は前年のわずか8.5%から57%に急上昇した。今年1ー3月(第1四半期)には72%に達した」

 

国有企業は現在、4兆1000億ドル相当の債務を抱えるという。中国の外貨準備高は、2021年2月末で3兆2050億ドルである。これを上回る債務を抱えている。今回の外債のデフォルトが現実化すれは、今後の外債発行に大きな支障を来たす。中国経済には重大な事態をもたらすはずだ。

 


(5)「北京福盛徳信息咨詢(FOST)の馮建林チーフアナリストは、「金融システムを巡る問題を解決するという任務を引き受けた国有金融会社の失敗を容認するのは、リスク対応で最悪のやり方だ。当局はリスク波及の甚大な影響を考慮する必要がある」と述べた」

 

中国が、金融システムをめぐる重大な問題を抱えていることは、今や明らかになった。習氏が、「終身皇帝」を狙いたいという夢のような話をしている状況にないはずだ。

 

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