a0960_008417_m
   

米国経済は、コロナワクチン接種が順調に進んでいることから、予想外の回復力を見せている。米経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月6日付)は、「残念ながら米国の経済危機は終了」と、少しおどけたタイトルの社説を掲げるほど余裕を見せている。好循環過程に入っているのだ。

 

3月の米雇用者数(非農業)は、過去2カ月の改定分を含め、107万人の純増となった。職場に復帰した労働者の多くは、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行で打撃を受けた、サービス業に従事する比較的低賃金の人々だった。雇用増加は、景気循環では遅行指標であり、景気上昇を最終確認させる確定指標である。

 

前記WSJは、4月8日付で「バイデノミクス、経済の『常識破り』の危うさ」と題する記事を掲載するほどだ。バイデン政権の景気刺激策は、不要という立場である。約200兆円の追加対策をしなくても、パンデミック後の急回復という「自動バネ」が働いて、2020年2月時点の好景気「軌道」に復帰できると指摘している。

 


『ロイター』(4月15日付)は、「米国のTPP復帰、コロナからの回復で現実味増す可能性」と題する記事を掲載した。この記事は、米中首脳会談まえに執筆されたもの。

 

日米両国はじきに、中国の影響力に対抗するため、関係をさらに進めた共同計画を手にするかもしれない。バイデン米大統領は就任以降で初めて顔を合わせる外国首脳に菅義偉首相を選び、2人は米国時間の16日に会談する。今はまだ、衣替えした環太平洋連携協定(TPP)に米国が復帰するのは政治的ハードルが高い。だが新型コロナウイルスのパンデミックが収束していけば、復帰のタイミングはより整うかもしれない。

 

(1)「米国は2017年、当時のトランプ大統領がTPPを離脱したことで、中国と互角に渡り合える「経済同盟」を結成する機会を逃した。その後日本が引き取る形で、残る11カ国が18年に署名した。現在の正式協定名は「環太平洋連携に関する包括的および先進的な協定」。現状のTPPは日本に続く経済規模を持つ国がカナダ、オーストラリアだけで、グループ全体で中国と張り合うには存在感が小さ過ぎる。パースUSアジアセンターによると、当初のTPPは参加国の合計国内総生産(GDP)が世界全体のほぼ40%を占めたが、現状では13%だ」

 

TPPは、本来の盟主である米国が復帰すれば大きな力を発揮する。中国は、締め出されるだけにその余波が甚大だ。中国が、TPP結成を最も恐れていた理由である。仮に、米国が当初からTPPに加盟していれば、中国がここまで軍事的に増長することもなかったであろう。惜しい4年間を空費したとも言えよう。

 


(2)「地域的な包括的経済連携(RCEP)は、中国が加わりTPP加盟11カ国のうち7カ国もメンバーとなっていて、こちらは世界のGDPの約3割に達する。TPPが米国に申し出ている内容も、米国が復帰しやすいような設定にされている。貿易障壁は引き下げられており、国営企業や労働問題、環境、デジタル取引といった分野でもルールを設定。日本はずっと米国の復帰を待ち望んでいる」

 

日本は、米国の復帰を前提にしてTPP11を結成させた。米国は、いつでも「原隊復帰」可能な状況になっている。ということは、中国の加盟は不可能という意味である。

 

(3)「とはいえ、今はまだ、米国が大きな通商協定で合意する時機ではない。TPPは政治的にたたかれる対象になってしまった。米国ではパンデミックは峠を越えたように見えるものの、米国の3月の失業率はなお6%と、昨年2月の3.5%を大きく上回っている。そうした状況では貿易障壁を下げる動きは困難な闘いと化す。一部の国内雇用には現実の、実感も伴う脅威と受け止められることになるからだ」

 

米国経済は、過熱化して消費者物価が上がり出せば、TPPによる同盟国やパートナー国からの輸入増加で沈静化できる。これは、「脱中国経済圏」の総合効果であり、米国の基本的な戦略論にも叶った動きである。

 


(4)「それでも、米経済が改善すればTPPを巡る米国内の環境も良くなるはずだ。米連邦準備理事会(FRB)は今年の米成長率が6.5%に加速し、失業率は来年中に3.9%まで低下すると予想する。米同盟国のTPP参加の動きも、米国復帰に追い風となっておかしくない。英国は既に加入を申請しており、韓国も関心を示している。米政府はTPPへの復帰作業を通じて、労働問題と環境問題を米国ペースで主導していくこともできるだろう。もちろん変更には他のTPP加盟国の承認が必要だ。一方で中国の政府当局者はTPP参加に意欲を表明した。米国には、彼らの機先を制するぐらいの時間の余裕はあるだろう」

 

米国は、今回の日米首脳会談で対中国への共同歩調をより一層鮮明にした。こうした基本スタンスから見ても、TPP復帰をいつまでも遅らせられないだろう。中国は、逆立ちしても国有企業が障害でTPPへ加盟できるはずがない。それでも、外野席でTPP参加意思の旗を振っていくのであろう。お気の毒に。

 

次の記事もご参考に。

2021-04-05

メルマガ246号 中国は大丈夫か、妥協なき米欧の人権弾圧抗議を甘く見ると「自滅危機」

2021-04-12

メルマガ248号 碌な半導体も造れない中国、開戦恐れない狂気を米国は抑えられるか