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米国の1~3月期の実質GDP成長率は、前期比年率換算で6.4%増となった。昨年10~12月期が、前期比年率換算4.3%増であったから加速している。中国の1~3月期の実質GDP成長率は、年率換算2.42%である。大きく差が付いてきた。

 

米国GDPは、中国のように住宅建設と輸出が牽引したものではなかった。旺盛な個人消費がリードした。経済成長の中身が全く異なるのだ。米国は、GDPから純輸出と在庫を除いた最終需要が10.6%増に加速した。中国経済が逆立しても適わない「実力」を示したのだ。

 

米経済の最大部分を占める個人消費は10.7%増と、1960年代以降で2番目に大きな伸びとなった。実質GDPは、年率換算19兆1000億ドルとなり、パンデミック前のピークである19兆3000億ドル弱を間もなく上回る可能性を示唆した。米国経済の底力を発揮したのである。『ブルームバーグ』(4月30日付)が伝えた。

 

この背景には、ワクチン接種の加速や雇用の拡大、連邦政府による複数回にわたる救済で家計の支出が増大。行動制限が大幅に撤廃され、消費者需要の裾野が広がり、旅行やレジャーなど長らく低迷していたサービスへの支出が増えたことが上げられている。

 

バイデン米大統領は、4月28日(現地時間)に初の施政方針演説を行なった。大統領就任100日目である。これまでは、コロナ対策で忙殺されてきたが、ようやく「バイデン政治」の骨格を米国民に提示した。その内容は、分裂した米国民を一つにする民政重視がはっきりと示された。

 

40年前、当時のレーガン米大統領とボルカー連邦準備制度理事会(FRB)議長は、同国経済の徹底的な再構築を主導した。経済の力の中心は政府から市場、労働者から資本家に移り、平等ではなく効率性、需要ではなく供給の促進に重点が置かれた。今回は、レーガノミックスを逆転させる発想法で、米国社会の底辺で苦しむ人たちに光りを与えるものになった。

 

具体的には、次のような内容である。

 

米国が、新型コロナウイルス禍からの回復を図るに当たり、バイデン大統領は経済における財政支出と税制の役割に再び重点を置くというものである。3月に成立した経済対策に続き、計4兆ドル(約435兆円)余りに上るインフラ計画と社会保障拡充計画を提案した。その財源は、法人税増税や富裕層の所得税およびキャピタルゲイン税の税率引き上げによる税収を一部あてるというものだ。

 


FRBのパウエル議長は、すでに2023年まで事実上のゼロ金利政策と債券購入を続けることを明言している。これによって、バイデン政権の拡張路線を支援する。経済に占める労働者の取り分を増やし、黒人など取り残されてきた層にも雇用改善の果実が広く行き渡ることを目指す政策を後押しする戦略である。まさに、レーガノミクスとボルカー路線の大転換をはかろうというものだ。

 

こうしたパラダイム転換は、米国民世論にどう受け取られているか。

 

『ロイター』(4月30日付)は、「バイデン氏経済政策に過半賛成 トリクルダウン批判も支持=世論調査」と題する記事を掲載した。

 

4月29日発表の最新のロイター/イプソス世論調査で、富裕層増税や最低賃金引き上げを含めたバイデン大統領による富の再分配提案について、米国民の過半数が支持していることが分かった。

 

(1)「28日のバイデン氏の議会での施政方針演説が示した経済政策を支持するとの回答は73%に達した。一方で、レーガン大統領が約40年前に提唱した、企業や富裕層に減税などを実施すれば、富める者が富んで貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなるとする「トリクルダウン効果」については、共和党支持者の間でも意見が割れた。バイデン氏は施政方針演説で、経済のトリクルダウンは米国でこれまで一度もうまくいっていないと批判した。今回の調査は演説後に実施された」

 

「トリクルダウン効果」は、米国の格差拡大をもたらした大きな要因である。「富める者はますます富、貧しき者はますます貧しなる」という皮肉な結果を招いた。中国もこの方式によって、米国以上の格差拡大に陥っている。

 

米国の世論分裂は、所得分配の不平等性がもたらした面も大きい。バイデン政権は、ここにメスを入れる政策を施政方針演説で発表した。

 


世論調査では、このバイデン氏の政策に同意するとした回答が全体で51%。共和党員の中では10人中4人、民主党員では10人中7人の割合だった。不同意は全体では26%で、共和党員では10人に3人、民主党員では10人に2人だった。

 

バイデン氏の提案内容別の支持率は次の通りである。

 

1)雇用主に従業員向けの12週間の有給の家族休暇と医療休暇を義務づける提案=69%

2)短期大学コミュニティーカレッジの最初の2年間を無条件で無償化=65%

3)富裕層への増税=65%

4)富裕税逃れを阻止する内国歳入庁(IRS)の監査や執行の強化=64%

5)連邦最低賃金の15ドルへの引き上げ=63%

 

(2)「党派別では、このいずれも民主党員は支持が少なくとも10人に8人だったが、共和党員ではどれも10人に5人未満だった。このほか、バイデン氏が就任以来、これまで打ち出してきた提案の規模や範囲について、回答者全体の約6割が「歴史的」と評価。女性初の副大統領になったハリス氏と、女性初の下院議長になったペロシ氏が、演説するバイデン氏の後ろに陣取る光景を「歴史的」と評価した回答は74%に達した。今回の調査対象は米国の成人1000人で、うち共和党員が290人、民主党員が360人」

 

前記の世論調査で、民主党員の8割、共和党員の5割が賛成していることに注目すべきだ。共和党員の約半分がバイデン氏の政策に賛成したことで、米議会で共和党もむげに反対に回れないことは確かだ。これら法案の成立に反対すれば、2年後の中間選挙で、共和党が不利になることは避けられまい。