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米中デカップリングの中で、日本が戦略物資である半導体産業の再起を賭けて立ち上がる。1990年代に世界半導体の「王者」であった日本が、米国の安全保障論を建前にしたシェア固定論に敗れて、現在の鳴かず飛ばずの地位に成り下がった。

 

日本が半導体産業再建に立ち上がる上で、自民党が議員連盟を作ることになった。甘利税制調査会長が、会長になり安倍前首相、麻生副総理という錚々たるメンバーが後押しするということだ。ここまで、「役者」が揃えば、前途に希望の光が見える。

 


『NHK』(5月16日付)は、「自民党 半導体産業強化で議員連盟設立へ」と題するニュースを伝えた。

 

世界的に半導体の需要が高まるなか、日本の半導体産業の強化に向けた中長期戦略を議論する自民党の新たな議員連盟が設立されることになり、最高顧問には安倍前総理大臣と麻生副総理兼財務大臣が就任する見通しです。

 

(1)「DX=デジタル変革を背景に世界的に半導体の需要が高まるなか、かつて世界の半導体産業をけん引した日本企業は今ではアメリカや台湾などの企業にシェアで遅れをとり、この分野の産業力強化が課題となっています。こうした中、日本の半導体産業の中長期的な戦略を議論するため自民党の新たな議員連盟が設立されることになり、今月21日に初会合を開くことになりました。会長は甘利税制調査会長が務め、安倍前総理大臣と麻生副総理兼財務大臣が最高顧問に就任する見通しです」

 

日本の輝かしい半導体の歴史を知っている者には、最近の日本の半導体産業が小粒になってしまった感じを否めなかった。今回の、政権与党が全面支援すれば、復活を期待できるだろう。

 


(2)「議員連盟では、アメリカなど友好国との半導体製造での連携や協力に加え、日本が高い競争力を維持している半導体の製造装置や素材分野の強化に向けて議論し、提言を取りまとめることにしています。
甘利氏は、「半導体を制するものが世界を制する時代だ。半導体は経済安全保障の重要な基盤となるものであり、日本の復権が急務だ」と話しています」

 

「半導体を制する者が世界を制する」は事実だ。中国が、半導体で自立できず世界最大の輸入国になっているのは、技術レベルの低さを示している。日本としては、往年のチャンピオンだった輝きを取り戻さなければならない。

 

『ロイター』(5月14日付)は、「『日の丸半導体』TSMC巻き込み描く復活、見劣る支援が壁」と題する記事を掲載した。

 

長く存在感を失ってきた日本の半導体産業の復権に向けたラストチャンスをものにしようと、日本政府が動き始めた。ファウンドリー(半導体受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)なども巻き込む青写真を描くが、海外の競合相手は政府からの巨額の支援をテコに投資合戦に臨む。米中問題の狭間で身動きが取れず、政府サポートが見劣りする日本企業のつけ入る隙は大きくはない。

 


(1)「『現在の日本の半導体のミッシングピースは、ロジック半導体だ』と経産省商務情報政策局デバイス・半導体戦略室の刀禰正樹室長は話す。半導体市場は2030年には現状の倍の100兆円に拡大するとも予測される巨大市場だ。世界規模で急速にデジタル化やグリーン化が進む中、日本がその波をとらえるには、技術の進展を支える半導体産業と両輪で取り組まなければならない、との危機感が政府にはある」

 

ミッシングピースとは、パズルを完成したときに足りないピースのこと。日本の半導体産業では、制御や加工、演算処理などを行う「ロジック半導体」を欠いている。ロジック半導体は、パソコンをはじめとしたデジタル機器の中核部品である。この「品揃え」がなければ、ミッシングピースになるというのだ。

 

(2)「日本にはルネサスエレクトロニクスやキオクシア、ソニーグループなどの半導体メーカーがある。いずれも論理演算処理を担い、デジタル機器の中枢部品となるロジック半導体の世界的な主要プレーヤーは、米国勢のインテルやエヌビディア、英アーム、韓国サムスン電子など海外勢だ。米中摩擦が続く中、米政府は近い将来の台湾海峡での有事も想定。ある政府関係者は、「モノ作りは中国、アプリケーションやソフトウエアなどは先進国という構図は、米中対立で崩れた」と述べ、経済安全保障の側面から自国に生産基盤を持たないリスクの大きさを訴える」

 

日本半導体産業は、半導体でワンセット持たなければ、有事の際にお手上げになる。分業化から離れて、全ての品種を揃える必要性が深まっている。

 


(3)「世界の半導体各社は回路線幅の細さを競っている。線が細ければ狭い面積に回路を詰め込め、スマホなどのデバイスの小型化・低消費電力化に寄与するため、ロジック半導体やメモリーでこの傾向が顕著となる。微細化の競争には莫大な投資が必要で、日本勢の多くが競争から離脱。例えば、一部でロジックを扱うルネサスの線幅は40ナノ(ナノは10億分の1)メートルにとどまる。より細い線幅が必要な製品は、TSMCに生産を委託している。海外勢の主戦場は、1桁ナノの線幅での量産化技術に移っており、日本勢があらためて追い上げるのは容易でない」

 

下線部のように、日本企業は資金面でロジック半導体やメモリーの微細化競争から離脱した。そこで、自民党の「応援団」がこの弱点をカバーしようという狙いである。久しぶりに高度経済成長時代の「産業政策」が復活する場面である。

 

(4)「TSMCが茨城県つくば市に新設する先端半導体の製造技術開発拠点が構想の中心となる見込みで、日本勢からはイビデンや新光電気工業など、この分野に強い企業の参加が予想される。政府は最終的に、こうした最先端の製造技術を備える量産拠点を国内に持つ構想を描く。生産の担い手は国内企業に限らず、海外企業にも間口を広げている」

 

日本は、国内企業の後押しだけでなく海外企業にも門戸を開くという。この点が、高度経済成長時代の「産業政策」とは異なる点である。グローバリズムを取り入れた産業政策である。