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中国資本が、ハリウッドへ乗り込み猛威を振ってきた。14億人という映画市場の魅力を振りかざして、米映画界を支配下においてきたのである。映画は、ほとんど「中国礼賛」モノが多く、ハリウッドが、中国共産党の片棒を担いでいると批判されてきた。その状況が、急に変わり始めたという。その象徴的な事例が、次の動きである。

 

中国の「映画王」とされてきた大連万達集団(ワンダ・グループ)が、海外での映画事業を大幅に縮小する。5月23日に米国の映画館チェーン大手、AMCエンターテインメント・ホールディングスのほぼ全株式を売却したと発表した。万達はかつてスクリーン数で世界一になったが、新型コロナウイルスで「映画王」の夢が頓挫した。万達は12年、26億ドルを投じてAMCを完全子会社化し、13年のAMC上場後も過半を保有してきた。AMC以外にも豪映画館チェーン大手のホイツなどを傘下に収め、16年にはスクリーン数で世界一となった。

 


17年に中国当局の融資規制で資金繰りが悪化。過剰債務に陥ったことで18年、AMCの一部の株式を5億ドルで売却。その後も段階的に手放し、出資比率は21年3月に9.%にまで下がった。AMCの発表によると万達の出資比率は0.002%に低下した。以上は、『日本経済新聞 電子版』(5月24日付)が報じた。

 

『大紀元』(5月25日付)は、「米映画業界誌、中国との関係を反省『熱狂的からデカップリングへ』」と題する記事を掲載した。

 

米映画・エンターテインメント情報誌『ハリウッド・リポーター』電子版は21日、米映画界が中国市場に進出するため、中国当局の顔色を伺ってきたことについて反省する記事を掲載した。関係者は、記事は米ハリウッド映画業界にある中国当局を批判してはいけないとのタブーを打破したと認識を示した。同記事は、「熱狂的な取引関係からデカップリングへ:中国とハリウッドのロマンスが終わろうとしている」とタイトルが付けられた。

 

(1)「同誌は記事の中で、映画プロデューサーであるジェフ・ロビノフ氏の話を引用した。ロビノフ氏は、「数十年間、(中国当局は)中国経済のあらゆる分野に参入しようとする欧米企業との間で、協力を約束した。しかし、投資家にとって、このような約束は一度も果たされたことがない」と述べた。ロビノフ氏は2014年、スタジオ8を設立した。設立当時、中国複合企業、復星国際は10億ドルを出資するとロビノフ氏に申し出た。しかし、その後の米中貿易戦で、復星国際は支払いを延期し続けた。同氏によると、復星国際は約束を破ったが、スタジオ8の一部の株式がすでに復星国際に渡ってしまった」

 

中国企業が、欧米企業との間で交わした約束はほとんど実行されなかったという。

 

(2)「ハリウッド・リポーター」誌は、中国当局の経済的・政治的影響力の拡大で、米映画制作会社はここ十数年間、中国当局を批判し、中国社会の現状を反映する作品を作ったことがないと批判した。「最も歯に衣きせぬ有名人でも、香港市民の民主化運動に対する中国当局の鎮圧や、新疆ウイグル自治区でウイグル人住民に対する人権侵害について、何も述べていない」という。「映画製作会社は、中国当局のレッドラインを越えて踏み込んだ発言をすれば、失うもののほうがはるかに大きいと認識している。(中略)1910月、ヒューストン・ロケッツの元ゼネラル・マネージャーであるダリル・モーリー氏が、香港の民主化運動を支持するとツイートしただけで、中国当局はNBAの試合放送を1年間停止した」

 

米映画制作会社はここ十数年間、中国当局を批判し、中国社会の現状を反映する作品を作ったことがないと自己批判している。中国の検閲を恐れて自己検閲してきた結果である。14億人という映画市場の規模に圧倒されてきたのである。行き過ぎた商業主義の結果である。

 


(3)「同誌は、中国当局が映画製作という欧米各社の得意分野において、欧米各社を追い越し、支配権を握ろうとしているとの見方を示した。中国当局は、経験豊富な外国映画製作会社を誘致し、合弁会社を設立するために「国内市場を開放した」。しかし、その最終的な目的は、中国側に制作技術や知識を移転させることだ。「アメリカ映画には、中国共産党が望まない文化的な影響力を持つ。その一方で、中国側はハリウッド映画の消費者を惹きつける力を認識しているため、その力を利用し、国内のインフラ建設を促進する狙いがある」

 

中国当局は、経験豊富な外国映画製作会社を誘致し、合弁会社を設立するために「国内市場を開放した」。これは、一時的な措置であった。最近は、外国映画の上映本数を割り当てるなど、規制を強めている。

 


(4)「中国国内にある映画スクリーンの数は10年の6000余りから、20年末の7万5000に拡大した。中国企業による米映画製作会社の投資も近年増えている。中国の博納影業集団(ボナ・フィルム・グループ)は15年、米テレビ映画製作大手の21世紀フォックスに2億3500万ドルを出資した」

 

(5)「中国のマスメディア会社、完美世界股份有限公司(パーフェクト・ワールド)は16年と17年、米ユニバーサル・スタジオの映画製作に総額5億ドルを投資した。中国電子商取引最大手アリババ集団は16年、米著名映画監督、スティーブン・スピルバーグ氏らが設立した映画製作会社「アンブリン・パートナーズ」の一部の株式を取得した」

 

米国政府も次第に、中国のハリウッドへの進出に警戒するようになった。

 

(6)「米映画プロデューサーのクリス・フェントン氏によると、米映画業界の情報誌は長い間、業界と中国当局の非互恵的な協力関係について声を上げることができなかった。同氏は「今、状況が変わったと言える。米国のエンターテインメント業界と中国の関わり方が建設的に変わることを望む」とした」

 

冒頭に掲げた大連万達集団が、米国の映画館チェーン大手、AMCエンターテインメント・ホールディングスのほぼ全株式を売却した。これは、中国資本が米国の映画市場からの撤退を象徴する動きである。中国「赤い資本」による米国支配の時代は終わったのである。