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三峡ダム象徴の環境破壊

依然として成長優先主義

鉄鋼生産の削減が不可避

免罪符を得られる道なし

 

これまでの順風満帆な中国経済に、大きな二つの障害が立ちはだかってきた。一つは、周知の出生率急減に伴う人口減少の絶壁である。もう一つは、世界的な異常気象の原因とされる二酸化炭素の排出量抑制である。どちらも、中国へ大きな課題を背負わせている。

 

間近に迫った人口減は、潜在経済成長率を引下げる。脱炭素は、即効性を求められるだけに、大量の排出源である製造業にメスを入れるほかない。これも、経済成長に大きなブレーキを掛ける。体力の弱ったところへ新たな負担が増えて、中国経済は十字架を背負うのだ。

 

中国は、二酸化炭素の排出量で世界全体の28.4%(2018年)を占め断トツのワースト・ワンである。ワースト2位の米国14.7%(同)を1.9倍も上回っている。ちなみに、日本は3.2%(同)でワースト6位である。一部原発を止めている影響が出ている。

 


この中国は、トランプ米政権時の対応と反対に、「脱炭素」の旗を掲げて積極性を見せてきた。だが、中国は積極的にならざるを得ない事情を抱えている。EU(欧州連合)が、「炭素国境措置」を2023年までに導入する方針であるからだ。炭素国境措置とは、環境政策が不十分な国や地域からの輸入に対し、生産時に排出した二酸化炭素(CO2)量に応じて、関税や排出枠の購入義務を課す措置である。

 

中国は、この炭素国境措置に引っかかればイメージダウンもさることながら、肝心の輸出に致命的打撃を受ける。そうなるよりも先に、中国自らが「脱炭素」の旗を高く掲げて、「環境立国」のような振る舞いをした方がプラスと判断したはずだ。

 

学校で勉強しないでサボっていた生徒が、先生の前で「これから一生懸命勉強します」とアピールしている構図である。炭素国境措置という罰が控えている以上、真面目にやらざるを得ないのだ。

 


先進国の「脱炭素」では、化石燃料から自然エネルギーへ熱源転換すれば、大方の目標が達成される。中国の場合は、そういう簡単な問題で済まない点が悩みである。
2019年の石炭火力発電の総発電に占める割合は51.95%である。2015年と比べて7.05%改善している。ただ、国内に膨大な石炭資源を抱え、多くの雇用吸収先である。火力発電を自然エネルギーに転換すれば、必ず失業問題を発生させるのである。習政権には、一筋縄でいく問題でない。

 

三峡ダム象徴の環境破壊

中国の環境対策は、「不徹底」の一語に尽きる。中国憲法では実に立派なことを書き込んでいるが、それは建前に過ぎなかった。

 

1982年に制定された中華人民共和国憲法においては、環境保全に関する規定がいくつかある。第26条第1項には、麗麗しく「国家は生活環境および生態環境を保護、改善し、汚染およびその他の公害を防除する。」としている。国家による環境保全の責務を定めているのだ。現実には、こういう条文は棚上げされ、経済成長優先策が取られてきた。

 


当局による企業への環境調査では、事前に立入調査の日時を教えてカムフラージュさせるという、考えられない癒着ぶりを見せてきた。工場汚水は川に流す。穴を掘って地中へ垂れ流す。こういう違法行為が2015年頃まで行なわれきた。大気汚染、土壌汚染、水質汚染は、経済成長優先の名の下に取り締まりが緩やかであった。

 

中国の年々のGDPのうち、環境破壊分が2~3%含まれていると試算されている。本来であればそういう環境破壊分は環境対策費で補われなければならない。それが、前述の通り当局と企業の癒着でかなりの部分が賄賂として役人の懐に消えていった。中国は、国家としての体裁をなしていなかったのである。

 


中国の環境破壊のモニュメントは、三峡ダムの建設である。中国最高指導部は、竣工式において当時の国家主席であった胡錦濤氏らが姿を見せない異常な光景であった。いかに問題の多いダム建設であるかを物語っている。

 

三峡ダムは揚子江(長江)中流域の湖北省にある。1993年に着工、2009年に完成した。洪水抑制・電力供給・水運改善を主目的として建設されたが、着工に至るまで激しい反対論に見舞われた。中国共産党で、これだけ揉めた事件は他にない。1992年の全人代(国会)では、出席者2633名中、賛成1767名、反対177名、棄権664名、無投票25名により採択された。全会一致が基本である全人代において、これほどの反対・棄権が出るのは異例とされた。

 

反対論は、環境破壊が理由である。必ず異常気象や流域での群発地震をもたらし、恒常的に地滑りが起きると警告していた。その後の経緯を見ると、その通りの事態に陥っている。三峡ダムを建設した目的の一つは、前述の通り揚子江の増水期に洪水を防ぐために貯水し、渇水期になると放水して下流の水不足を解決することであった。ところが、現実は逆のことが起こっている。

 


三峡ダム下流の湖北省武漢市では昨年夏、大洪水に見舞われた。この冬は、揚子江の水が消えて川底の地肌が表われる事態を生んだ。三峡ダムの役割の一つである洪水と渇水の予防機能は、完全に失われたのである。今年5月には、早くも大洪水予想が起こっている。
問題の根本は、中国当局の「自然改造」「人は必ず天(自然)に勝つ」という思い上がった思想が破綻したことである。環境破壊の報いだ。三峡ダムが大洪水で破壊されれば、中国の面目は丸潰れになろう。(つづく)

 

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