a0960_005040_m
   

中国の戦狼外交は、あちこちに敵を作って歩いている。それが、国威発揚と誤解している結果だ。なぜ、他国へ傍若無人の振る舞いをするのか。それは、GDPが世界2位になったことと無縁でない。中国社会における人間の価値を計る物差しは、相手の所有する財産が基本である。こういう物でしか測れない価値基準が、現在の中国を尊大にさせているに違いない。

 

中国が、GDPで世界2位になった2010年以降は、習近平氏が国家主席に就任した2012年以降と重なり合っている。こうしたGDPを背景にして、中国の民族主義は暴走を始めた。

 


『日本経済新聞 電子版』(6月22日付)は、「インドと欧州を近づけた中国、『政冷経熱』の終焉」と題する記事を掲載した。

 

(1)「距離を縮めるインドと欧州。2020年1月のブレグジットで欧州連合(EU)27カ国と英国に因数分解された欧州の側が、インドへの接近を競い合う構図である。54日、まず英国が首脳会談を開いた。58日はEUの番だ。インドとの首脳会議は従来、EU大統領や欧州委員長の役目だったが、今回は初めて27カ国首脳が顔をそろえた。関係強化の証しとばかり、英国とEUのそれぞれがインドと合意したのが、自由貿易協定(FTA)の交渉入りだ。英がまだEUの一員だった07年から計16回の交渉を重ねたが、ほとんど進展がなく、13年以降は中断したままだった」

 

2013年以降、インドはEUとFTA交渉を中断したままだったが、この5月に英国とEUとそれぞれ交渉を始めることになった。そのきっかけは、中国の勃興にある。互いに中国の存在を意識して、経済面で「脱中国」を目指している結果である。

 


(2)「インドは、2011年の対日本を最後に10年間も新規のFTAの発効がない。そのインドが、欧州との協議再開に動いた事情は、経緯を振り返れば明快になる。19年11月、大詰めだった東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)交渉からの離脱を宣言した直後、ゴヤル商工相が「我々はEUとFTA交渉を行うべきだ」と口にした。土壇場でRCEPに背を向けたのは、貿易赤字の4割を占める中国からのさらなる輸入拡大を嫌ったためだが、その反動として、数少ない貿易黒字相手の欧州へと意識が向いたのは自然な流れだ」

 

インドが、RCEPの調印寸前にUターンしたのは、中国の影響が高まることを警戒した結果である。インドが「脱中国」を実現するには、EUや英国とFTAを結ぶことを踏み台に関係を強化すれば、代替可能と見たのであろう。

 


(3)「EUや英国にとって対インド貿易は赤字だ。しかも貿易総額は大きくない。域内貿易が6割を占めるEUにとってインドはシェア0.%、英国にとっても1.%にすぎない。13億人市場の潜在力は認めるにしても、FTAの優先順位が高いとは思えない。ではなぜ、欧州の側が熱心なのか。そこにはブレグジットの微妙なアヤが作用している」

 

現在の欧州側の貿易構造では、インドのウエイトは僅かである。EUと英国において、いずれも10位以下である。それにも関わらず、なぜインドとのFTAを急ぐのか。

 

(4)「起点は英国だ。EU離脱後、成長戦略の軸足をかつて植民地支配した英連邦へと回帰させ、豪州やシンガポールに接近した。とりわけ経済規模が最大のインドにはジョンソン氏が執着する。ブレグジット後に通商上の競争相手となった英国の動きをEUも看過できない。英が先行し、EUが追走しているのが、相次いだ首脳会談の図式といえる」

 

英国の事情は、EUから脱退した後の貿易の穴をアジアで埋めざるをえない。とりわけ、将来のインド経済の成長に期待する部分が大きい。EUも事情は同じだ。英国がインドと有利な関係を結ぶならば、EUも傍観はできないのだ。

 


(5)「以前のFTA交渉を座礁させた難題のひとつに妥協の余地が生じたのも大きい。13年の交渉中断はインド側が自動車部品やワイン、スピリッツなどの関税引き下げをかたくなに拒んだことが主因だった。一方のEU側もソフトウエア開発やアウトソーシングの受託、医療業務といった、インドが強みを持つサービス輸出や「人財輸出」への市場開放には消極的だった。反対の急先鋒(せんぽう)が英国だった。後のブレグジットにつながる移民労働者の急増や雇用流出に神経をとがらせるなか、インドにサービス市場を開放すれば、旧宗主国で英語圏の自国が最も影響を被るのが確実だったからだ」

 

皮肉なことに、英国がEUに止まっていた時、EUはインドとのFTAに消極的だった。英国が反対したからだ。その英国がブレグジットして、インドへ接近し始めた。EUも刺激されてインドへ接近するという、漫画のような構図が生まれている。

 

(6)「それら以上に重要なのは、やはり対中国だろう。中国はEUにとって域外で最大、英にとってもEUや米国に次ぐ3位の貿易相手だ。巨大な輸出市場としてはもちろんだが、コロナ禍では医療物資など輸入依存への危機感も高まった。世界が調達網の分散に動くなか、欧州にとって歴史的にも関係が深いインドはその代わりになり得る存在だ。ただし、あくまでそれは将来への期待にすぎない。モディ政権下のインドは、前回のFTA交渉時よりむしろ保護主義を強めており、譲歩を引き出すのは至難の業だ。それでもインドに近づくことで、中国をけん制する意味は大きい

 

インドは、土壇場でRCEPに背を向けたように保護主義的になっている。それでも英国とEUは、中国をけん制すべくインドとのFTA交渉を始めざるを得ない局面である。中国が、インドと欧州を接近させた接着剤である。