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欧州全域に拡散した新型コロナウイルスのインド型(デルタ株)が、米国でも広がっている。特にワクチン未接種者が危険にさらされ、感染急増の恐れが出ているという。『フィナンシャル・タイムズ』(FT)紙が分析したところ、最初にインドで特定されたデルタ株は、米国で毎日の新規感染で3分の1超を占めるに至っている。5月末時点の10%から急増している。米国では、感染力の強いデルタ株の急激な拡散が、ワクチン接種率の低い州で感染スピードを加速させている。

 

こうした状況で、企業での感染対策が厳しくなっている。米金融大手モルガン・スタンレーが、新型コロナウイルスのワクチンを接種していない従業員と顧客に対して、ニューヨーク州内の同社オフィスに入れない方針を導入する。FTが、米モルガン・スタンレーの社内メモで確認した。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(6月24日付)は、「米モルガン・スタンレー、未接種なら入館禁止」と題する記事を掲載した。

 

(1)「米モルガン・スタンレーの社内メモでは、「7月12日から、すべての従業員、臨時職員、顧客、訪問者はニューヨーク市とウェストチェスター郡のモルガン・スタンレーの建物に入るには、完全にワクチン接種を終えたかどうかを申告する必要がある」。最高人事責任者のマンデル・クローリー氏が署名したメモには、こう書かれている。この日以降、完全に接種を終えたことを申告できない人は、ビルに入れなくなるとクローリー氏は書く一方で、「スタッフの圧倒的大多数」がすでにワクチンの接種を報告したと付け加えた。

 

モルガン・スタンレーは、入館の際に完全にワクチン接種を終えたかどうかを申告する必要があという。7月12日から、完全接種を終えていない人は入館できないという。日本でもいずれこうなるのか。職場での集団接種は、そういう伏線があるかも知れない。

 


(2)「同社は、方針を通じてオフィスを通常の状態に戻すことを速める狙いがあると述べている。メモによると、モルガン・スタンレーはすでに、「協業と生産性を高める」ために、機関投資家向けの証券業務部門や富裕層向けの資産運用部門などの一部の部署で「ワクチン・オンリー」の作業スペースを設けている。また、6月23日からは、ワクチン接種済みのスタッフに対する規則を緩和し、職場へ行ったり顧客を訪問したりしたい人に義務付けている日々の健康状態チェックを廃止する」

 

モルガン・スタンレーが、厳格路線を打ち出したのは、日々の健康状態をチェックする「雑務」廃止が目的である。

 

(3)「ウォール街の大手銀行は、従業員を職場へ戻すための説得で先導してきたが、モルガン・スタンレーの方針は、そうした金融業界の中でも最も内容が厳しい。競合の米ゴールドマン・サックスは今月、ワクチン接種の状況を会社側に開示することをスタッフに義務付けたが、未接種のスタッフもマスクを着用し、ソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)を実践していれば入館は認められている。米JPモルガン・チェースでは、ワクチン接種の情報開示は、まだ任意だ。世界最大の資産運用会社ブラックロックも先週、ワクチンを接種した従業員だけにオフィスを開放すると述べた」

 

モルガン・スタンレーは、競合他社と比べても、ワクチン接種で最も厳格だ。他社では、マスクとソーシャルディスタンスを守れば、未接種でも認められている。

 


(4)「モルガン・スタンレーのジェームス・ゴーマン最高経営責任者(CEO)は、ニューヨークを拠点とする従業員が職場に戻る必要性について厳しい立場を取り、レストランで外食することに不安がないのであれば、職場でも安心できるはずだと主張した。ニューヨーク州では成人の70%以上がワクチンを少なくとも1回接種しており、州政府はパンデミック(大流行)時代の制限措置の大多数を解除した」

 

職場の安全確保が、業務の能率を改善するという考えに立っている。ニューヨーク州では成人の70%以上がワクチンを少なくとも1回接種している。となれば、モルガン・スタンレーの要求もあながち強烈と非難できないかも知れない。

 

(5)「米連邦政府管轄の雇用機会均等委員会(EEOC)は昨年12月、従業員がワクチン接種を拒んだ場合、宗教上または医学的な理由に適用除外を設けることを条件に、企業は職場への立ち入りを禁止できると述べた。今のところ、モルガン・スタンレーの「ワクチンチェック」システムは自己申告に基づいて運用されているが、今後、ワクチン接種の状況についての証明を求める可能性がある。関係者らによると、モルガン・スタンレーは今年4月に薬局のカプセル・ファーマシーと手を組み、タイムズスクエアの本社ビルに従業員のみを対象としたワクチンクリニックを設置した」

 

EEOCは、宗教上または医学的な理由で接種できないという適用除外を設けることを条件に、モルガン・スタンレーのような「入館禁止」は合法としている。こうなると、「なんとなくワクチンが嫌い」、という理由は米国で通らなくなりそうだ。