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英国のTPP(環太平洋経済連携協定)加入は、年内の見通しが強くなっている。英国は、自由貿易の国ゆえにTPP参加にとって格別の障害が見当たらないからだ。英国の年内加入説は、年初から指摘されてきたところでもある。

 

『日本経済新聞 電子版』(6月29日付)は、「英貿易相『TPP加盟合意』22年中に、中国の参加に難色」と題する記事を掲載した。

 

英国のトラス国際貿易相は日本経済新聞のインタビューで、環太平洋経済連携協定(TPP)の加盟交渉について「2022年中に結論を出すことを希望している」と語った。TPP参加に関心を示す中国に対しては世界貿易機関(WTO)などの国際貿易ルールに従う努力が必要だと述べ、現状ではTPP参加国が加盟を受け入れることに難色を示した。

 

中国は、香港への「国家安全法」導入によって、英中で取り決めた「一国二制度」を破棄した。これが、中国への不信感を強め、怒りへとなっている。かつての「大英帝国」である。その沽券に傷をつけられたのだ。中英関係が、急速に冷却化したのは当然であろう。英国が、中国に対して「裏切られた」という感情を持っている以上、中国がTPPへ参加したいと言っても断固、拒否する姿勢を強めるのは当然だ。英国は、「目には目を」の報復精神に燃えている。

 

(1)「20年末に欧州連合(EU)を完全離脱した英国は21年2月にTPP参加を申請し、6月22日から加盟交渉を正式に始めた。TPP参加をEU離脱後の目玉政策に位置づけている。TPP交渉では関税などの市場アクセス分野では加盟11カ国と国ごとに個別交渉する。英国内では畜産品や農産品の市場開放を警戒する声が農業関係者から上がる。トラス氏は、「TPP加盟国のオーストラリアと2国間の自由貿易協定(FTA)の合意にこぎ着けた。TPPでも市場アクセス交渉はうまくいくと思う」と述べ、交渉が行き詰まるような展開にはならないとの見通しを示した」

 

英国は、すでに豪州とのFTA交渉で合意にこぎつけている。日本は、日英友好で固く結びついているので、英国のTPP加入を促進する役割を果たすであろう。

 


(2)「TPP参加には中国も関心を示すが、TPPは加盟の条件として国有企業の改革や幅広い品目での関税撤廃を求めている。トラス氏は「不透明な政府補助金や進出企業への技術移転強制、(新疆ウイグル自治区の)強制労働などの問題がある」と中国が抱える課題を指摘した。「中国はもっと努力する必要がある」とも語り、WTOなどの国際貿易ルールに従わない限りTPP参加は難しいとの見解を示した。英国が正式にTPP加盟国となれば、中国の加盟申請を審査する立場になる」

 

英国が強硬路線にカジを切るのは、ジョンソン政権を支える与党・保守党内の対中懐疑派が勢いを増している点が大きい。特に伝統的に人権を重んじる保守派にとっては、香港の自治の侵害やウイグル族の強制労働が疑われる問題は容認できない。英議会では政府提出の貿易法案に、特定民族の破壊行為があると認定された国との貿易や投資の協定を結びにくくする修正を加えようとする動きが活発化している。

 

上院は、2月上旬の貿易法案の審議で「英国の高等裁判所に、民族破壊行為があったかを判断する役割を与え、『あった』と認定された場合、議会で当該国との通商政策について議論する」という趣旨の修正を加えた。議会が既存の自由貿易協定(FTA)を停止したり、進行中の交渉を止めたりできるようにする狙いだ。

 


(3)「10月に英国で開くG7貿易相会合はWTO改革が主要な議題になる。WTOは途上国に国内産業の保護を認めたり、先進国の市場に農産品や工業製品を安く輸出できたりする特権を与えている。途上国かどうかの認定は自己申告制で、中国など一部新興国が途上国の地位を返上しない問題が起きている。トラス氏は中国経済が米国の1割程度の規模だったWTO創設当時とは状況が全く違うと指摘した。「WTOの途上国の地位は貿易を通じて人々を貧困から救い出すために支援を必要とする国にだけ活用されるべきだ」とも強調し、中国の扱いの是正が必要だとの考えをみせた」

 

トラス氏は10月に対面で開く予定のG7貿易相会合の議長も務める。WTO改革が主要な議題になる予定だ。WTOは、途上国に国内産業の保護を認めたり、先進国の市場に農産品や工業製品を安く輸出できたりする特権を与えている。途上国かどうかの認定は、自己申告制である。改めて、中国を途上国と認めるかどうかを議論する。英国は、徹底的に「中国シフト」を敷いている。