文在寅(ムン・ジェイン)大統領は6日、韓国が国連貿易開発会議(UNCTAD)で地位を開発途上国から先進国グループに変更したことを理由に、「韓国が先進国になった」と自慢した。外交部も、「先進国の地位を名実共に確認した」「歴史的な里程標」と発表して調子を合わせている。
韓国にとっては、「先進国」という呼称ほど心地よいものはなさそうだが、労使関係はいたって悪く依然として「発展途上国」そのものだ。韓国経済研究院が人口5000万人、雇用率70%以上の4カ国と韓国を比較分析した結果、2009〜2019年の国別労働者1000人当たりの争議による労働損失日数は、次のような大きな差が出て来た。括弧内は、韓国の労働損失日数に対する倍率である。
韓国 38.7日
英国 18.0日(2.2倍)
米国 7.2日(5.4倍)
ドイツ 6.7日(5.8倍)
日本 0.2日(193.5倍)
韓国の労働損失日数は、日本の194倍にもなっている。これだけ、ストライキが多いことを示している。韓国労組が、「労働貴族」と揶揄されている理由だ。世界経済フォーラム(WEF)が評価した労使協力の競争力順位において韓国は130位。調査対象141カ国のうち最下位圏だった。
韓国を代表する現代自の労働損失日数は、2012〜2019年に行われたストで、少なくとも年間1800億ウォン(約171億円)、最大3兆1000億ウォン(2945億円)の損失を被ったという。この現代自動車が今年、3年ぶりのストライキへ突入する。
『東亞日報』(7月9日付)は、「年収1000万ウォン引き上げを蹴飛ばしてスト旗をあげた現代自動車労組」と題する社説を掲載した。
現代(ヒョンデ)自労組が一昨日、組合員73.8%の賛成でストを可決した。中央労働委員会が来週、現代自労使の意見の隔たりが大きいという判断を下せば、合法的なストを開始できるようになった。2019年は韓日貿易紛争、昨年は新型コロナ禍で紛糾なく賃金や団体協約を結んだが、3年振りにストが現実化する可能性が高くなった。
(1)「会社側は、基本給月5万ウォン(約4750円)の引上げなど1人当たり1114万ウォン(約105万8300円)の引上げ案を提示したが、労組は基本給9万9000ウォン(約9405円)の引上げと会社純利益の30%成果給支給などを要求し、会社案を拒否した。意見がさらに食い違う部分は定年延長だ。労組は国民年金の受け取り年齢に合わせて、64歳に定年を延ばしてほしいと要求しているが、会社側は生産人数の30%以上を必要としない電気自動車の生産が伸びており、定年延長は受け入れられないという立場だ」
賃上げ要求案は、過大というべきだ。約9405円の要求と純利益の30%要求は法外である。はっきり言えば、常識を超えている。現代自動車の研究開発費は、世界自動車業界では最低ランクである。十分な研究開発費も投じられないでいる状況で、純利益の30%の配分を求めるのは、韓国社会の共感を得られないだろう。
(2)「『新型コロナ』で抑えられていた先進諸国の消費が爆発し、新型SUVの人気が高く、現代自の海外業績が改善しているのは事実だ。しかし、車両向け半導体の供給支障により、上半期だけでも生産台数が7万台減り、来年上半期まで半導体大乱が続く見通しだ。人気車種は6カ月以上待たなければならず、米売り場の在庫は底をついた。生産を最大限増やさなければならない今、ストが始まれば上昇ムードに乗っていた業績はいつでも挫けられかねない」
現代自動車労組がこういう法外な要求を出すのは、韓国社会に連帯感がないことを物語っている。労組だけ利益を得れば良いという認識であるからだ。これは、下請け企業と労働者にしわ寄せが行くことを無視している。下請け企業の労働者は、現代自への製品納入価格が切下げられるので、賃金面での格差が広がる。要するに、他人の被る被害を無視している。
(3)「労組の定年延長要求は、自動車産業の激変を度外視し、高齢の労組員の利益ばかり気にしているという批判は避けられない。最近、世界的な自動車メーカー各社は、電気自動車への投資を拡大し、大々的なリストラに乗り出している。人為的な人員削減が難しい韓国では、引退を通じた自然減少が唯一の代案だ。労組のアンケート調査で定年延長に対する賛成が51%、反対が49%で拮抗するなど、中高年と青年層の意見の差も大きい。定年延長は個別企業の労使交渉ではなく、社会的合意を通じて結論を出さなければならない事案だ。賃金・団体交渉を妥結する時間がまだ残っているだけに、労使が最後まで膝を突き合わせて適正な水準で妥協点を見出さなければならない」
定年延長は必要である。韓国の年金支給は65歳からだ。企業の定年もそれに合せなければ、労働者な路頭に迷う。この仕事は、政府の行うべきことであり企業に任せてはならない。日本では、政府が定年制について旗を振ってリードした。韓国も同様に、政府マターであって企業任せをしてはならない。
コメント
日本の場合、ストを打たなすぎることは確かです。労組は、もっと強くなるべきでしょう。賃金と付加価値の関係をルール化すれば、日本の賃金はもっと引き上げられると思います。韓国の場合は、日本と全く逆ですね。向こうは、ルール無視です。
先進国型労働組合運動パターンは、ストを打つ前に労使が十分に話合うことと思います。先進国では、産業構造におけるサービス業の比率が高まって組織率は下がっています。これも争議による労働損失日を減らしている要因でしょう。
以上のお答でいかがでしょうか。
労働争議も…
おっしゃる意味についてはわかりますし、確かにその通りかと思いますが、私がコメントした趣旨は、労働争議と先進国議論については国民性や文化の違いもありますので、マクロ経済議論の指標としてあまり有意な意義を持たないのではないだろうかという意味であります。
日本の経済政策はこの労働政策等の誤りに端を発したデフレスパイラルの罠から脱出するためには、ベーシックインカムの導入などのインフレ誘導施策が絶対に必要だと思います。ついては、既発国債の紙幣化でもいいし、1000兆円札も印刷でも何でもいいので、物価や賃金の先高観を醸成しないことには我が国の経済の復活はもはや望めないところまで来ているのではないでしょうか。
もしお願いできましたら、これからの論説においてこのような視点から議論を深めていただければ有難いと思っております。
何卒宜しくお願い致します。
ご主旨のほどはよく分かりました。労働争議をマクロ経済指標として見てはおりません。ただ、韓国の労働争議多発は、労働問題として取り上げると大変に興味深いものがあります。韓国は、ドイツ流の労使協調制を採用していますが、ドイツのように円滑な運営ができず、対立を深めています。これは、ドイツの先進性と韓国の後進性に帰する部分があると思います。
日本経済の低成長は、生産年齢人口比率の低下で不可避と思います。今後、日本の同じ道の後を韓国と中国が追ってきます。中韓の潜在成長率は、不可避で「第二の日本」となりましょう。その点で、米国は抜群の強みを持っています。
日本の「潜在成長率=生産年齢人口比率」の低下を考えると、これ以上の金融財政緩和政策を取っても、潜在成長率を大きく押し上げるのは不可能と思います。
先進国経済は、遠からず全て「日本型」にならざるを得ないでしょう。
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