テイカカズラ
   

気象警告無視した自治体の責任

大洪水の元凶は中国の環境無視

EUは23年から炭素税で防壁

ドイツ政変で緑の党が鍵を握る

 

判じ物に映るかも知れない。今回、ドイツ西部のライン川沿いの地域を襲った大洪水は、ドイツの政治情勢を変えて「反中国」に動かすテコになりそうだ。この大きな変化に目配りする必要があろう。

 

地元自治体の不手際もあって、大洪水で他国を含め約180名もの犠牲者を出す惨事となった。この原因は、二酸化炭素の過剰排出が原因による異常気象である。このことから、世界一の二酸化炭素排出国である中国への風当たりが強くなることは間違いない。

 

ドイツは、伝統的に環境重視の国である。そのドイツがこれまで、対中国輸出に目が眩み中国批判を抑えてきたのが現実だ。特に、メルケル首相在任の16年間は、中国についての「価値と経済」が著しくアンバランスになって、経済(輸出)に傾き価値(人権と環境重視)を軽視してきた。ドイツは、ヒトラーという歴史への反逆者を出した国である。その意味からすれば、メルケル首相の「価値と経済」の不均衡が、改めて問われる事態となってきた。

 


ドイツは、9月に総選挙を迎える。メルケル首相は引退するので、「メルケル後」のドイツ政治が、中国に対して方向転換させる予兆に、今回の大洪水が大きく響くことは避けられない情勢である。これには先例があるのだ。2002年夏には独東部のエルベ川で大きな洪水被害が発生した。その際、当時のシュレーダー首相がいち早く長靴姿で現地に入り、その後の大規模な復興を主導した。率いていたSPD(ドイツ社会民主党)の支持率を一気に高め、同年9月の総選挙を勝利に導いたのである。

 

気象警告無視した自治体の責任

冒頭から、ドイツの大洪水→9月の総選挙→反中国へ軸足シフトと三段飛びの話になった。この間をつなぐ「中身」を、これから説明していきたい。

 

まず、大洪水の実態を見ていきたい。

 

7月中旬、ドイツをはじめ、ベルギーやオランダ、ルクセンブルクの一部で、数日にわたる豪雨が発生し、壊滅的な洪水をもたらした。この地域の死者は180人にも上った。ドイツで最も被害が大きい地域の一つ、西部ラインラント・プファルツ州の警察は、一連の災害による州内の死者が110人に増えたと発表した。ラインラント・プファルツ州だけで負傷者は670人に上り、今後も死傷者が増える恐れがあるとしている。甚大な被害である。

 

洪水の大半が発生したドイツのライン川流域では、降雨量が記録的なものとなった。家屋は浸水し、流域に建つ城の一部が流されたほどの氾濫である。原因は、異常気象に尽きる。これについて、専門家は次ぎように解説している。以下、『NATIONAL GEOGRAPIC』(7月21日付)を参考にした。

 

世界中の天気予報を提供するAccuWeatherによると、西ヨーロッパでは7月中旬から、動きの遅い低気圧のために激しい雨が降り続いていた。ドイツの一部では、1日の降水量が例年の1カ月分を超えた。この低気圧は、7月12日にロンドン各地で洪水を引き起こした後、南ヨーロッパに向かって移動していたものだ。

 

前記の記事の中に、今回の異常気象のもたらした2つの特色がある。

1)降雨量の増加

2)暴風雨(低気圧)の長期停滞

 


これは、日本でも先の集中豪雨で観測された事実だ。これは、次のメカニズムによって引き起される。

 

1)気温が上昇すると、空気中に蓄えられる水蒸気の量が増える。科学者らの見積もりによると、気温が1℃上昇するごとに、大気中に蓄えられる水分量は約7%増加する。大気中の水分量が増えれば、低気圧やハリケーンなどによる降雨量も増える。

 

2)地球の北極と南極の両極地方は、赤道地方との温度差が大きくなると、強く一定のジェット気流が吹く。だが、両極地方の温暖化が進むと温度差が縮まり、ジェット気流の速度が低下する。この結果、低気圧や高気圧が停滞する期間が長くなる。気象は3日から7日ごとに変化するものだが、現在では数週間も同じ気象パターンが続く異常気象になっている。

 

現在、地球を襲っている異常気象は、大気中の過剰な二酸化炭素排出量が原因と見ざるを得ない。これに反対する見解もある。どちらが正しいか、議論の決着を待っている訳にもいかず、「脱炭素」が急務の課題になっている。

 


大洪水の元凶は中国の環境無視

「脱炭素」では、中国が世界一の排出国である現実に目を向けざるを得ない。中国は、二酸化炭素の排出量で世界全体の28.4%(2018年)を占め断トツのワースト・ワンである。ワースト2位の米国14.7%(同)を1.9倍も上回っている。ちなみに、日本は3.2%(同)でワースト6位である。一部原発を止めている影響が出ている。

 

この中国は、つい数年前まで環境問題に無頓着であった。二酸化炭素問題は、産業革命(1860年以降)後に先進国が無軌道な工業生産を行った結果であると突き放してきた。新興国の中国は、何ら責任がないと言い切ってきたのだ。それが今は、脱炭素先進国のような顔をしている。実際はそうでなく、2030年まで二酸化炭素排出量が増え続け、それ以降に減少させ2060年にゼロにする目標である。現実問題として、30年間で「排出ゼロ」にできるはずがなく、責任回避のアドバルーンと受け取られている。(つづく)