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習近平氏にとって、香港問題を解決したので次は台湾問題である。台湾を取り戻し、名実共に、中国共産党革命を完成して、「終身国家主席」の座を確実にしたいところであろう。だが、台湾問題の裏には、米国を筆頭にして日本や豪州が中国軍事力の拡大阻止という命題を抱えている。それだけに、軍事攻略という荒っぽい手を使えば、敗北の場合に習氏の政治生命に関わるという重大な選択になるのだ。

 

習氏は、今年6月15日の誕生日で満68歳になった。今はまだ60代であるから、意気軒昂であろう。だが、70代に入ればいつまでも「終身皇帝」という地位を欲しがってばかりでもいられなくなろう。改めて、「人生の意義」を考える時期ある。要するに、人生に円熟味が加わって、性格に「丸み」も出るのでないか。そういう心情変化を期待する声も出てきたのだ。結論として台湾問題の帰趨は、習氏にしか分からないという推測である。習氏は、自分の人生の損得を考えるだろうという視点である。

 


私の見立てによれば今後も、習氏は台湾で瀬戸際政策を続ける。それによって、国内に緊張感を煽りたてるが、肝心の台湾侵攻を控える。開戦に乗じて起るだろう「反習」の動きを封じるためだ。こうして、自らの一生を安泰のうちに終えるという青写真を採用するだろう。これが、習氏にとっての最高の権力維持の方法であるからだ。その点では、北朝鮮の金正恩氏と同じで、瀬戸際政策を続けると見る。私のメルマガ279号で詳説した。

 

『日本経済新聞 電子版』(7月31日付)は、「『新皇帝』、台湾統一の思惑」と題する寄稿を掲載した。筆者は、英『フィナンシャル・タイムズ』前編集長のライオネル・バーバー氏である。

 

秦の時代から2000年以上がたったが、習近平(シー・ジンピン)国家主席は「中国の夢」や「中華民族の復興」といったスローガンを軸に、偉勲を立てようとしている。武力などによる台湾の統一も、習氏が(本気で)最高指導者としてかなえたい夢に含まれるのかという疑問は、差し迫った重要性を持つ。

 

(1)「7月の中国共産党の創立100年記念式典で、習氏は「台湾独立」の動きを粉砕する決意を表明した半面、台湾との平和統一プロセスを推進するという姿勢を踏襲した。強気ながらも計算された言葉遣いによって、基本方針を維持したかたちだ。とはいえ中国は、台湾周辺の軍備を増強しており、米国は本音を探りかねている。中国は国内のウイグル族の弾圧や香港の民主主義の締め付け、インドとの国境対立の扇動といったかたちでも強硬さを増す。米国のバイデン政権は中国をけん制しつつ、摩擦や戦争を引き起こさない方法をみつけなければならない」

 

習氏は、中国国内向けに強硬発言を繰返している。これが、同時に海外へ発信されることで、西側諸国は一段と警戒心を強める予想外の事態を招いている。習氏が、自分で自分の首を締める結果になる悪循環に陥っているのだ。

 


(2)「米国は(中国との国交樹立に伴い台湾関係法を成立させた)1979年以降、中国の武力行使も台湾の一方的独立も認めないような「戦略的曖昧さ」を打ち出してきた。米国が台湾問題で武力介入するかどうか決まってなかった。米シンクタンク外交問題評議会のリチャード・ハース会長らは2020年、戦略的曖昧さは役割を終えたと指摘した。「戦略的明確さ」に切り替えるべき時期が到来したという主張だ。
台湾の独立には引き続き反対だと中国政府に伝えつつ、現状を変えようとする中国の試みがあれば、断固として対処すると宣言すべきだとの見方だろう」

 

日米豪印の「クアッド」は、事実上の「戦略的曖昧さ」否定である。だが、米国はそれを明言しないのだ。明言すれば、中国を徹底的に追込むというマイナス要因があるからだ。そこまで追込まないで、「逃げ場」をつくって外交交渉の余地を残す戦略と思われる。「窮鼠猫を噛む」という最悪事態の回避だ。

 

この裏には、日米開戦時に日本によるハワイでの首脳会談提案を拒否して開戦に至ったことを悔いているのであろう。あのとき、米国は日本から最大の譲歩を引き出す機会を逸したのだ。対中戦略では、中国の譲歩を引き出す余地を狙っていると見る。

 

(3)「米国に残された時間は少ないという。習氏の軍事顧問の一部は、中国人民解放軍が、米国に効果的な反撃を許さずに台湾を急襲できると考えている模様だ。米国は、日本や韓国などとの同盟関係の絆を確かめる必要もある。バイデン政権の外交チームは、習氏が15年、当時のオバマ米大統領に対し南シナ海を「軍事拠点化はしない」と表明したのを念頭に置いているようだ。実際は、中国は軍事拠点の整備を進める。米政府は現状を踏まえ、国際的な協調を通じ、台湾統一の代償が高すぎると中国に思わせようとしている。日本などと合同で、南シナ海や東シナ海での緊張を想定した軍事演習を実施してきた」

 

中国が、台湾を占領するには30万の兵員が必要という。その大軍が、台湾海峡を渡ってくるには前兆現象ある。それに、人工衛星で常時監視しているので、台湾が気付いたら中国の手に墜ちていたなどということにはならない。そんなに簡単であれば、もっと早く侵攻してきたはずだ。

 

(4)「米国は、台湾との外交的な接点も増やしている。台湾の駐米代表を1月のバイデン大統領の就任式に招いたほか、6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で台湾海峡の安定の重要性を記した首脳宣言を採択するなどしている。ただ危険なのは、台湾に期待を持たせすぎることだ」

 

台湾の独立宣言は、中国の侵攻を誘引する口実になる。それゆえ、これを抑えなければならない。

 


(5)
「習氏にとって比較的リスクの低い戦略は、台湾の人々の独立の期待をもみ消し抵抗を抑え込みながら、中国本土と台湾の統一が歴史的な必然と受け止められる機運を高めることだろう。「煙のない戦争」とも呼ばれる方法だ。中国軍が28機を使って台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したり、台湾を外交的に孤立させる動きを強化したりする最近の対応も、習氏の戦略に含まれる。習氏は台湾にどれだけ魅力を感じているのだろうか。既に68歳の習氏が、あと10年待とうとするだろうか。権力の座にとどまり続けるだろうか。習氏の思惑は、新たな皇帝として君臨する本人にしか分からない

 

習氏は、晩年の毛沢東の哀れな姿を想像すれば、「皇帝」であり続けることの不安と葛藤がどれだけ大きいかを覚るはず。最後まで皇帝を狙っても、「反習」が立ち上がれば終わりである。これまで多くの政敵を粛清してきただけに、その恨みも受けている。人生、「ほどほど」が一番、幸せであろう。

 

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