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中国当局は、少子対策の一環として教育費削減を目ざし、教育産業の非営利化を決定するという荒療治を発表した。子どもの教育費の増大が出生率を引下げているという判断である。少子化の原因は、これだけではない。女性の権利意識の増大や35年間にわたる「一人っ子政策」で、子どもは一人という常識が定着していることだ。その意味で、「一人っ子政策」撤廃の時期を完全に間違えたのである。

 

中国共産党は、大きな政策転換を行うという見方が出てきた。前記のような教育問題の外に、医療問題や不動産問題という国民生活を圧迫する要因の解決に立ち向かわざるを得ない状況に遭遇している結果だ。デッドロックにぶつかって、方向転換を余儀なくされたと言える。

 

『ブルームバーグ』(8月2日付)は、「中国共産党が原点回帰、投資家の果実縮小かー党大会控え『共同繁栄』」と題する記事を掲載した。

 

中国共産党の習近平総書記(国家主席)は6月に訪れた青海省の省都・西寧で、上海やニューヨークの株式市場を揺るがした今回の校外学習規制をほほえみながら示唆していた。西寧市にある小学生の放課後クラブを視察した習総書記は、「校外の塾講師に学校教師の代わりをさせてはいけない」とし、「教育部門が是正を進めている」と発言。学習塾に多くの時間やお金を費やさなければならないプレッシャーが生徒や親に対して強まっていると認めた上で、負担軽減を約束した。

 

(1)「習氏のコメントは当時、世界の投資家の注目を集めることはほとんどなかったが、学習塾を手掛ける企業へのその後の締め付けは、中国経済において社会の安定と国家安全の確保が最優先され、投資家の利益を遠く離れた3番目の優先順位とする新たなビジョンを巡る習総書記のコミットメントを最も鮮明に示すことになった」

 

習氏が学習塾を取り締る決意は、6月に訪れた青海省の省都・西寧での発言に現れていた。この時点で決意していたのだ。

 

(2)「この数十年、党指導部は銀行や石油など戦略セクターに対する厳格な管理は残したものの、新たな技術の採用促進や成長に向けた機会創出の自由を起業家や投資家に与えた。鄧小平氏は1980年代半ばに唱えた「先富論」で、こうした路線を整えた。今では成長率が鈍り、米国との対立もますます先鋭化しており、指導部は共同繁栄と国家安全というこれまでとは異なる目標を強調しつつある。プロスペクト・アベニュー・キャピタルを創業した廖明氏(北京在勤)は、「これは中国の政策優先度における分水嶺的転換だ」と分析。「中国政府は最も強い社会的不満を生み出している産業を狙っている」と話す」

 

現在の中国指導部は、共同繁栄と国家安全に政策目標をシフトせざるを得なくなっている。不平等社会の出現と米国との対立激化である。いずれも、習近平氏が招いた問題である。国内的には、最も強い社会的不満を生み出している産業にナタを振おうとしているようだ。その問題点が、次のパラグラフに出てくる。

 

3)「共産党の原点を踏まえれば、国内の発展計画と相反するなら指導部にはベンチャーキャピタルやプライベートエクイティー(PE、未公開株)、株式投資家の利益を踏みにじることに抵抗はない。現在の焦点は「三座大山(3つの大きな山)」と呼ばれ、過度に負担がかかっている教育と医療、不動産の支出に移っていると廖氏は指摘する」

 

共産党指導部は、株式投資家の利益を踏みにじっても教育・医療・不動産の3課題に取り組まざるを得ない。

 

(4)「習総書記によれば、中国は今年「新たな発展局面」に入った。自由な成長よりも優先される事項は3つある。

1)国家安全:データ管理やテクノロジーの自立強化が含まれる

2)共同繁栄:この数十年で広がった格差是正を目指す

3)安  定:国内中間層の不満を抑えることを指す

習氏を突き動かす動機の1つに、総書記として3期目を目指すと見込まれる来年の共産党大会を控えて国民の支持を集めておきたい思惑がある。社会の不満拡大は安定を何よりも重視する共産党を揺るがす」

 


習氏は、下記の3点を重視するという。

1)国家安全:データ管理やテクノロジーの自立強化が含まれる

2)共同繁栄:この数十年で広がった格差是正を目指す

3)安  定:国内中間層の不満を抑えることを指す

 

前記3点は、改革開放政策を始めた1978年以来の「宿痾」の結果である。GDP引き上げだけを目指した高度経済成長のもたらした「澱」である。市場経済機能を完全に生かせば、こうした澱がここまで溜まることはなかった。それどころか、GDPデータを改ざんしてまで「背伸びし」「見栄を張ってきた」不可避的な挫折である。習氏は、こういう厳しい認識を持たなければダメだろう。2000年代の日本経済と同じ局面に立たされているのだ。

 

(5)「中国の指導部が、外国の株主が被る損失に対して涙を流すということはないだろう。中国にとってより大きなリスクは、強力な国家介入が民間投資を促すアニマルスピリッツを損ね、この40年にわたり成長を後押ししてきた世界経済との統合を反転させかねないという点だ」

 

習氏は前記3点の解決策として、強力な国家介入策を用いるだろう。それは、民間投資を抑圧する危険性を孕んでいる。中国は、自ら世界経済とのリンクを絶つ可能性も出てきた。そうなれば、自業自得で中国経済の残されたバイタリティは一挙に萎むに違いない。全て、習氏が3期目の国家主席の座を狙っている結果である。権威型政治の終末を見ることになろう。