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中国は、欧米諸国と新疆ウイグル族への弾圧が大きな摩擦を呼ぶ問題になっている。今回、アフガンからの米軍撤退によって、中国はタリバンと直接向き合わねばならない立場に立たされた。これが、中国にとってプラスかマイナスか、現状では判断がつきかねる状況にある。問題は、タリバンがイスラム教スンニ派であることだ。新疆ウイグル族もスンニ派である。

 

この宗教的にほぼ同じ「系統」にあることは、無信仰の中国にはピントこないかも知れないが「兄弟意識」である。宗教と理念的問題は、すべての利害を超えて連合する可能性を内包している。このことに認識を高めねばならない。

 

欧米は、時に対立しても同じキリスト教で価値観の一致という基盤に立っている。互いに、理解の早いことはよく知られている。イスラム教スンニ派も同じである。中国は、無信仰ゆえに信仰に無頓着であるが、これは極めて危険である。アフガン問題は、無信仰・中国の泣きどころになる危険性が高い。

 

『中央日報』(8月22日付)は、「シェール革命のバタフライ効果、バイデン氏 習近平氏にタリバン押し付けた」と題する記事を掲載した。

 

オバマ元大統領が2012年の年頭教書演説で「われわれは100年間使える天然ガスを確保しました」と話した。2007年から本格化した「シェール革命」は、オバマ政権の2009~2016年の間に、米国を世界一のエネルギー大国にした。「100年間分の天然ガス」宣言が出てから9年後、米国は「底が抜けた壺」のアフガニスタンを損切りした。アフガニスタン安定が中東安全の変数だが、これまで投じた金額と今後投じる金額を計算した上で結局米軍を撤退させた。

 

(1)「アフガニスタン撤退の直接的理由は、オサマ・ビンラディンに象徴されるイスラム原理主義勢力のテロ脅威が一段と弱まり、アフガニスタンの米軍駐留がかけた費用ほどの効果を出せないためだった。だが、米軍撤退の遠因は「中東の石油」の地政学的重要性がさらに薄まり、これをより明確に見せたのがシェール革命だった。石油に代わるシェール革命が、アフガニスタン撤退につながるバタフライ効果のひとつとして作用したのだ。米国の中東産原油への依存度が、シェール革命で低下して戦略地形図が変わった。聖公会(ソンゴンフェ)大学イスラム文化研究所のイ・ヒス所長は、「米国はもう原油を中東から輸入しない。シェール革命後から徐々に脱中東政策が固まり、イラクやシリアからも手を引いており、最後にアフガニスタンから手を引いた」と指摘した」

 

米国が、アフガンから手を引いたのは、もう原油を中東から輸入しないでも自給できる見通しがついたからだ。これは、極めて重要な点である。

 


(2)「中国は、米国と反対の状況だ。経済が成長し1人当たりエネルギー消費量が増加しており、資源を輸入して商品を輸出することが主要な経済体制の国だ。中国が「一帯一路」という拡張政策を展開する理由だ。アフガニスタンが中国に重要な理由でもある。アフガニスタンが一帯一路に参加すれば中東であるイランまで内陸路が通じる。すべての内陸輸送路がアフガニスタンと接する新疆ウイグル地区を通じて入ってくるという点でもアフガニスタンは中国のエネルギー安全保障に重要な地政学的要衝地だ」

 

中国は、米国とは反対にアフガンが欲しい立場である。アフガニスタンが一帯一路に参加すれば、中東であるイランまで内陸路が通じるという一大メリットが得られるからだ。ただし、戦闘的なイスラム教と対峙しなければならない。

 

(3)「バイデン氏が、アフガニスタンからの軍撤退を強行し中国の立場では思いがけない変数ができた。米軍が出て行ったことまでは良いが、中国とタリバンの共通の敵が消え、これまで水面下にあった中国とタリバンの間の「ゼロサム関係」が今後浮上する可能性を念頭に置かなければならない状況になった。国立外交院のキム・ハングォン教授は、「中国は南シナ海で米国の圧迫を受けているため南シナ海を通らないエネルギールートを開発してきた。内陸パイプラインルートはいずれも新疆地域を通っており、タリバンとともにスンニ派イスラム圏が新疆に形成され分離独立運動が強まれば、エネルギー安全保障に支障が生じる」と説明した」

 

タリバンは原理主義である。交渉は、「ゼロサム関係」である。プラス・マイナスを足せばゼロの関係で、両者とも妥協してプラスになる交渉は成り立たない。中国は、こういう相手と交渉しながら過ごさなければならないのだ。タリバンは、同じイスラム・スンニ派である新疆ウイグル族と手を組まない保障はどこにもない。

 


(4)「バイデン氏が、アフガニスタンからの軍撤退を決めながらこうした状況をわからないはずがないというのが専門家らの評価だ。すなわちバイデン氏の「大きなビジョン」は、米国の世界経営戦略で中東の重要性が減るにつれ、これまで中東に投じた資金と軍隊をアジア太平洋に回し中国牽制に出るところにある。同時に大きなビジョンの中の「隠された絵」はアフガニスタンの混乱を放置し、結局その余波を中国が管理するほかないようにする「押し付け戦略」という観測もある

 

下線部分は、米国が計算し尽くして行った手である。米中対立の現在、アフガンを中国に面倒見させる。米国は、その空いた手を対中国防衛に向かわせるという「二重作戦」である。ダブル・メリット狙いである。

 


(5)「この過程で、トルコのエルドアン大統領が突然、新疆問題で中国を非難することもあった。トルコのやはりタリバンや新疆ウイグル族と同じ「スンニ派イスラム」の国だ。キム教授は「エルドアン氏が中国を非難したのはささいに見えるが興味深い問題。中国がアフガニスタンに経済的援助をしながら互いに協力する姿を帯びても、宗教と理念的問題はすべての利害を超える問題として現れる可能性を内包している」と指摘した。中国の新たな悩みは、これまでタリバンの東進を防いできた米軍が離れ、タリバンはトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタンの中央アジア3カ国と中国西部新疆地域まで「スンニ派イスラム勢力圏」を形成する可能性だ」

 

下線のように、タリバンによって中央アジア3ヶ国と、新疆ウイグル族を繋いだ「スンニ派イスラム勢力圏」を形成する可能性が強まれば、中国は大きな影響を受ける。不確定条件だが、中国にとって気の休まることはあるまい。これまでの米国が悩んだことを、今度は中国が味わうのだ。