あじさいのたまご
   

中国は、新型コロナウイルス感染では完全な都市封鎖を行って封じ込めた。形の上では、防疫成功のイメージだが、市民の免疫度はインドやインドネシアを下回っているという。この結果、常に「コロナ臨戦態勢」を敷いて都市封鎖しなければ、感染拡大を防げないという代償を払うことになった。

 

中国製ワクチンは、インド型の感染予防力が低いので、インドネシアでは死者が出るなど、評価を落としている。中国政府は、メンツを保つために中国製ワクチンしか認めていない。米英製のワクチンを無視している。

 

以上のような二つの理由で、今や中国は新型コロナの再感染に最も敏感に対応せざるを得なくなっている。これが、経済的なコストを大きく膨らませる結果になった。

 


英誌『エコノミスト』(8月21日号)は、「中国でもデルタ型、世界揺さぶる」と題する記事を掲載した。

 

唐時代の8世紀以降、中国東部の寧波港(浙江省)は貿易港として栄えてきた。21年上期には貨物取扱量で世界首位になった。しかし8月11日、寧波港でも有数の貨物取扱量を誇るターミナルが突然稼働を停止した。34歳の港湾作業員が新型コロナの変異ウイルスのインド型(デルタ型)に感染していることがわかったからだ。作業員は中国科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンを2回接種していたが、ターミナルを訪れていた船員と接触していた。中国政府は感染者をたった1人確認しただけでターミナルの操業を停止し、濃厚接触者254人に加え、濃厚接触者と接触していた396人も隔離した。今回のターミナルの閉鎖は3つの点を浮き彫りにしている。

 

(1)「デルタ型を水際で食い止めることがいかに困難であるかを改めて示しただけでなく、中国はどんなに難しくとも、もう一度全力で新型コロナの感染拡大を抑え込もうとしているということだ。さらに中国のデルタ型との闘いがいかに世界中に波紋を広げるのかということも明らかにしている。貨物輸送のオンラインマーケットプレイスを運営する香港の情報会社フレイトスによると、中国の港から米国の最終目的地までの海上での輸送期間は昨年8月に47日だったのに対し、現在は70日前後になっているという。貨物輸送が遅れているだけでなく、今後も港湾施設が閉鎖されかねないとあって、欧米のクリスマス商戦にもしわ寄せが及びそうだと懸念する専門家もいる」

 


コロナ感染の水際防止が、いかに難しいかを示している。中国は、都市封鎖で「コロナ真空地帯」をつくってきた。瞬間的に感染防止で成功しても、その効果は長期に続かないという根本的な弱点を抱えている。その意味では、コロナ脆弱国家といわざるを得ない。

 

(2)「8月10日時点で中国国内の隔離者は5万808人に上り、現感染者(累計感染者から回復した人と死者を除いた人数)1人につき20人以上が隔離されていることになる。政府は市や省をまたぐ不要不急の移動を制限し、感染拡大が最も深刻な南京市と河南省鄭州市は新学期の開始を遅らせた。米金融大手のゴールドマン・サックスが開発したロックダウン(都市封鎖)の指標によると、中国の現在の行動制限は20年4月に匹敵する厳しさだという」

 

感染者1人につき20人以上が隔離されている計算だ。中国の現在の行動制限は、20年4月に匹敵する厳しさだという。これが、経済的に大きな代償を払う結果になっている。

 


(3)「行動規制の影響がすでに表れている。中国のオンライン旅行プラットフォーム、航班管家(フライト・マスター)によると、空港稼働率は8月12日時点で38%にとどまっている。感染拡大が最も深刻な12都市の渋滞量中央値が感染前の基準値を12%下回った。移動規制は、すでに進行している景気減速に追い打ちをかけている。鉱工業生産指数、小売売上高、固定資本投資、不動産販売はいずれも7月に予測を下回った。政府が環境対策として鉄鋼生産を抑制しているほか、金融の安定性確保に向け住宅投機を抑え込んでいることも影響している」

 

下線のように、主要経済活動に影響が出ている。これは、不動産バブル崩壊による信用創造能力の低下という「信用不安」が根底にある結果であろう。金融構造の脆弱性という視点を忘れてはいけない。

 


(4)「野村国際の陸挺氏は、79月期の国内総生産(GDP)の前期比伸び率がわずか0.%にとどまるとみる。同氏は21年通年のGDP伸び率の予測を8.%から8.%に引き下げた。それが現実のものとなれば、住宅購入規制が続いたとしても、中国人民銀行(中央銀行)が追加緩和に動く理由となりそうだ。中国景気の減速は、国内外の金融市場を揺るがしている。上海・深圳の主要銘柄で構成される「CSI300」指数は8月10日以降4%下落している。鉄鉱石価格は7月末から21%下落し、銅価格は5%を超える値下がりとなった」

 

前年同期比というベースで、米中のGDP成長率を見れば、これから数四半期、米国が中国を上回るという予測が米国人エコノミストの間に広がっている。それが、現実の数字になれば、世界のエコノミストは驚愕するであろう。

 

(5)「中国にはデルタ型の感染拡大を抑え込む強大な力がある。加えて、感染を抑え込まなければならないという動機も強い。他国と違い、中国には感染力の強いデルタ型に厳しい対策を取らざるをえない理由が2つある。まず、中国では過去に新型コロナに感染した人が比較的少ない。そのため、感染が拡大した時期に自然に免疫を獲得した人も少ない。一方、ワクチンを2回接種した人はかなりの割合に上る(政府発表では55%を超える)が、中国製ワクチンの有効性は欧米製ワクチンを下回るとみられている」

 

このパラグラフに、中国がデルタ型コロナの感染防止に対して必死になる理由二つがあげられている。自然免疫を獲得した人が少ないこと。中国製ワクチンが効かないこと、である。

 

(6)「ゴールドマン・サックスによると、ワクチン接種率では中国が格段に上回っているにもかかわらず、中国で何らかの免疫を獲得している人の割合はインドだけでなくインドネシアすら下回っているという。仮に中国が対策を緩め、欧米で一般的な感染率を容認すれば、重症患者数が増えて警戒すべき水準に上昇しかねない

 

中国は、「コロナ真空地帯」だけに感染が拡大すれば、一挙に重症者が増える懸念をかかえているのだ。コロナ脆弱国家である。