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米国のアフガニスタン撤退は、中国にとって「不幸」の始まりになりかねない。アフガンでは、これまでテロリストの標的が米国であった。その米国が消えた今、テロリストにとっては中国が21世紀の「新植民地」として浮上している。中国は、新疆ウイグル自治区を手中に収め、「一帯一路」によって勢力の拡大を図っていると断定されている。

 

第二次世界大戦後、英国の歴史家アーノルド・トインビーは、中国の経済力が衰退する時期に、中国によって征服された周辺国が独立を目指すと予測した。これが、歴史においては共通であるとの不気味な予測である。テロリストが不穏な動きをすれば、中国にとって厄介な問題になりそうだ。その第一歩が現在、始まったと見るべきであろう。

 


『ニューズウィーク 日本語版』(9月9日付)は、「新たな超大国・中国が、アメリカに代わるテロ組織の憎悪の標的に」と題する記事を掲載した。『FOREIGN POLICY誌からの転載である。

 

数年前から、パキスタンでは中国人や中国の権益が絡む施設に対するテロ攻撃が繰り返されている。パキスタン・タリバン運動(TTP)のようなイスラム過激派や、バルチスタン州やシンド州の分離独立派の犯行とみられる。

 

この8月20日にも、バルチスタン解放軍(BLA)が南西部グワダルで中国人の乗る車両を攻撃する事件が起きた。BLAは2018年11月に最大都市カラチの中国総領事館を襲撃したことで知られる。中国が今後、世界中で直面するであろうという現実の縮図だ。それが今のパキスタンである。中国が、国際社会での存在感を増せば増すほど、テロ組織の標的となりやすい皮肉な運命だ。

 


(1)「2001年9月11日のアメリカ本土同時多発テロ以前にも、中国は当時のタリバン政権と協議し、アフガニスタンに潜むウイグル系の反体制グループへの対処を求めたが、タリバン側が何らかの手を打った形跡はない。中国政府が最近タリバンと結んだとされる新たな合意の内容は不明だが、イスラム教徒のウイグル人をタリバンが摘発するとは考えにくい。むしろ、この地域における中国の権益の保護を求めた可能性が高い

 

中国は、タリバンに対してアフガンでの中国権益の保護を求めた可能性が高い。

 

(2)「中国政府は、タリバン政権成立後にアフガニスタンの国内情勢が不安定化し、その隙を突いてETIM(東トルキスタンイスラム運動)が台頭することを強く懸念している。その脅威は国境を接する新疆ウイグル自治区に直結するからだ。タリバン側はETIMの脅威を抑制すると中国側に約束したようだが、中国政府がその言葉をどこまで信用しているかは分からない」

 

中国が、最も恐れているのはETIM(東トルキスタンイスラム運動)による、新疆ウイグル自治区への独立運動テコ入れである。

 


(3)「パキスタンで、中国人や中国の投資案件を狙ったテロが急増している事態は、米軍のアフガニスタン撤退を背景に、あの地域で中国を敵視する武装勢力が勢いづいてきた証拠だ。中国としては、タリバン新政権と良好な関係を築くことにより、テロの脅威を少しでも減らしたいところだ。しかし問題の根は深く、とてもタリバン指導部の手には負えないだろう」

 

パキスタンで、中国人や一帯一路プロジェクトへのテロが急増している。中国が、タリバン新政権と仲良くしても、隣国パキスタンのテロを防げるものでない。

 

(4)「かつてのイスラム過激派は、中国の存在を大して意識していなかった。今の中国は、世界第2位の経済大国で、アフガニスタン周辺地域で最も目立つ存在になりつつある。当然、中国に対する認識は変わり、緊張も高まる。それが最も顕著に見られるのがパキスタンだ。中国とパキスタンは友好関係にあり、戦略的なパートナーでもあるが、パキスタンで発生する中国人に対するテロ攻撃は、どの国よりも突出して多い」

 

パキスタンでは、中国を標的にしたテロの根が深い。中国が、一帯一路プロジェクトでパキスタンを食い物にしているからだ。その恨みを買っている。

 


(5)「アフガニスタンからのテロ輸出を防いでいた米軍が撤退した以上、中国は自力で自国民の命と自国の利権を守らねばならない。中国は、これからイスラム過激派とも民族主義的な反政府勢力とも、直接に対峙しなければならない。パキスタンのシンド州やバルチスタン州で分離独立を目指す少数民族系の武装勢力は、中国を21世紀の「新植民地主義国」と見なしている。中央政府と組んで自分たちの資源を奪い、今でさえ悲惨な社会・経済状況をさらに悪化させている元凶、それが中国だと考えている。カラチでの中国人襲撃について名乗りを上げたバルチスタン解放戦線は犯行声明で、「中国は開発の名の下にパキスタンと結託し、われらの資源を奪い、われらを抹殺しようとしている」と糾弾した」

 

下線部は、深刻である。中国を21世紀の「新植民地主義国」と見なしているほどである。中国が、米国に打勝って世界覇権を握るという大言壮語が、自らを滅ぼす要因になりかねなくなってきた。

 


(6)「ジハード(聖戦)の旗を掲げるイスラム過激派は従来、アメリカと西欧諸国を主たる敵対勢力と見なしてきた。中国の存在は、あまり気にしていなかった。しかし、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人(基本的にイスラム教徒だ)に対する迫害が伝えられるにつれ、彼らの論調にも中国非難が増え始めた」

 

米国のアフガン撤退後、中国がテロの恨みを一身に受ける役回りになった。新疆ウイグル族への迫害が、中国の身を滅ぼしかねない要因になのだ。因果応報と言うべきだろう。

 

(7)「そうした論客の代表格が、例えばミャンマー系のイスラム法学者アブザル・アルブルミだ。アルブルミは15年以降、米軍のアフガニスタン撤退後に、中国が新たな植民地主義勢力として台頭すると警告してきた。支持者向けのある声明では、「イスラム戦士よ、次なる敵は中国だ。あの国は日々、イスラム教徒と戦うための武器を開発している」と主張していた。イスラム聖戦派のウェブサイトでも、最近はウイグル人による抵抗の「大義」が頻繁に取り上げられている」

 

中国が、新疆ウイグル族を弾圧していることから、ウイグル人による中国抵抗の「大義」が頻繁に取り上げられているという。中国にとっては、厄介な問題になってきた。