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不動産開発企業の大手である中国恒大が、債務再編の手術台に上がっている。債務残高は、3000億ドル以上(約33兆円)とされている。一私企業の範疇を超えており、中国経済に与える影響は計り知れないものがある。

 

『ブルームバーグ』(9月13日付)は、「中国恒大の債務、75%減免が債券アナリストの基本シナリオ」と題する記事を掲載した。

 

不動産開発大手の中国恒大集団は、ディストレスト(経営破綻危機)債並みの社債価格がヒントになるなら、中国で過去最大級の債務再編に直面する可能性がある。

 

(1)「ノムラ・インターナショナル(香港)のクレジットアナリスト、アイリス・チェン氏は債務再編が「ほぼ不可避だ」と述べ、政府の監督下でのディールに基づき、恒大が住宅引き渡しとサプライヤーへの支払いを確実にし、ドル建て債保有者は投資額の25%を回収するのが基本シナリオだと説明した。クレジットサイツ・シンガポールのシニアリサーチアナリスト、ルーサー・チャイ氏も、恒大がデフォルト(債務不履行)に陥って債務再編に向かう可能性があると予想。そのリスクは織り込まれつつあり、同社のドル建て債の多くが30セント前後で取引されていると指摘した」

 


恒大は、購入契約者へ住宅引き渡しと建築資材供給業者への支払いを済ませば、ドル建て債保有者は投資額の25%を回収できれば「御の字」という。つまり、75%は切り捨てである。ここでは、資本金の減資問題を触れていないが、会社が存続すれば減資問題も出てくるだろう。

 

(2)「恒大ほどの規模の不動産開発会社の支払い延滞は、中国において非常にまれであるため、投資家やアナリスト、規制当局が頼りにできる事例研究はわずかだろう。佳兆業集団は2015年に中国の不動産開発会社で初めてドル建て債でデフォルトに陥った。別の事例は華夏幸福基業投資開発で、現在交渉中だ」

 

過去に、恒大のような巨額債務を抱えて、デフォルト危機に陥ったケースがないという。恒大は、ドル建て債券を発行しているだけに、債務再編は慎重に行わざるを得まい。

 


(3)「恒大が無秩序に破綻すれば、金融システムへの脅威となる恐れがある。中国当局は明らかな前例がないため、3000億ドル(約33兆円)以上の負債を抱える恒大のような債務問題を解決するメカニズムを今後試していく必要がある。事情に詳しい関係者1人の先週の話によると、規制当局は恒大に対し、銀行や他の債権者との支払期限を巡る再交渉を承認したという。以下に3つのシナリオを挙げる」

 

中国当局は、直接の責任がないとしても海外債権者の納得のいく解決方法を見つけねばならない。当局は、外債発行を奨励して外貨準備高の嵩上げを狙ってきたからだ。その意味では、当局も無関係と言えぬ立場である。

 


(4)「恒大が債務を再編し、債券保有者は資金の一部を回収するシナリオだ。ノムラのチェン氏は中国の不動産業界の発行体企業の一部に最初こそ影響する可能性もあるが、主要な脅威が取り除かれるためセンチメントは改善すると予想する。クレジットサイツのチャイ氏は、再編プロセスに政府が関与する公算は大きいとしながらも、デフォルトを阻止したり、最後の債権者として受け止められたりすることはないとコメント。クレジット市場でのモラルハザード(倫理観の欠如)に対処しつつ社会や金融、経済への影響を抑制するため、共産党の関与は後になるだろうとした」

 

恒大の債権債務を洗い出せば、債権者に若干の配分が出てきそうだという。総額3000億ドル以上の債務を整理して、どの程度の債権回収が可能か、である。

 


(5)「国有企業による完全もしくは部分的買収の可能性はあるが、ノムラのチェン氏はこのシナリオ通りになる確率は低いとみる。恒大は市場環境が改善すれば上場資産をより良い価格で売却する可能性もあり、その場合は債券保有者の回収率が30%以上になると予想する。クレジットサイツのチャイ氏によれば、恒大は手元流動性を向こう1年で改善するため時間を稼ぐ可能性もある。そのシナリオでは、恒大は近く満期を迎えるドル建て債の一部を返済することになるという。恒大は非中核資産の売却を目指しており、目先の債務返済を支えるだろうが、同社は先月、その取り組みが不十分ならデフォルトリスクがあると明らかにした」

 

ここでは、住宅販売環境の好転を期待している。不動産バブル崩壊という極限状況を想定すれば、住宅販売環境の好転は期待薄であろう。都市部では、すでに2割の空き家があると指摘されている。今後の固定資産税新設という事態になれば、一斉に売りが殺到する。余りにも甘い期待を寄せているものと呆れるのだ。

 


(6)「清算は、債券保有者がほとんど何も得られないシナリオだ。クレジットサイツのチャイ氏によれば、これは「中国の不動産や金融全般だけでなく、恒大のサプライヤーなど関連企業にとっても大混乱をもたらす」ため起こりそうにないシナリオだという。モルガン・スタンレーのアナリストらは、中国不動産開発会社のリストラでは「全ての当事者に清算シナリオの回避が奨励されている」と指摘する。また、恒大が簿外債務の一部を帳簿上に戻す可能性もネガティブなシナリオだとノムラのチェン氏は指摘する。これらの資産はドル建て債よりも優先順位が高くなる可能性があり、簿外債務が予想より多ければ、債券保有者の回収率は15%未満になる恐れもあるという」

 

会社清算となれば、全て「ゼロ・ベース」で査定される。それでは、余りにも波及先に大きな影響を与えるので、「企業存続」を前提にした債務再編に取り組むのがベターであろう。簿外債務が表面化すれば、実際の回収は15%見当へ切下げられる。