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中国政府が今月16日、TPP(環太平洋経済連携協定)参加の正式申請を行った。台湾政権もこれを受けて、正式申請を発表した。中台が、TPP加盟をめぐって競合する形だが、TPP精神からみれば、台湾有利と言えよう。

 

こうした外交関係の複雑さを反映し、あえて台湾もTPPへ中国と同時申入れになったと見られる。台湾の場合、2017年当時から、TPP加盟国と下打ち合わせをする用意周到ぶりを見せてきた。中国の急造な申請とは状況が異なる。その点で、台湾が数段も中国より有利な立場にある。

 


『日本経済新聞 電子版』(9月22日付)は、「台湾、TPPに加盟申請 中国の反発必至」と題する記事を掲載した。

 

台湾当局がTPPへの加盟を22日に正式に申請したことが分かった。23日に当局者が詳細を発表する。すでに事務局の役割を担うニュージーランド政府に申請書類を提出し、すべての加盟国に参加への支持を要請した。

 

(1)「台湾の行政院(内閣)が22日夜、明らかにした。TPPを巡っては台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権と対立を深める中国が16日に加盟申請したと発表したばかり。TPPには現在、日本など11カ国が加盟しており、英国も2月に加盟を申請している。参加には加盟国すべての同意が必要となる。台湾は中国が主導する日中韓や東南アジア諸国が加盟する地域的な包括的経済連携(RCEP)には加盟せず、TPP加盟と米国との自由貿易協定(FTA)締結を目指してきた。台湾はTPP加盟国のうち、ニュージーランドとシンガポールの2カ国とすでにFTAを結んでいる。蔡政権はこれまで非公式にTPPへの加盟希望を関係国に伝えてきた」

 

台湾政府は、TPP加盟国11ヶ国と事前の下交渉を済ませている。その点で、中国のようにスタートラインに立ったばかりの国と状況は異なる。

 


(2)「台湾のTPP加盟に向けたハードルは高い。中国大陸と台湾は1つの国に属するという「一つの中国」を唱える中国の習近平政権は、台湾の加盟阻止に向けた関係国への外交的な働きかけを強めるとみられる。中国共産党系メディアの環球時報(電子版)は22日、台湾のTPP加盟申請について「かく乱だ」と批判した。国務院台湾事務弁公室の報道官が「中国と国交を結んだ国が台湾と協定を締結することに断固反対する」とコメントしたとも伝えた」

 

このパラグラフは、かなり中国サイドの情報で書かれた記事の印象である。現実には、中国の台湾への軍事的圧力が高まる中で、台湾への同情論が高まっている。中国が「戦狼外交」によって台湾の加盟阻止で加盟国へ圧力を掛ければ逆効果となろう。

 

台湾が、TPP加盟条件を完璧に満たしていれば、中国の圧力で阻止することは不可能なはず。かえって、自らの加盟を阻止する「オウンゴール」になりかねないだろう。中国は、「やぶ蛇」という最悪事態に陥るだろう。

 


(3)「一方、台湾当局は民主主義の価値観を共有する日本などに加入を支持するよう強く働きかける方針。今後、中台のTPP加盟を巡る外交的な駆け引きが激しくなりそうだ。中国からの圧力が強まるなか、蔡政権は米国とのFTA交渉にも動いている。6月には米国と1994年に署名した「貿易投資枠組み協定」に基づく協議の再開にこぎ着け、FTA交渉への準備作業を開始した」

 

台湾外交部(外務省)は昨年12月時点で、すでにTPP参加に向け、既存の参加11カ国と非公式協議を進めてきた。協議を終えた段階で、正式に申請を行う意向も示していたので、中国の正式申請に刺激されたということではない。

 

台湾は、WTO(世界貿易機関)に加盟している。多くの国は、中国の反発を懸念して台湾との貿易協定締結に慎重で、台湾は多国間協定への参加拡大を模索しているところ。だが、中国の「戦狼外交」に反発する西側諸国も出ており、東欧のリトアニアが中国の反対を押し切って台湾との関係強化が始まっている。

 


台湾は、すでに事前にTPP11ヶ国との下折衝を終わっている。準備万端整っての正式加盟申請である。その点で、中国の「付け焼き刃」的な申請とは異なっている。

 

台湾は、2017年当時からTPPへの参加意欲を示していた。これを知った日本の菅義偉官房長官(当時)が、「歓迎したい」と台湾を支持する発言をしたほど。台湾の蔡総統は、自身のツイッターで大きな自信を得たとともに日本の支援を感謝すると投稿した(2017年6月28日)ほど。日本との意気はピタリと一致している。

台湾の正式申請に対して、日本政府は次のように語っている。

「台湾は(TPP参加国と)普遍的価値を共有している」としたうえで、「台湾はTPP加入に向けて関係法令を整備するなど準備を進めてきており、国有企業への補助金や電子商取引、労働などTPPで定められているルールを巡る問題点はあまりないだろう」との認識を示した。『読売新聞 電子版』(9月22日付)が報じている。