ムシトリナデシコ
   


中国の「戦狼外交」は、気の毒になるほど世界中から嫌われている。これまで大言壮語してきたが、「金の切れ目が縁の切れ目」になっており、引潮のように「中国熱」が覚めている。特に中東欧国にそれが顕著だ。中国は、これまで中東欧国17国を束ね「17+1」を率いてきた。その原動力は資金であったが、最近はすっかりその魅力も消えた。

 

そうなると、欧州文化の優越感がそろりと顔を出し、人権弾圧の野蛮国とは言わぬまでも、「さようならチャイナ」という時間も早い。チェコとリトアニアが反旗を翻している。

 


英紙『フィナンシャル・タイムズ』(9月22日付)は、「『中国熱』が冷めた中東欧諸国、台湾に熱視線」と題する記事を掲載した。

 

バルト3国の一つ、リトアニアが台北に代表部を設置すると発表した3月以降、台湾ではクレジットカードを保有する人々が25億台湾ドル(約99億円)相当のリトアニア産品を購入している。代表部は公式な外交機関より下のレベルだが、関係の深まりを示すものだ。小国のリトアニアが台湾のインターネット通販利用者の7番目の主要市場となっている。

 

(1)「このリトアニア産品ブームは、台湾と中東欧諸国の新たな相愛を示す一つにすぎない。この数カ月の間にリトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキアが台湾に新型コロナウイルスのワクチンを無償提供した。欧州連合(EU)加盟国の中で、台湾にワクチンを提供したのはこの4国だけだ。10月には台湾の経済政策の司令塔の役割を担う国家発展委員会の主任委員(閣僚)が官僚や民間企業の代表65人からなる投資視察団を率いて、そのうちの3国を訪問する予定だ」

 

リトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキアの4ヶ国が、台湾へワクチンを提供して親交を深めている。台湾は、その返礼も含めて3ヶ国へ投資視察団を送るという。台湾は外貨が潤沢だ。投資資金はいくらでもある。

 


(2)「中国との協力による経済的利益の期待が、権威主義的な超大国に支配される不安へと変わり、各国政府が対中関係を見直すなかでの接近だ。「中国が『17プラス1』を発足させたことで、非常に高い期待があった」と話すのはシンクタンク「ポーランド国際問題研究所」の中国アナリストのユスティナ・スチュドリク氏だ。17プラス1は、中国政府が中東欧諸国との関係強化のために立ち上げたグループを指す。「しかし徐々に、この関係は実りあるものではなく、中国側の働きかけは大部分がPRであるということを私たちは思い知るに至った」という」

 

中国の大言壮語は、有名である。ご馳走と土産を持たせて歓心を買う。ここに女性がいれば、もう立派なスパイ活動の開始である。中国4000年の歴史は、こういう低俗なことで相手を籠絡してきた。引っかかる方も迂闊である。中国社会では、「魚心あれば水心」で賄賂と同様な社交術なのだ。東欧諸国もこの手に乗せられたのだろう。

 


(3)「チェコのパラツキー大学オロモウツ校とシンクタンク「中欧アジア研究所」が2020年に公表した欧州市民の対中意識調査によると、中東欧諸国の中で好意的な見方が大部分を占めるのはセルビアとラトビアだけだった。最も反感が強かったのはチェコで、回答者の56%が中国政府に否定的な目を向け、41%がこの3年で対中観は悪化したと答えている。経済的機会に関する幻滅が一つの理由だ」

 

一度は騙された中東欧国も、時間が経てば中国の意図に気付く。中国から離れるのは当然である。

 

(4)「前出のスチュドリク氏によると、一連の(中国の)出来事が懸念の高まりにつながった。半導体などの中核産業で自給体制を確立するという産業政策「中国製造2025」の策定、16年の中国企業によるドイツの産業用ロボット大手クーカの敵対的買収、そして相手国に重い債務を背負わせるインフラ整備プロジェクトの「一帯一路」だ。「彼らは基幹インフラに手を伸ばし、投資によって支配権を握ろうとしているということがわかった」と同氏は言う」

 

中国は欧州の高度技術を狙っていた。日本は、中国のやり口に熟知していたので騙されることはなかった。過去の中国へ抱いていた「偏見」が、まんまと生きたと言える。

 


(5)「政治の領域での懸念はさらに強い。多くの中東欧諸国にとって、1989年にソ連の占領や支配から解放されたことは自国のアイデンティティーの不可分の一部だ。年配の人々は、自分たちが外国の支配から逃れようとしていたのと同じ時期に、天安門広場でデモを残忍に弾圧した中国に警戒の目を向けている。それと同じ理由で中東欧諸国は、中国のロシアとの関係強化を不安の中で注視している。17年のバルト海での中ロ海軍による合同軍事演習は「ポーランドに衝撃」をもたらしたとスチュドリク氏は言う」

 

1989年は、中東欧諸国の人々に忘れられない年である。自らは旧ソ連から解放されたが、中国では共産党によって学生が弾圧され、自由を奪われたた年である。中国共産党へは独特の嫌な思いがあるのだろう。それが今、苦々しく思い出されて中国への警戒心を呼戻しているに違いない。

 

(6)「リトアニアは5月に「17プラス1」から離脱した。同国のナウセーダ大統領は先ごろ『フィナンシャル・タイムズ』(FT)に対し、中国とは「相互尊重の原則に基づく」関係を持ちたいとの考えを示し、どの国と協力するかを決めるのは「自由」だと強調した。「これによって緊張が増すことはないはずだ」と大統領は語っている。バルト3国にとっては、1990年にソ連から独立した後、最初にアイスランドの承認を得たということが新興の小さな民主主義国家を支える原則となっている。「我々はリトアニアから遠く離れた小さな国の大きな支援を得た。アイスランドは我々の独立を承認し、価値観と原則がなおも大きな意味を持つことを世界に示してくれた」とナウセーダ氏は語った」

 

下線部分は正論である。リトアニアが、台湾と外交関係を持っても自由である。それを、「一つの中国論」で束縛するな、と反駁しているのである。もっともな発言である。内政干渉である。

 

(7)「リトアニアは対中姿勢の硬化を最も声高に示している。台湾と相互に代表部を設置する決断を下した後、中国と完全に対立し、両国とも駐在大使を召還するに至っている。リトアニア議会は中国に批判的な決議も採択している。その一つは、新疆ウイグル自治区に対する中国政府の政策を非難する内容だ。同自治区では、数百万人の少数民族ウイグル族が収容施設に入れられているとされる。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の締め出しを求める決議も採択されている」

 

リトアニアは、中国の高圧姿勢に断固、立ち向かっている。これは、他国にも伝播していくだろう。堤防は蟻の一穴から崩れるという。リトアニアが、その役割を担っている。