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中国は、南シナ海の占拠問題で常設仲裁裁判所から敗訴の判決を受けている。勝訴は、フィリピンであったが、ドゥテルテ大統領はこの判決を生かさず、中国へ曖昧な姿勢を続けて来た。中国は、これを悪用して南シナ海で占領の島嶼に軍事基地を拡張するという違法行為を重ねてきた。

 

フィリピン憲法では、大統領経験者が副大統領になることに疑念のあることを理由に、ドゥテルテ大統領が副大統領立候補を断念する声明を発表した。中国にとっては、南シナ海問題で「有力支援者」を失うことになりかねず、南シナ海問題は新たな局面展開を迎える可能性が出て来た。

 


『時事通信』(10月2日付)は、「ドゥテルテ大統領『政界引退』、違憲批判受け出馬撤回 フィリピン」と題する記事を掲載した。

フィリピンのドゥテルテ大統領は2日、「政界からの引退を表明する」と述べ、来年5月の副大統領選への出馬を撤回した。憲法違反に当たるとの批判を考慮したという。ドゥテルテ氏と側近のゴー上院議員がマニラ首都圏の立候補受付会場で明かした。

 

(1)「2人は与党PDPラバンから正副大統領候補に指名されていたが、ゴー氏が副大統領選への立候補を届け出、ドゥテルテ氏は手続きをしなかった。ゴー氏は「ドゥテルテ氏は出馬を撤回し、代わりに私が意志を継いで副大統領選に挑む」と説明。続いてドゥテルテ氏は、副大統領選への出馬が憲法に反するとの批判が出ていることに触れ、「国民の求めに従い、政界からの引退を表明する」と述べた」

 

ドゥテルテ氏が、来年5月の副大統領立候補を断念したのは、憲法違反の疑いを理由にしているが、現実には支持率の急落が大きな理由と見られる。

 


フィリピンの「パルス・アジア」が96日から11日にかけて行った世論調査では、ドゥテルテ氏の「副大統領候補支持率は14%」に過ぎなかった。ドゥテルテ氏は大統領としての支持率が、常時80%前後を誇っている。だが、副大統領候補としての支持率は、同じく副大統領に出馬表明しているソト上院議員の支持率25%(トップ)に及ばず2番手に甘んじる結果となった。これでは、ドゥテルテ氏のメンツは丸潰れであり、副大統領としての立候補を断念したと予想される。

 

『ニューズウィーク 日本語版』(9月30日付)は、「比ドゥテルテ支持率急落 奇策の副大統領出馬は憲法違反?」と題する記事を掲載した。

 

(3)「これまでフィリピン史上、大統領経験者が副大統領に就任した前例はない。もしドゥテルテ大統領が副大統領選で勝利して就任した場合、就任そのものは憲法違反とはならない。 しかし、副大統領在任中に新たに選ばれた大統領が健康上の理由や死亡、弾劾など何らかの理由で「大統領としての職務を履行することが困難になった」場合、副大統領がその職務を継ぐことになっており、そうなると「大統領の再選禁止規定」に抵触し、憲法違反になるというのだ

 


ドゥテルテ大統領が、副大統領選立候補を断念した理由は下線部にある。仮に、大統領が任期中に辞任する場合、副大統領がその任期を継ぐが、ドゥテルテ氏は大統領経験者であり憲法違反になるのだ。こういう事態を避けるには、ドゥテルテ氏は副大統領選で立候補しないことである。

 

(4)「フィリピンでは、1998年10月に就任した俳優出身のジョセフ・エストラーダ大統領が不正蓄財疑惑を議会で追及され、その結果弾劾動議が成立した。これを受けてエストラーダ大統領は任期半ばで退陣に追い込まれ、グロリア・アロヨ副大統領が大統領に昇格して残る任期を務めた事例がある。もちろんこのとき、アロヨ副大統領は大統領経験者ではないため、憲法違反を問われることはなく、規定通り大統領昇格となった。今回のドゥテルテ大統領の副大統領への出馬は、もし当選した場合に任期6年間の間に「大統領が職務不能」に陥った際、規定通りの「副大統領の大統領への昇格」が「憲法違反」に問われる可能性があり、その疑問が世論調査の結果にも反映されているというのだ」

 

フィリピンでは、大統領が弾劾され辞任して副大統領が昇格した例がある。

 

(5)「ドゥテルテ大統領が、憲法違反の可能性が指摘されながらもあえて副大統領当選を狙う真意についてフィリピンの各種マスコミは、「権力の中枢に留まることで政治的影響力を維持したい」との見方で大筋一致している。ドゥテルテ大統領には就任直後から積極的に推進してきた麻薬関連犯罪摘発で、現場での警察官による司法手続きを経ない容疑者の射殺という「超法規的殺人」を黙認してきたとして人権団体や国際機関から人権侵害と厳しく批判されてきた経緯がある。国際刑事裁判所(ICC=本部オランダ・ハーグ)も9月15日にこの「超法規的殺人」に関して本格的な捜査開始を許可している」

 

ドゥテルテ大統領が、憲法違反の可能性が指摘されながらもあえて副大統領当選を狙う真意について、刑事訴追を免れるためと説明されている。

 

(6)「大統領候補としての世論調査では、これまで正副大統領いずれへの出馬をも表明していないドゥテルテ大統領の長女、ミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長が20%と依然としトップの支持率を維持し、2位はマルコス元大統領の長男、フェルナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン・マルコス)氏の15%と続き、以下俳優出身のマニラ市のイスコ・モレノ市長の13%、プロボクサーのマニー・パッキャオ上院議員の12%と続いている」

 

フィリピン大統領選では、出馬の意思を示していないドゥテルテ大統領の長女が、世論調査ではトップの支持率20%を得ている。マルコス元大統領の長男が15%で2位だ。プロボクサーのマニー・パッキャオ上院議員は先ごろ、現役引退を発表した。パッキャオ氏はボクシング世界4階級を制覇した「英雄」である。野党候補である。