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中国の金融状況は、予断を許さない事態に陥っている。通常の銀行融資以外の新規株式公開、信託会社の融資、債券発行などが含まれる社会融資総量は、9月末に前年比10.0%増に止まった。少なくとも、2017年以来の低い伸びである。8月は10.3%増であったので、9月は0.3ポイントの減少になった。

 

このように、中国の金融情勢は真綿で首を締められるようにジリジリと狭まってきている。中国当局によって、国有銀行25機関に対する民間企業との癒着を調査する影響はまだ出ていないが今後、この要因も加わると見られる。

 

金融機関は、将来の発展性の認められる企業には積極融資をしたい。それが、「癒着」と誤解されて罰則対象にされれば、大変に不名誉な事態になる。こうして、金融機関本来のリスクを冒してまで融資する可能性が消えるのだ。中国経済にとっては、大きな損失になろう。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月13日付)は、「中国金融機関の癒着調査、問題の半分は手つかず」と題する記事を掲載した。

 

中国の不動産セクターに混乱が広がり、「共同富裕」が中国資本主義の新たな標語となる中、規制の風波が金融業界に及ぶのは時間の問題だった。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が11日報じたように、今回の調査は今月から始まり、25の主要金融機関が対象となっている。

 

(1)「中国政府は金融機関、規制当局、そして民間有力者の近過ぎる関係が、不動産大手の中国恒大集団の債務問題や、配車サービス大手の滴滴出行、フィンテック企業アント・グループなどハイテク企業の異様に迅速な上場プロセスにつながったと考えている。そうした疑念は確かに正しいかもしれない。しかし、中国政府が金融システム全体をより生産的な方向に導くための適切な政策を持っているかどうかは明確ではない。政府はハイテク分野の競争促進に改めて力を入れているが、それが銀行分野には当てはまらないことを踏まえればなおさらだ」

 

中国政府は、民間有力企業と国有銀行が癒着していなかったどうか、に目を光らせている。中国恒大には、国有複合企業の中国中信集団が肩入れしていたことから、過剰な債務依存経営に走ったと見られている。これをきっかけにして、民間企業との癒着構造を摘発する構えである。

 


(2)「中国の銀行は国有企業と親密なことで知られる。民間の大口債務者、特にこれまで「大き過ぎてつぶせない」とされてきた借り手が、商業的に疑問のある融資を受けていたことは疑う余地がない。中国恒大は最近、同社の事業資金を援助していた地方銀行の盛京銀行の持ち株20%近くを、地元の国有企業に15億ドル(約1700億円)で売却した。盛京銀行は現在、この株式売却益を融資の返済に充てるよう中国恒大に要求している。中国の国有複合企業、中国中信集団(CITIC)も、中国恒大に積極的に融資してきた企業だ。中国恒大の本社がある深圳に近い中信銀行の広州支店の元支店長は現在、調査の対象となっている」

 

中国恒大の創業者は、農家出身でありながら才覚を生かして、中国不動産開発企業で2位にまで上り詰めた。その間、随分と無理をしてきたのだろう。その過程が、これから丸裸にされようとしている。あちこちに「怪我人」が出るにちがいない。

 


(3)「(当局の癒着調査で)金融機関に恐怖心を植え付け、不良債権を抑制するのは結構なことだ。ただ、それと同じくらい重要なのは、いかにして金融機関に優良な融資をさせるかである。改革計画が依然として弱く見えるのはその点だ。とりわけ、汚職取り締まりによって銀行はリスクを取ることをさらに嫌うようになるかもしれない。中国の大手銀行は、自分たちは絶対につぶれないという認識と、競合他社が競争のために預金金利を引き上げることへの厳しい制限に、長らく恩恵を受けてきた。その結果、大手銀行は他の金融機関や、大き過ぎるか政治的な重要性によってつぶせないと思われる企業への融資で安易に稼ぐことを好み、どの中小企業なら賭ける価値があるのか自ら考えることはしなかった」

 

下線部が、中国の金融機関の鋭敏な信用創造能力を奪う危険性を示唆する。銀行業の務めは、成長性のある企業への融資によって発展の機会を与えることである。その機能を奪ってしまえば、金融機関は単なる「資金配分機関」に堕す。中国では、これからそのリスクが発現しそうである。

 

(4)「このようなことは、より平等主義的な社会や大企業によるレントシーキング(自らに有利になるような法制度や政策の導入・変更を政府に働きかけ、利益を追求すること)の抑制を求める声とは明らかに一致しない。規制当局は中国の銀行セクターに競争を導入しようとするのではなく、むしろ預金金利の実質的な上限を維持している。今回のキャンペーンで、中国政府が悪玉を捕まえるであろうことは間違いない。ただし、腐敗している金融セクターの核心部分にとっては、より強力な薬が必要である」

 

「角を矯めて牛を殺す」という言葉がある。銀行と企業との癒着は許されないが、余りに厳格にやり過ぎれば、「沈香(じんこう)も焚()かず屁()もひらず」になる。つまり、平凡な金融機関に終わってしまう危険性が高まるのだ。そのバランスをどう取るのか。中国は、難しい局面にきている。