a0960_006640_m
   


中国も落ちぶれたものである。不動産バブルを収拾する能力を失っているからだ。中国当局は、中国恒大の創業者・許家印氏に対し、個人資産をなげうって債務を処理するように指示したという。当局は、これまでの恒大による高成長で雇用を維持し、税収をたっぷりと吸い上げたはずであるが、最後は逃げの姿勢である。

 

恒大の巨額債務(約3000億ドル)は、中国当局の処理できる範囲を超えてしまったのだろうか。これは、当局で責任問題に発展していることを示唆している。許氏の資産が、恒大の債務削減にある程度の寄与ができるほど大きいのか、また資産に流動性があるかは不明であるという。ブルームバーグ・ビリオネア指数の見積もりによると、許氏の資産は2017年の420億ドル(約4兆7900億円)から約78億ドルにまで減少しているが、この数字にはかなりの不確実性があるという。『ブルームバーグ』(10月27日付)が報じた。

 


早くも、許氏の資産が取沙汰されているのは、金融機関がどれだけ恒大債務を負担するかという事態に入っているのであろう。互いに、相手の金融機関へ少しでも恒大債務を押し付けようと逃げ回っているにちがいない。醜い光景である。

 

『ニューズウィーク 日本語版』(10月27日付)は、「叫ばれ始めた『中国台頭の終焉』 ポスト中国の世界を(一足先に)読むと.....」と題する記事を掲載した。筆者は、元外交官の河東哲夫氏である。

 

大手民間IT企業に対する締め付け、30兆円超規模の負債を抱えた不動産大手の苦境、そして相次ぐ停電――。中国の集権経済は、逆回転を始めた。中国の長い歴史では、皇帝の権力維持が至上命令。台頭する商人は抑えられ、役人は民がどんなに困ろうが皇帝の指示を大げさに遂行することで昇進を図る。今回もその伝で、共産党政権は政治優先。金の卵を産む鶏=経済を絞め殺し始めたのだ。

 

(1)「その折に、『フォーリン・ポリシー』誌(10月1日付)は、「中国崛起(くっき)の終焉」と題する記事を掲載。「中国の台頭」が頭打ちになったと指摘し、それを前提に戦略を組み立てることを提唱した。隣国の日本としても中国の後退で何がどうなるのか、頭の体操をしておかないといけない。まず極端なシナリオから行くと、経済の後退をきっかけに中国国内で権力闘争が起きて中央権力が真空化する場合、何が起きるかだ。1991年のソ連では、ゴルバチョフとエリツィンが対立して権力が麻痺したが、その空隙(くうげき)を利用してバルト諸国などいくつかの民族共和国は独立した。中国でも、モンゴルや新疆ウイグル、チベットや香港で同様の事態は起きるだろうか?」

 

中国で、経済が疲弊すると内部で権力闘争が起る。今回も、同様の習派と反習派が争うのであろう。中国経済は,2010年がピークでありその後、下降状況に入っている。すでに、この状態は10年を過ぎた。中国経済の抱える矛楯が現在、顕著になっているのは当然であろう。国内の締め付けは、それを反映している。


 

(2)「ソ連邦の各民族共和国では多くの場合、地元民族が統治・利権構造をつくり上げ、ロシア人は外部から来てそのトップに座っていたにすぎない。だからその民族は独立後、直ちに統治を始めることができた。中国のそれぞれの地域では「漢民族」の人口比率も高くなっていて、彼らのグリップはしっかり利いているようだ。だから、北京の権力が真空化すれば、地元の共産党書記(漢民族)が税収を押さえ、地元の軍・武装警察勢力を従えて自分の権力保全を図るのではないか?」

 

中国では、北京の権力が真空化しても、地方の共産党が権力を維持するという。だが、財源の5割は、土地売却収入である。経済混乱期に、土地を買う人間はいない。全て「現金」へ集中する。住宅の投げ売りで懐へ現金の束を押し込む。そう言えば、次のような記事が報じられた。

 

中国版ツイッター、微博(ウェイボー)では23日、「上海市で15日、ある謎の男性が同じ集合住宅団地内の93軒の住宅物件を一気に売り出した」との投稿が注目を集めた。物件が地元名門校の学区内にあるため、購入希望者1000人が殺到したという。警官が投入され、警備に当たっていた。所有者は代金の1回支払いを求めた。投稿によると、全物件に同日、買手が付き、所有者は現金4億5000万元(約80億3200万円)を獲得した。『大紀元』(10月27日付)が報じた。不動産バブル崩壊を象徴する話である。

 


(3)「つまり、独立国と言うより軍閥の出現だ。それにより中国は分裂するのか?
 秦朝以後、中国が分裂したのは三国~南北朝時代の400余年、五代十国時代の50余年、そして辛亥革命後17年間の3回だが、分裂期間は縮まっているし、毎回、統一を目指す者が現れている。「中国は一つであるのが常態」という暗黙の了解があるのだ。 次に、経済が悪化すれば失業は増大してインフレもひどくなるから、国中で抗議行動や暴動が起きるだろう。しかしそれらは指導者や組織力を欠き、地元の武装警察に抑えられる可能性が高い」

 

多分、反習派が起ちあがって、共産党政権継続を訴えるであろう。だが、大衆がそれを受入れるかどうかだ。国民投票実施を呼びかけるかも知れない。

 

(4)「中国の周辺はどうなるだろうか? 北朝鮮は中国に代わる経済パートナーを求めて韓国や日本との関係改善を目指すだろう。アメリカはもう、北朝鮮を武力で威嚇することはなくなる。台湾は独立を宣言するだろうが、中国大陸に展開した膨大な生産施設の移転先を探すことになる」

 

日本が、北朝鮮の経済難の機会を生かして、日朝会談に持込む可能性はこれまでも指摘されてきた。日本が、北朝鮮へ賠償を支払い日韓併合時代の後始末を付けるというものだ。その場合、中韓は口出しできないだろうと言われている。台湾は独立する。中国本土の外資による生産設備は、自国へ戻るであろう。中国が台頭する前の姿に、大方は戻るのだろうか。

 


(5)「ロシアは、アメリカと戦うための準同盟国=中国を失うばかりでなく、不安定化した大国を隣国に抱えることになる。ロシア極東やシベリアでは「食えない」ため中国難民が押し寄せることはないだろうが、ロシア極東は1860年まで清朝に服していた地域だ。中国で返還要求を掲げる者が現れるかもしれない。世界でのロシアの立場は総じて今よりも弱いものになるだろう」

 

ロシアは、中国という相棒を失うほかに、シベリアへ中国難民が押し寄せる。中国東北部は、経済的に疲弊している地域なので、難民がシベリアへ流れると想定している。中国が衰退すれば、ロシアの力も弱体化するとしている。

 

(6)「『一帯一路』の沿線諸国では、「カネの切れ目が縁の切れ目」。これまでの中国旋風は嘘のように静まるはずだ。日米同盟もその性格を変える。朝鮮半島や台湾など、西太平洋全体の平和と安定の保証人としての意味を増していくだろう。中国が沈んだからと言ってアメリカとの同盟を捨てるのは短慮だ。たとえ中国が沈んでも、日本は舞い上がらず、戦前のように中国の弱さに付け込むことなく、自国の安全と尊厳と生活だけはしっかりと守っていきたい」

 

これまで、中国が衰退して日本が代わって再浮上するという見方があった。これと、軌を一にしている。超高齢社会の日本が、再浮上する可能性はない。あくまでも、日米同盟を固く守ることだ。