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先の総選挙は、これまでの「常識」を覆す事態がいくつか起った。露出度の高い議員が、選挙区選挙で敗北するケースが相次いだ。国会のテレビ実況が入ると張り切って政府を追詰めた「花形議員」が落選し比例で救済されたケースがいくつかあった。高齢・ベテラン議員も選挙区選挙で苦杯を喫している。

 

従来に見られなかった例だが、有権者年齢を18歳に引下げた効果が出ているのかもしれない。若い有権者から見ると高齢の候補者を敬遠したくなるだろうか。ともかく、これからの選挙では、次第に従来の「常識」が通らなくなる気配である。

 

今回の総選挙では、40歳未満の有権者だけで集計すると、自民党は300議席になるという試算結果が出てきた。選挙区選挙で野党が統一候補を立てれば、有利に戦えるという「幻想」はひっくり返された。この裏には、自民党の成長戦略が有権者の心を掴んだ事実が浮かび上がる。

 


『日本経済新聞』(11月7日付)は、「日本に潜む政治の分断、40歳未満だけ→自民300に迫る/高齢層と女性→過半数下回る 衆院選の投票行動分析」と題する記事を掲載した。

 

米国などでみられる政治の分断が日本にも潜む。衆院選は、事前予想を上回る自民党の勝利だった。出口調査や自治体ごとの得票のデータをひもとくと40歳未満の層で強さが顕著で、高齢者と溝がある。東北や信越の農業が盛んな県で集票力を高める一方、大都市や女性層は勢いがなく、様々な断絶が浮かび上がる。

 

(1)「米国は政治の二極化の様相が強まっている。白人の中高年層は共和党が優勢で、「米国第一」を唱えたトランプ前大統領の誕生の原動力になった。対照的に若い世代は民主党支持が多数を占める。格差是正などを訴える急進左派を支える傾向にある。日本はどうか。衆院選で自民は単独で絶対安定多数の261議席を得たが、背景に40歳未満の強い支持がある」

 

日本でも政治の二極化が起こっているという。自民党が,今回261議席を得た背景には40歳未満の強い支持があったという分析結果だ。これまで、高齢者の政策選択が政策方向を左右するとの議論があった。現実は、勤労世代の政策選択が、日本の政治を動かしているようだ。となると、政党はこの勤労世代をいかに取り込むかという競争になろう。

 

(2)「今回の衆院選について共同通信社の出口調査のデータを用い、世代別や男女別に選挙を実施したらどうなるか試算してみた。全国289の小選挙区について各層別に最も得票の多い候補者を割り出した。比例代表は全11ブロックの各党の回答数をもとにドント方式で階層別に選挙をした場合の議席数を算出した。40歳未満の集計結果で全465議席を配分すると自民が295.5議席になった。実際の261議席を34上回る。立民の枝野幸男代表が勝った埼玉5区、菅直人元首相が取った東京18区も自民が勝つ

 

下線のような前提(40歳未満の集計結果)で議席を配分して見ると、自民は約300議席になるという。このケースでは、立民の枝野氏も菅直人元首相も落選しているという。日本の将来に焦点を合せれば,勤労世代を優遇する政策でないと出生率も向上しないことは明らか。ただ、年配者切り捨てという批判が出てくる。このバランスをどう取るかがポイントだ。ここで、知恵を出した政党が「勝ち馬」となろう。

 


(3)「同じ手法で60歳以上をみると40歳未満と対照的な結果が出た。自民は223議席で単独過半数を維持できない。米国と異なる形で世代間の差が浮き彫りになった。男女別に分析しても自民との距離に違いがでる。女性層の試算で自民は230議席になった。実際より31議席少なく、単独過半数を下回る。地域差も探った」

 

60歳以上の投票行動で全選挙区を推計すると。自民は223議席に止まる。単独過半数を維持できないのだ。女性層だけの試算では、自民が230議席である。自民党は、40歳未満の勤労世代に支えられている結論になる。

 

自民党の政策決定では、年代別の要望を丹念にくみ上げてパズルをつくっている感じが強い。賞味期限切れを回避する、絶妙なマーケティングをしていることは事実だろう。これに比べると、野党は頭だけの判断による古いパター踏襲である。マーケティングの立場から見れば、顧客が最も嫌う組み合わせだ。有権者のニーズを分析せず、昔の勘で勝負しているように見える。

 


(4)「都道府県別に自民の比例代表の得票率を2017年衆院選と比べると、長野、高知、秋田、山形、福島の各県が6ポイントを超す伸びをみせている。農業が盛んな地域が並ぶ。17年衆院選や19年参院選では環太平洋経済連携協定(TPP)への懸念から農業票が野党に流れたと分析された。今回は傾向が変わった。反対に得票率が下がったのは8府県だった。維新が伸長した近畿は大阪の7ポイントを筆頭に全6府県で下落した。神奈川も低下、東京は上昇幅がわずかで、大都市部は自民に比較的厳しい結果になった」

 

農業の盛んな地域の比例票で自民が伸びたのは、TPP(環太平洋経済連携協定)を機に農産物輸出で成績を残していることであろう。あれだけTPPの被害を訴え、自民党議員の落選運動まで行った地域で自民票が伸びている。成長戦略が、守りの生存戦略を打ち破った例であろう。野党にとっては耳の痛い話である。

 


(5)「若い世代は経済が成長せず、社会保障改革が進まなければ将来負担が膨らみかねない。この危機感が自民支持に傾く背景と考えられる。改革を強調した維新が近畿を中心に伸びた要因とも言えそうだ」

 

若い世代が自民党支持とは、高度経済成長時代にはなかった現象である。自民党は、壮年と高齢者が支持者の主体であった。それが今、顧客の入れ替わりに成功している。老舗が、新しい商品を開発して新たな顧客を掴んだ。驚くべき変化かも知れない。

 

(6)「一方で社保改革のあおりを受けかねない高齢者は分配志向の野党への支持を強めたとみられる。新型コロナウイルス禍で雇用や生活の打撃が大きい女性、感染が広がった大都市部は政権不信が根強い可能性がある。22年夏には参院選がある。経済成長で未来への希望を示しつつ、苦境にあえぐ層をどう救済するのか。衆院選で垣間みえた分断の芽を摘むことができなければ、米国のような政治の二極化、民主主義の危機ともいえる状況が日本でも進みかねない」

 

大都市有権者は、コロナ禍で孤独になって「悪いのは自民党」という選択になったのであろう。この層も、コロナ禍が回復して経済が正常化すれば、「自民党店」に戻る可能性もある。野党の生きる場所が、しだいに狭められる不安がするのだ。