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中国が、「戦狼外交」で威張り散らしている間に、EUの対中国観は一変した。EUの大国・ドイツは、これまでメルケル首相の「親中政策」でEUを牽引してきた。そのメルケル氏の退任で,中国を応援する国はなくなった。

 

EUは、代わって台湾へ熱い眼差しを向けている。台湾は、半導体生産で世界トップを行く。民主政治でありながら、中国から軍事的に威嚇されている。こういう台湾に対して、EUは「中国より台湾」というムードが高まってきたのだ。中国にとっては、思っても見なかった事態が展開している。

 

『ニューズウィーク 日本語版』(11月17日付)は、「中国の怒りを買おうとも EUの台湾への急接近は 経済的にも合理的な判断だ」と題する記事を掲載した。

 

去る11月3日、欧州議会の公式代表団が史上初めて台湾に足を踏み入れた。欧州議会の「外国の干渉に関する特別委員会」の面々は台湾に3日間滞在し、総統の蔡英文(ツァイ・インウェン)や行政院長(首相)の蘇貞昌(スー・チェンチャン)、立法府(立法院)を代表する游錫堃(ヨウ・シークン)らとの協議に臨んだ。

 


(1)「10月末にも、やはり史上初めて台湾外交部長(外相)の呉釗燮(ウー・チャオシエ)がブリュッセルで、9カ国を代表する欧州議会議員や複数のEU本部当局者(個人名や肩書は公表されていない)と「非政治的レベル」の協議をしている。こうした相互訪問は前例のないもので、欧州の台湾政策における大きな変化を示唆している。これまで欧州議会や加盟国の一部が主張してきた路線を、欧州委員会や(加盟国全体の外交政策などを調整する)欧州対外行動庁も支持するようになってきた」

 

EUと台湾の交流が、軌道に乗り始めた。経済面での協力関係がスタートする。EUと中国の包括的投資協定の批准が棚上げされる一方で、EUと台湾の投資問題が取り上げられる雰囲気になっている。

 

(2)「その背景には、民主主義の友邦である台湾を支えるためなら政治的にも経済的にも投資を惜しまないという欧州側の意思がある。それは経済的な利益にもなり、台湾海峡の現状を守り平和を保つことにも役立つ。台湾にも欧州にも攻撃的な姿勢を強める中国に対し、ひるまず剛速球を投げ返す姿勢だ。10月には欧州議会が、台湾との関係を強化し「包括的かつ強化されたパートナーシップ」の確立を求める決議を採択している。そこにはEUと台湾の投資協定や、各種の国際機関で台湾が果たす役割を強化することへの支持、科学や文化、人材面での交流の拡大、メディア・医療・ハイテクなどの分野での協力推進などが含まれる

 

中国が、EUと台湾と対立している間に、これら両者は幅広い協定を結ぼうとしている。中国は、威張り散らしている間に、果実を台湾にとられてしまった感じだ。

 


(3)「さらに注目すべきは、長年にわたり中国政府の怒りを買うことを懸念して台湾との関係強化に消極的だった欧州委員会や欧州対外行動庁が、この決議に賛同したことだ。外相に当たる外交安全保障上級代表のジョセップ・ボレルもマルグレーテ・ベステア上級副委員長(競争政策担当)も支持に回った。これは欧州議会における親台勢力、とりわけドイツ選出のラインハルト・ビュティコファー議員らにとって目覚ましい勝利だ。中国政府は激しく反発するだろうが、彼らの提案は伝統的な「一つの中国」政策の枠組みを全く崩していない。台湾の独立を支持しているわけではなく、むしろ台湾海峡の現状の維持を唱えている」

 

欧州でいう「一つの中国」は、本土と台湾の「共存」である。本土が台湾を威嚇することは、「一つの中国」の精神に反するという見方だ。欧州は、この見解に立って台湾海峡の現状維持に務めなければならない、という論理の展開をする。中国は見事に一本、EUにとられた感じだ。

 

(4)「欧州議会の採択した決議の内容は全て、従来の「一つの中国」政策の範囲内に収まる。要は今までの解釈が狭すぎただけだ。ビュティコファー議員は2020年9月に同僚議員や有識者と連名で発表した寄稿で、欧州が「一つの中国」を支持すべき理由をこう述べている。今は中国政府が「新たな台湾政策を通じて、現状の維持を極めて危うくしている」が、だからこそ「欧州諸国は従来の台湾政策を変え、(台湾海峡の)現状維持に努めなければならない」と。ビュティコファーらに言わせると、台湾はこの数十年で「開かれた複数政党制の統治形態へと進化し、個人の尊厳を重んじる」民主主義の友邦となった。だから欧州の支持・支援を得るに値する」

 

EUは、台湾が民主主義の友邦であるという認識である。中国にとっては,痛いところだ。今回の中国「歴史決議」では、中国が欧米民主主義を採用しないと宣言している。これでは、EUと台湾の密着を非難する根拠がなく、自ら漂流する道を選んだに等しい。

 

(5)「実は経済的な理由もある。台湾の人口は2400万、市場として小さくはない。それにハイテク産業の基盤があるから、協力すれば経済的にも科学的にも双方に利がある。いい例が台湾積体電路製造(TSMC)だ。この会社は半導体の世界生産の半分以上を占めている。だからこそEU幹部のボレルもベステアも、台湾は「欧州半導体法の目標達成にとって重要なパートナー」だと言っている。この法律は半導体の設計から製造に至る全過程(バリューチェーン)で欧州勢のシェア拡大を目指している」

 

EUにとって台湾の存在は、半導体製造において願ったり叶ったりである。台湾は、EUにとって半導体の重要パートナーになる。

 

(6)「皮肉なもので、欧州の台湾接近を主張するビュティコファー議員に共鳴する仲間が増えたのは、中国政府のおかげでもある。中国のこれまでにない攻撃的な姿勢こそが、欧州各国にビュティコファー議員の望むアプローチを支持させた最大の要因だ。例えば中国が香港における「法の支配」を踏みにじったこと。あれを見れば、台湾に「一国二制度」が適用されるとは思えなくなる。今では多くの政治家が、こう考えている。もしも台湾海峡の現状を変えるために武力を行使すれば欧州との政治的・経済的な関係は壊滅的な打撃を受けるぞ、と中国に警告し、軽率な行動を慎むようクギを刺す必要がある、と。一方で最近の中国政府は欧州に対し、これまでになく敵対的な姿勢を見せている。こうなるとEUとしても台湾支援を急がざるを得ない

 

EUの中には、中国に対して台湾海峡の現状変更に反対する旨を警告すべき、という議論を生んでいる。下線部は、従来見られなかったEUの姿勢である。

 

(7)「この先に必要なのは、欧州議会の決議を支持するよう加盟各国に働き掛けること。そして仮に中国が台湾に攻撃を仕掛けた場合には団結して強力に対応する用意があると表明することだ。既に中東欧の一部加盟国は台湾政策を大きく転換している。この動きに、欧州の諸大国も続くべきだ。中国寄りだったアンゲラ・メルケル首相が去り、新たな枠組みの連立政権が誕生するドイツには、主導的な役割を果たすチャンスがある。連立協議中の3党は全て、台湾との関係拡大を公約している

 

ドイツの次期政権を担う3党は、台湾との関係強化を公約している。ドイツの「親台姿勢」は、中国にとってショックであろう。